第1章:反逆の咆哮、泥に塗れた救済

ゴォン、ゴォン、と重苦しい鐘の音が、低く垂れ込めた鉛色の空に反響する。
逃げ場のない石造りの広場。そこに充満しているのは、錆びた鉄の生臭さと、押し寄せた群衆が吐き出す淀んだ吐息だ。
帝国聖府中央大聖堂。
その荘厳にして冷酷な処刑台の、冷え切った石畳の上に、彼女は屈辱的に跪かされていた。
絹糸のように細く、どこまでも美しいプラチナブロンドの髪。それが凍てつく冬の風に乱され、痛々しく白皙の頬を打つ。
かつて純白を誇った聖女の巡礼衣は、無惨にも裾が引き裂かれていた。泥と、苛烈な戦闘が残した焦げ跡で真っ黒に煤けている。
細い手首に容赦なく食い込んだ、魔導の鉄枷。
擦れた傷口からじわりと滴る鮮血が、吸い込まれるほど深淵なサファイアブルーの瞳に、暗い影を落としていた。
「罪人ルクレツィア! 世界を滅ぼす邪竜の器め!」
「神罰を下せ! 穢れた血を今すぐ流せ!」
浴びせられるのは、盲目な正義に酔いしれた民衆の罵声。
千人規模の帝国魔導兵が、まるで鋭利な槍の穂先のように、冷酷な魔導の照準を彼女の心臓へと定める。
ギィ、と不快な軋みを上げて、断頭台の鈍色に光る刃が持ち上がった。
それは今まさに重力に従い、すべてを断ち切るために落下しようとした――その刹那。
[Shout]ガシャンッ!!![/Shout]
天を覆う大聖堂の、重厚なステンドグラスが、けたたましい音を立てて粉砕された。
きらきらと降り注ぐ色とりどりのガラス片。その極彩色の雨を突き破り、一つの黒い影が、地を穿つ弾丸のように落下してくる。
[A:アルス・ラインハルト:興奮][Shout]「そこをどけェェッ!!!」[/Shout][/A]
黒煙を上げて割れた石畳。
そこに立っていたのは、泥と、敵の返り血にまみれた黒い軽装鎧を纏う男だった。
無造作に伸びた癖のある黒髪が、吹き荒れる戦場の風に荒々しく揺れる。
髪の隙間から覗くのは、燃え盛る篝火のような琥珀色の瞳。獲物を絶対に逃さないという狂気的な光を孕み、ぎらぎらと周囲を睨みつけている。
アルス・ラインハルト。
魔力を一切持たないがゆえに、神に棄てられたと忌み嫌われた、辺境開拓村の不適合者。
背負った巨大で、あまりにも肉厚な大剣を両手で引き抜く。
彼は、その鉄塊をただの腕力だけで振り下ろし、迫る処刑台の刃を石畳ごと微塵に粉砕した。
「な、なんだ貴様は! どこから入り込んだ!」
「魔力反応なし! ただの泥虫だ! 構わん、塵一つ残さず焼き尽くせ!」
指揮官の怒号。
四方八方から、殺意を帯びた業火と、空間を凍らせる氷槍がアルスへと降り注ぐ。
だが、彼は、理不尽極まる死の物量にも微塵も怯まない。
ニィ、と凶悪に唇を歪め、爆発的な脚力で地を蹴った。
[Impact]体内の魔力、完全ゼロ。[/Impact]
それは魔導を至高とするこの世界の理に逆行する、極限の異端。
大剣が空気を鋭く引き裂く。
魔力を完全に遮断する漆黒の鋼刃が、迫り来る炎の壁を、まるでありふれた紙切れのように一刀両断に叩き斬った。
「ば、馬鹿な! 魔法が、消された……!?」
どよめく兵士たち。
防ぎきれなかった熱風がアルスの皮膚を焦がし、浅く裂けた傷口から熱い血が噴き出す。
それでも、彼の歩みは止まらない。
這いつくばり、泥水を啜ってでも進む野獣のように。一直線に、祭壇の頂へと突き進む。
[Pulse]ドクン、ドクン。[/Pulse]
全身を駆け巡る血液の、熱い脈動。
口内に広がる鉄の味を噛み締めながら、アルスはルクレツィアを戒める太い魔導の鎖へ、渾身の力で大剣を叩きつけた。
[Flash]金属が弾け飛ぶ甲高い破壊音が、広場全体を震わせる。[/Flash]
[A:アルス・ラインハルト:興奮]「迎えに来たぞ、ルクレツィア!」[/A]
砕け散る魔導の破片。
崩れ落ちる少女の、折れそうなほど細い肩を、アルスはがっしりと抱き留めた。
そして、周囲を包囲する数多の魔導兵たちを、狂犬のごとき眼光で睨めつける。
琥珀色の瞳に宿る、狂気的なまでの執念。
