第一章: 断罪の夜会と鉄の哄笑
ヴィクター・フォン・ハインリヒ「エレナ・ヴァン・クロムウェル! 貴様との婚約を今この場で破棄する!」
大理石の床に硬質な靴音を叩きつけ、金糸刺繍の豪奢な軍服をまとったヴィクターが壇上から指を突きつけた。
シャンデリアの眩い光が、周囲を取り囲む貴族たちの冷ややかな視線を照らし出す。
プラチナブロンドの三つ編みを揺らし、煤煙と劣悪な機械オイルでど黒く汚れたコルセットドレス姿のエレナは、無言のまま灰青色の瞳を細めた。
頭上に押し上げた真鍮製の防塵ゴーグルが、夜会の灯りを鈍く反射している。
マリアンヌ・ド・ラ・ヴァリエール「怖かったですわ殿下ぁ……エレナ様は防空機関の圧力弁に細工をして、わたくしを亡き者にしようと……!」
桃色の巻き髪を震わせ、幾重ものシルクフリルをまとったマリアンヌがわざとらしく目元を拭う。
香水の甘ったるい匂いが鼻を突き、エレナは小さく息を吐き出して視線を逸らした。
ヴィクター・フォン・ハインリヒ「機械油臭い不気味な女め。その薄汚れた手で次期皇妃の座を狙うなど、身の程を知れ! 国家反逆の罪で直ちに処刑してくれる!」
嘲笑の渦がホールを満たす中、エレナの華奢な背に分厚い帆布で縛り付けられた巨大な鉄塊から、重々しい金属摩擦音が響き渡る。
加圧シリンダー内圧上昇:臨界点突破
ドクン、ドクン、と不気味な脈動が空気を震わせた。
バルザック(重機関破城銃『傲慢なる暴君』)「ヒハハハハ! おいおい聞いたかよエレナ! てめえが三日三晩徹夜で組み上げた安全弁が欠陥だとよ!」
ヴィクター・フォン・ハインリヒ「な、なんだ!? 背中の鉄塊が喋っただと!?」
バルザック(重機関破城銃『傲慢なる暴君』)「元婚約者の脳味噌のシリンダーには、脳漿の代わりにクソでも詰まってんじゃねえのか!」
固定していた帆布の紐が内圧に耐えかねて弾け飛ぶ。
血のように紅く発光する排気弁と、狂ったように回転する真鍮の歯車を剥き出しにした重機関破城銃が、その禍々しい全貌を現した。
第二章: 過熱する薬室、暴かれた欺瞞

ヴィクター・フォン・ハインリヒ「衛兵、撃て! その化け物を奪い取れ!」
一斉に前進した衛兵たちの真鍮鎧へ向けて、巨大な銃身のスリットから猛烈な蒸気の噴煙が迸る。
熱波の炸裂。
迫り来る兵士たちが悲鳴を上げて顔を覆い、ホールの床に次々と転がった。
バルザック(重機関破城銃『傲慢なる暴君』)「気安く触るんじゃねえよクズ鉄どもが! 俺の引き金に触れていいのは、世界でただ一人だけだ!」
エレナは耐熱処理を施された分厚い革手袋で、バルザックの巨大なグリップを力強く握り直す。
オイルに塗れたスカートの裾をわずかに引き、冷ややかに、そして完璧な角度でカーテシーを執った。
エレナ・ヴァン・クロムウェル「私の愛する歯車を狂わせた罪、あなた方の命の全重量をもって償っていただきますわ」
マリアンヌ・ド・ラ・ヴァリエール「ひっ……な、何よその化け物は……! 近寄らないで!」
エレナ・ヴァン・クロムウェル「帝都防空機関の稼働全記録は、バルザックの主記憶蓄圧器に保存されていますの。あなたが南部の鉱山主へ部品を密売するため、意図的に安全弁を外した刻限、バイパス温度、残留指紋、すべて完全一致しましたわ」
マリアンヌ・ド・ラ・ヴァリエール「で、出鱈目ですわ! 殿下、騙されないで! その女が私を陥れようと……!」
バルザック(重機関破城銃『傲慢なる暴君』)「おいエレナ、あのやかましいメス豚をミンチにする準備は万全だぜ。お前の細い指で、俺の薬室の奥まで、たっぷり掻き回してくれよ……」
重低音の響きがエレナの骨を直接震わせ、彼女は堪えきれないように艶めかしく熱い息を吐き出す。
分厚い革手袋を引き抜き、過熱して赤光を放つ薬室のラッチへ、無防備な素手で指先を深く潜り込ませた。
♥ジュッ、と皮膚の焼ける微かな音とともに、甘い痛みが脳髄を突き抜ける。[/Heart]
エレナは身震いしながら安全装置のレバーを限界まで押し倒し、ねっとりとしたオイルの感触を指の腹で味わった。