それは、対峙する千の軍勢を、束の間、恐怖によって完全に沈黙させた。
だが、突如として、その熱狂の空気が凍りつく。
ぐにゃりと空間が歪んだ。
世界そのものが鋭く削り取られるような、圧倒的な圧迫感。
ハサッ、と金糸の刺繍が施された漆黒の重厚な魔導外套が、風もないのに静かに翻る。
アッシュグレーの短い髪。
すべてを見透かし、支配するかのような、冷徹に光る深紅の瞳。
帝国軍最高魔導帥、ヴァルハイト・フォン・エステル。
[A:ヴァルハイト・フォン・エステル:冷静]「……不条理を嘆く時間があるなら、その無価値な命を世界のために差し出せ」[/A]
絶対強者の、一切の感情を排した声。
禍々しい漆黒の魔導杖が、容赦なく、アルスの眉間へと向けられた。
第2章:死を望む聖女と、呪いを背負う男

太古の静寂が支配する森には、白く深く、重苦しい霧が立ち込めていた。
肺に吸い込む空気は、湿った腐葉土の匂い。そして、アルスの傷口からとめどなく流れ落ちる、生臭い血の匂い。
ヴァルハイトが放った一撃。その絶対的な死の軌道を辛くも掻い潜り、命からがら逃げ込んだ樹海の奥深く。
大樹の根本にドサリと崩れ落ちたアルスの姿を見て、ルクレツィアは息を詰まらせ、声にならない悲鳴を上げた。
黒い軽装鎧は胸元から脇腹にかけて半ばから裂けている。
その裂け目から、どす黒い血液が、絶え間なく溢れ出て地面を汚していた。
[A:ルクレツィア・フォン・エステル:悲しみ][Tremble]「どうして……どうしてここまでして、私なんかを……!」[/Tremble][/A]
震える指先が、彼の生々しい傷口に触れようとしては、躊躇うように空を切る。
彼女にかけられた呪い。
それに対抗する自身の最高位治癒魔法は、発動するたびに使い手の寿命を著しく削る。
アルスがそれを、命に代えても絶対に許さないと知っているからこそ、手を出せない。
[A:ルクレツィア・フォン・エステル:絶望]「私を置いて逃げてください! 私の心臓には、世界を滅ぼす呪いが眠っている。生きているだけで、私はあなたを殺し、この世界を壊してしまう!」[/A]
ポロポロと、大粒の涙が彼女の頬を伝い、プラチナブロンドの髪を濡らしていく。
光の届かない冷たい牢獄で、ただ死を待つために感情を殺し続けてきた彼女。
その胸の奥底から搾り出された、痛切な、悲痛な叫び。
[A:ルクレツィア・フォン・エステル:悲しみ][Shout]「だから、お願い……私をここで殺して!」[/Shout][/A]
[Sensual]
その悲痛な叫びを遮るように、力強い、しかし酷く不器用な腕が、ルクレツィアの細い体を強引に引き寄せた。
[Pulse]ドクン。[/Pulse]
血に濡れた、焼けるように温かい胸板。そこに無理やり顔を埋められる。
鼻腔を貫くのは、濃密な鉄の匂い。
そして、全身を狂おしく包み込む、むせ返るようなアルスの熱気。
あまりの熱量に、ルクレツィアの背筋が、びくりと小さく痙攣した。
[A:アルス・ラインハルト:愛情][Whisper]「……馬鹿野郎」[/Whisper][/A]
すぐ耳元で響く、低く掠れた、だがどこまでも優しい声。
痛みを必死に堪えるようなその息遣いが、彼女の首筋に触れ、全身の産毛を逆立たせる。
[A:アルス・ラインハルト:愛情]「世界がどうなろうと、そんなこと知ったことか。俺は神様を救うためにこの剣を振ってるんじゃねえ」[/A]
泥にまみれ、傷だらけになったアルスの大きな手が、彼女の華奢な背中を、まるで壊れやすいガラス細工を扱うように愛おしく撫でる。
ドクドクと伝わる彼の激しい心音。
その圧倒的な生の鼓動が、ルクレツィアの胸の奥で、頑なに凍りついていた氷をじわりと溶かしていく。
[A:アルス・ラインハルト:愛情]「泣いているお前という、たった一人の、不器用で泣き虫な女の子を救うために俺はここにいるんだ。お前の命が呪いだっていうなら、その呪いごと、俺が一生背負ってやる!」[/A]
骨が軋むほどの、情熱的な抱擁。
熱を帯びた琥珀の瞳にまっすぐ見つめられ、ルクレツィアの瞳から、堰を切ったように涙があふれ出た。
生まれて初めて、他者の温もりに触れた。
生きたい。この人と、一秒でも長く――。
生まれて初めて、そんな許されない贅沢を願ってしまった。
[/Sensual]
だが、そのささやかな、あまりにも美しい願いが芽生えた、その瞬間だった。
ガサ、と音がしたかと思うと、二人の周囲にある巨大な古木が、音もなくサラサラと黒い砂に変形して崩れ落ちていく。
[Impact]すべてを無に帰す、「虚無」の黒い輝き。[/Impact]
上空から、重力に逆らうように静かに舞い降りる漆黒の外套。
ヴァルハイト・フォン・エステルが、その深紅の瞳に氷のような冷徹さを湛え、慈悲の欠片もなく二人を見下ろしていた。
第3章:虚無の刃、歪んだ愛の真実

[A:ヴァルハイト・フォン・エステル:冷静]「無駄な足掻きだ、泥虫。それ以上、その汚れた手で我が妹に触れるな」[/A]
黒石の魔導杖から放たれる、光すら吸い込む黒い閃光。
アルスは反射的にルクレツィアを背後に庇い、大剣を両手で泥の中から振り上げる。
魔力を完全に無効化する鋼の刃が、消滅の黒き光と激突した。
バリバリと、空間を焼き裂く凄まじい火花と、すさまじい衝撃波が周囲の森を容赦なく吹き飛ばしていく。
だが、接触した物質を分子レベルで分解する虚無魔術は、防御の上からアルスの肉体を侵食し、じわじわと削り取っていく。
腕の皮膚が焼けただれて消滅し、その下にある赤い筋肉の線維が剥き出しになる。
激痛。脳を揺らすほどの苦痛に、アルスの奥歯がみしり、と不快な音を立てて砕けそうになる。
それでも、彼の足は一歩も後ろへ引かない。
[A:ヴァルハイト・フォン・エステル:冷静]「お前は何も分かっていない。ルクレツィアの心臓に眠る『終焉の蛇』は、彼女が激しい感情を抱き、幸福を、つまり生への執着を実感した時にこそ完全な覚醒を迎える。お前が彼女に希望を与え、生きたいと願わせる行為そのものが、世界を崩壊させる最悪の引き金なのだ」[/A]
一切の揺らぎのない冷徹な声が、不気味に静まり返った森に響き渡る。
ルクレツィアはハッと息を呑み、自らの胸元を、爪が皮膚に食い込むほど強く握りしめた。
兄はずっと知っていたのだ。
自分が希望を抱くこと、誰かを愛することこそが、世界に破滅をもたらすトリガーであることを。
[A:ヴァルハイト・フォン・エステル:悲しみ]「ゆえに、私はこの手で、最愛の妹を殺し、世界を救う。それこそがエステル家に課せられた義務であり、この哀れな生贄に対する、唯一の兄としての救済だ」[/A]
一分の隙もない、鉄仮面のようなヴァルハイトの顔。
それが、ほんの一瞬だけ、引き裂かれるような苦痛に歪んだように見えた。
だが、杖から容赦なく放たれる、視認すら不可能な、空間を削る消滅の魔力刃。
その鋭利な死の標的は、アルスではなく、まっすぐにルクレツィアの心臓へと定められていた。
彼女は絶望に喉を詰まらせ、静かに、その運命を受け入れるように目を閉じ――。
だが。
[Shout]グチャッ!!![/Shout]
肉が裂け、骨が砕ける生々しい音が響く。
刃が彼女の胸を貫く、その寸前。
アルスが吠えながら左手を突き出し、素手でその不可視の消滅刃を、強引に鷲掴みにしていた。
[Impact]消滅の魔力が手のひらの肉を削り、骨を軋ませ、赤い鮮血が派手に爆散する。[/Impact]
血を噴き出し、骨が見えようとも、アルスは決してその手を離さない。
[A:アルス・ラインハルト:怒り][Shout]「希望を持つことが、誰かを愛することが罪だと、一体どこのどいつが決めた! そんな狂ったルールごと、俺がこの世界を叩き斬る!」[/Shout][/A]
血まみれの口元を釣り上げ、アルスは狂った野獣のように咆哮した。
その琥珀色の瞳の奥に、消えることのない不屈の光がギラギラと輝く。
ヴァルハイトの、感情を排していた深紅の瞳が、驚愕に初めて微かに見開かれた。
その刹那。