エレナ・ヴァン・クロムウェル「ええ……全開排気で参りましょう、私のバルザック」
第三章: 破城の咆哮、灰燼の舞踏会

ヴィクター・フォン・ハインリヒ「構わん、撃ち殺せぇぇっ! その女ごとスクラップにしてしまえ!」
雷鳴の如き発砲。
バルザックの巨大なバレルが猛烈な白煙を吐き出し、超高圧蒸気を纏った巨大な徹甲弾が放たれた。
轟音と破壊の嵐。
大理石の支柱が飴細工のようにぐにゃりと砕け散り、衛兵たちの分厚い蒸気甲冑が中身ごと粉微塵に吹き飛んでいく。
バルザック(重機関破城銃『傲慢なる暴君』)「ヒハハハハ! もっと啼け! もっとすげえ反動を寄越せエレナァ!」
コルセットの留め具が悲鳴を上げて軋み、暴虐な反動の衝撃が骨盤から背骨へと直接突き抜ける。
そのたびにエレナの唇から、痛みと快楽の混じった熱い吐息がこぼれ落ちた。
エレナ・ヴァン・クロムウェル「あっ……素晴らしいピストン運動ですわ……! 身体の芯まで、熱く痺れてしまいます!」
逃げ惑うマリアンヌの足元に跳弾が直撃し、磨き上げられた床板が爆砕する。
マリアンヌ・ド・ラ・ヴァリエール「ぎゃあああっ! 私のドレスが、顔が、泥と油でぇぇっ!」
無残に引き裂かれたシルクのフリルと瓦礫の泥に塗れ、床を這い回るマリアンヌをエレナは一瞥だけする。
硝煙と白煙を纏いながら優雅な足取りで歩み寄り、腰を抜かして震えるヴィクターの額に、赤熱した銃口を突きつけた。
エレナ・ヴァン・クロムウェル「私を、機械油臭い下賤な女と仰いましたわね? あなたのその空っぽな頭蓋の奥底まで、この熱いオイルの味を注ぎ込んでさしあげましょうか」
ヴィクター・フォン・ハインリヒ「ひ、ぎぃっ……た、助けてくれ……! 悪かった、俺が悪かったから命だけはぁ!」
第四章: 真鍮の心臓が刻む永遠の契約
失禁して大理石の床に無様な水たまりを作るヴィクターの胸元へ、エレナは容赦なくバルザックの灼熱したバレルを押し当てる。
金糸の勲章を踏み躙るように焼き焦がした。
ジュッと皮膚と布地の焦げるひどい悪臭が立ち上り、ヴィクターの喉から言葉にならない絶叫が漏れる。
ヴィクター・フォン・ハインリヒ「ぎゃあああっ! 頼む、エレナ、俺は本当はお前を愛しているんだ! お前がいなければ帝国の機関は動かない、どうかやり直そう!」
エレナ・ヴァン・クロムウェル「馬鹿を言うな、この修復不能なクズ鉄が」
不正の全記録を収めた重い真鍮製のデータカセットを男の顔面へ力任せに叩きつけ、エレナは粉砕されたバルコニーへと背を向けた。
帝都の冷たい夜風が、オイルで汚れきったプラチナブロンドを激しく撫でる。
バルザック(重機関破城銃『傲慢なる暴君』)「おいエレナ、最高にいい気味だったぜ。だがよ……てめえ、もう気づいてんだろ?」
エレナ・ヴァン・クロムウェル「……何のことですの?」
無機質な音声振動板の波長が滑らかに変調していく。
重厚な金属の響きの中に、若々しく、そして底知れぬ執着に満ちた男の生声が混ざり合い始めた。
バルザック(重機関破城銃『傲慢なる暴君』)「百二十年前、俺の躯を造り上げたのはお前のイカれた曽祖父だ。そして、このコアの中に入ったのは……お前が生まれるずっと前から、お前のその魂のすべてを縛り付けるために鉄に身を売った、最初の男さ」
エレナの灰青色の瞳が驚きに見開かれ、やがて、恍惚に満ちた甘い弧を描く。
胸の奥底で、狂気と愛情がどろどろに溶け合っていくのがわかった。
エレナ・ヴァン・クロムウェル「……ふふ。道理で、他の誰の指にも決して馴染まないはずですわ。あなたは最初から、私だけを狂わせるために……」
エレナは重量八十八キロの熱を帯びた鉄塊を、最愛の恋人を抱くように愛おしそうに抱き締める。
そして、眼下に広がる帝都の深い夜の虚空へ、一切の迷いなく身を投げた。
噴射蒸気の閃光。
強烈な排気音とともに闇を裂いて噴き上がった青白い閃光が、落下していく二人を永遠に繋ぐ、輝かしい光の指輪を夜空へ描き出していった。