完全に虚を突かれた死角から、空間を無理やり引き裂くようにして、異形の影が現れた。
泥のように黒く、這いずるような呪詛の腕。
それが、ヴァルハイトの胸を、背後から躊躇なく貫いていた。
第4章:血濡れの涙、託された未来

「ギィヤァァァハハハハッ!!! 傑作だ! 実に傑作だなァ!」
耳をつんざくような、神経を逆撫でする狂笑。
姿を現したのは、暗黒の魔導結社「深淵の使徒」の神官。
世界を神の予言通りに滅ぼそうと企む狂信者たちにとって、ルクレツィアが安楽死を遂げることなど、甚だ都合が悪かったのだ。
胸からどす黒い呪いの腕を生やされ、ヴァルハイトはゴフッと大量の鮮血を吐き出す。
漆黒の魔導外套が、自らの血で、より深い闇の色に染まっていく。
そのまま、崩れるように膝から折れた。
[A:ルクレツィア・フォン・エステル:恐怖][Shout]「お、お兄様っ……!!」[/Shout][/A]
思わず手を伸ばそうとするルクレツィア。
だがその瞬間、彼女の脳内に、使徒が放ったおぞましい精神汚染の泥が津波のように流れ込む。
[Glitch]ザザッ……ガガガッ……[/Glitch]
視界が狂う。
己の無力さ。そして、たった一人の肉親である兄が、目の前で無残に血に染まり、崩れ落ちていく光景。
ルクレツィアの心拍数は限界を突破し、その胸の奥底で、黒い心臓がドクン、ドクンと爆発的な膨張を開始する。
「素晴らしい! 最低のドブネズミと、最高の暴走だ! 終焉の蛇よ、今こそその這いずる体を現し、世界を喰らい尽くせ!」
使徒が歓喜に身体を震わせる中。
死の淵に立たされたヴァルハイトが、震える、血に染まった指先を動かした。
[Impact]「……我が前で、我が妹を汚すな、下郎が」[/Impact]
彼が最後の一瞬。己の命そのものと、残された全魔力を限界まで燃やし尽くし、放った究極の魔術。
《虚無の結界》。
圧倒的な、光すら歪める重圧が空間を支配し、狂喜していた使徒の動きを一時的に完全に封じ込めた。
アッシュグレーの髪を泥と血に汚しながら、ヴァルハイトは、血に濡れた涙を零し、アルスを静かに見上げた。
冷酷な仮面が剥がれ落ちたそこにあったのは。
ただ一人の、妹の幸せを誰よりも願っていた、無力な兄としての素顔だった。
[A:ヴァルハイト・フォン・エステル:悲しみ][Whisper]「……私は、ルクレツィアに生きてほしかった。だが、私には……世界を敵に回してまで、彼女を守る勇気が、力がなかった……」[/Whisper][/A]
弱々しい吐息と共に、その深紅の瞳から、急速に光が失われていく。
[A:ヴァルハイト・フォン・エステル:愛情]「お前なら……魔力を持たぬお前なら、その不条理を越えられるかもしれない。ルクレツィアを……私の、たった一人の可愛い妹を、頼む……!」[/A]
帝国最強と謳われた魔術師は、最後に、不器用な、酷く優しい微笑みを浮かべ。
そのまま、二度と動かなくなった。
[A:ルクレツィア・フォン・エステル:絶望][Shout]「あ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!! お兄様ぁぁっ!!!」[/Shout][/A]
ルクレツィアの口から、張り裂けんばかりの、悲痛な絶叫が放たれた。
同時に、彼女の全身から、世界を丸ごと呑み込む黒き終焉の嵐が猛然と吹き荒れる。
天を衝くほどの巨大な「終焉の蛇」が、ついにその禍々しい鎌首をもたげた。
第5章:残響の聖剣、赫焉の聖女
天がガラスのようにひび割れ、大地が断末魔のような悲鳴を上げて激しく揺れる。
世界を滅ぼす、文字通りの厄災の化身。
それがルクレツィアの心臓を依代として、今、完全にこの世に顕現しようとしていた。
「ハハハ! 終わりだ! すべては無に帰るのだ!」
結界の中で狂喜乱舞する使徒。
その嵐の真っ只中で、アルスはゆっくりと、折れかけた両足で立ち上がった。
右足の骨は砕けかけ、全身の毛穴という毛穴からは、どす黒い血が噴き出して泥に混ざっている。
だが、その琥珀色の瞳は。
世界を滅ぼす破滅の竜巻を前にしても、微塵の揺らぎも、絶望の色も浮かべていなかった。
ただ静かに、愛用の無骨な大剣を、ボロボロの両手で握りしめる。
[Pulse]ドクン……ドクン……![/Pulse]
彼は自身の肉体のリミッターを完全に破壊し、体内の「無魔力」という名の絶対的深淵を暴走させた。
周囲に渦巻くあらゆる濁った魔力、呪い、そして終焉の破壊エネルギーすらも。
魔力を持たない異端の肉体へと、強引に、ブラックホールのように吸引し、中和していく。
[A:アルス・ラインハルト:狂気][Shout]「ガァァァァァァッ!!! おおぉぉっ!!!」[/Shout][/A]
全身の細胞が瞬時に焼き切れ、内臓が破裂しそうになる、地獄のような激痛。
ルクレツィアから溢れ出る、すべてを消し去る破壊の奔流を、アルスはその身一つで、すべて受け止め、肩代わりしていた。
[A:アルス・ラインハルト:愛情][Shout]「痛むか、ルクレツィア!? だが安心しろ、お前の痛みも、呪いも、全部俺が半分持ってってやる! だから、勝手に死ぬんじゃねえ! 生きて、俺の隣で笑え!」[/Shout][/A]
血反吐を盛大にぶち撒けながら、アルスは爆音と共に大地を蹴った。
虚無の結界から抜け出そうとあがいていた使徒の顔が、驚愕と絶望に染まった。
ただの泥虫が、なぜ動けるのか。なぜ、この終焉の嵐の中で笑っているのか。
[Flash]一瞬。文字通りの、神速の一撃。[/Flash]
魔力を一切帯びない、ただの薄汚れた分厚い鉄の塊が。
使徒の防護障壁ごと、その胴体を斜めに、袈裟懸けに一刀両断した。
悲鳴すら上げる間もなく、霧散する肉体。
そのまま、アルスは一切視線を逸らすことなく、黒い竜巻の中心に捕らわれているルクレツィアへと飛び込んだ。
猛烈な風に抗い、彼女の胸の真ん中に、大剣の柄を力強く押し当てる。
狙うのは、彼女の命ではない。
その心臓の奥深くに寄生している、「終焉の蛇」の核、ただ一点のみ。
[A:アルス・ラインハルト:興奮][Shout]「これで……全部終わりだァァァッ!!」[/Shout][/A]
[Impact]魔力を完全に遮断する、異端の刃。
その特異性が、彼女の心臓を傷つけることなく、魂に絡みついていた「終焉の呪い」だけを完璧に引き剥がし、虚空へと切り裂いた。[/Impact]
キィィィィィンッ! と、耳を劈くような断末魔の絶叫。
終焉の蛇の巨大な影が、光の粒子となってサラサラと崩壊していく。
吹き荒れていた死の嵐は一瞬で霧散し、厚く世界を覆っていた鉛色の雲が、真っ二つに割れた。
差し込む、まばゆい陽光。
そこに広がっていたのは、言葉を失うほどに美しく、果てしなく澄み渡った、本物の青空だった。
光に満ちた世界の中。
全ての力を使い果たし、糸が切れたように倒れ込もうとするアルスの体を。
細い、温かい一対の腕が、今度はしっかりと抱き留めた。
[A:ルクレツィア・フォン・エステル:喜び][Whisper]「……アルス……アルス……っ」[/Whisper][/A]
純白の巡礼衣は泥だらけで、プラチナブロンドの髪もボロボロだったけれど。
サファイアブルーの瞳からこぼれ落ちたのは。
もう、絶望の涙ではなかった。
自分の意思で、この人と共に生きたいと強く願う、温かな、光を反射する涙。
[A:ルクレツィア・フォン・エステル:愛情]「私も……あなたと一緒に、生きたい……っ。どんなに苦しくても、生きていたい……!」[/A]
[A:アルス・ラインハルト:喜び]「ああ……当たり前だ。そのために、俺はここに来たんだからな」[/A]
アルスは血まみれの、それでも温かい手で、彼女の頭をくしゃくしゃと不器用に撫でた。
冷たい大聖堂の神殿でも、血塗られた処刑台でもない。
本物の、どこまでも優しい光が差し込む地平線を見つめて。
理不尽な世界をその手で打ち砕いた二人は、決して離れることのない手をしっかりと繋ぎ、新たな一歩を力強く踏み出した。