第一章 密室の再会
「……これ、本当に防音なの?」
重厚な扉が閉まる音。空気が遮断され、鼓膜にツンとした圧力がかかる。
深夜二時。
都内の雑居ビル地下にある、俺のプライベートスタジオ。
そこに立っていたのは、現役のニュースキャスターであり、かつて俺の隣の席で教科書を読んでいた幼馴染――佐伯美和(さえき みわ)だった。
「完全防音だ。ここで叫ぼうが、泣きわめこうが、地上には一切届かない」
俺がミキシングコンソールのフェーダーを上げながら答えると、美和は安堵と緊張が入り混じったようなため息をついた。
彼女は完璧だ。
体に吸い付くようなタイトなベージュのスーツ。
乱れのない黒髪。
そして、ブラウン管越しに数万人を魅了する知的な声。
だが今の彼女は、雨に濡れた捨て猫のように震えている。
「……頼みがあるの、啓太」
「なんだよ。国民的アナウンサーが、こんな売れない音響屋に」
彼女は一歩、俺に近づいた。
ハイヒールが床を叩く音が、静寂の中でやけに大きく響く。
「『声』を……作ってほしいの」
「声?」
「今度の特番で、朗読劇をやるの。でも、演出家に言われたわ。『君の声は綺麗すぎる。もっと泥臭い、情欲に溺れた女の声を出せ』って」
美和が悔しそうに唇を噛む。
その仕草だけで、俺の腹の底に熱いものが溜まる。
「優等生の私には無理だって、笑われたわ。……悔しいのよ」
「だから、俺に練習相手になれと?」
「あんた、昔から音に関しては天才だったじゃない。……それに、私の『弱点』も、全部知ってるでしょ?」
挑発的な視線。
だが、その瞳の奥が揺れているのを俺は見逃さない。
俺は回転椅子を回し、彼女の方へ向き直った。
「いいぜ。ただし、俺のやり方は荒っぽいぞ。マイクは嘘をつかないからな」
「……望むところよ」
俺は顎でブースを指した。
「入れよ。レッスン開始だ」
第二章 感度のチューニング
ガラス一枚隔てた向こう側。
美和がヘッドホンを装着する。
高性能なコンデンサーマイクが、彼女の微かな衣擦れの音さえも拾い上げ、俺の耳元のモニターヘッドホンに届けてくる。
『……聞こえる?』
マイクを通した彼女の声は、直接脳髄を撫で回されるような艶があった。
「ああ、クリアだ。まずは深呼吸しろ。体が硬い」
俺はトークバックスイッチを押して指示を出す。
美和が大きく息を吸い込む。
張り詰めたブラウスのボタンが、その豊かな胸の膨らみに耐えきれず弾け飛びそうだ。
「もっとだ。喉じゃなく、もっと下……丹田のあたりを意識して」
『こう……?』
「違う。意識がまだ頭にある。理性を捨てろと言われたんだろ?」
俺は立ち上がり、コントロールルームを出てブースの重い扉を開けた。
密室の空気が、彼女の香水の甘い匂いで満たされている。
「ちょっ、啓太……?」
「マイクの前から動くな」
俺は彼女の背後に回る。
「音っていうのは、振動だ。体が共鳴して初めて、相手の鼓膜を震わせることができる」
俺の手が、彼女の細い腰に伸びた。
ビクリ、と彼女の体が跳ねる。
「緊張してるな。ここも、ここも」
指先で背骨をなぞり、強張った肩甲骨のくぼみを親指で押し込む。
「んっ……!」
マイクが、彼女の小さなあえぎ声を拾った。
スピーカーからではなく、生身の彼女から漏れたその音は、防音室の壁に吸い込まれず、俺の理性を揺さぶる。
「いい声だ。でも、まだ硬い」
「だって……あんたが、急に……」
「優等生の仮面を剥がすんだろ?」
俺はさらに一歩踏み込み、彼女の耳元に唇を寄せた。
「昔、図書室でやったのを覚えてるか? お前が一番感じてた場所」
美和の耳が、熟れた果実のように赤く染まっていく。
「やめ……」
「嘘つきだな。体はこんなに熱い」
俺の手が、タイトスカートのスリットから滑り込む。
ストッキング越しの滑らかな太ももの感触。
冷房が効いているはずの室内なのに、彼女の肌は火照り、湿り気を帯びていた。
第三章 理性への侵食
「あ……っ、だめ、マイクが……音、拾っちゃう……」
美和がマイクスタンドにしがみつく。
「拾わせろよ。それが『情欲に溺れた声』だろ?」
俺は容赦なく、彼女の太ももの内側、そのもっとも柔らかい部分を指の腹で執拗に愛撫した。
「ひぁ……ッ!」
彼女の膝がガクンと折れかける。
それを支えるように、俺はさらに深く、彼女の領域へと侵略を進める。
「啓太、もう……おかしくなる……」
「なればいい。お前のその理性なんて、邪魔なだけだ」
俺は彼女のブラウスのボタンを一つ、また一つと外していく。
露わになった鎖骨に、熱い吐息を吹きかける。
彼女は抵抗するどころか、俺の首に腕を回し、すがりついてきた。
「……もっと。もっと壊して」
その囁きは、ニュースを読む時の冷静なトーンとは対極にある、粘りつくような甘い響きだった。
俺は彼女を革張りの椅子に座らせると、その脚を大きく開かせた。
恥じらいと快楽で潤んだ瞳が、俺を見上げている。
「……啓太の指、熱い……」
「お前の中はもっと熱いぞ」
俺は焦らすように、秘められた花弁の周りをなぞる。
ストッキング越しに伝わる湿り気が、彼女の限界を物語っていた。
「お願い……じらさないで……」
「正直でいい」
俺は彼女の唇を塞ぐと同時に、その熱源の核心へと指を沈めた。
第四章 臨界点
「んぐっ……! んあぁッ!」
唇が離れた瞬間、言葉にならない悲鳴のような嬌声が弾けた。
防音室という閉鎖空間が、その音を反響させ、彼女自身に聞かせる。
自分の淫らな声を聞くことで、さらに興奮が高まる悪循環。
「すごいぞ美和。中が、俺の指を飲み込もうとしてる」
「いやぁ、そんなこと言わないで……ッ! あ、あ、奥、くるっ……!」
俺は指の動きを早める。
粘膜と指が擦れ合う水音が、静寂の中で卑猥なリズムを刻む。
「ひぃ、あ、ダメ、そこっ、そこおかしくなるぅッ!」
彼女の腰が椅子の上で跳ねる。
俺は逃がさないように腰を押さえつけ、さらに深く、激しく穿った。
理性の堤防が決壊する。
彼女の瞳から焦点が消え、ただ快楽だけを追い求める獣の色が宿る。
「イクッ、イッちゃう! 啓太ぁ、啓太ぁッ!」
彼女は俺の名前を連呼しながら、背中を大きくのけぞらせた。
「出し切れ。全部、俺にぶつけろ」
俺はさらに強く、彼女の最奥を抉るように刺激する。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ――!!」
絶叫。
その瞬間、彼女の内壁が凄まじい力で俺の指を締め付け、熱い蜜がとめどなく溢れ出した。
彼女の体が痙攣し、ビクビクと波打つ。
魂ごと溶かされるような、強烈な絶頂。
俺はその余韻が収まるまで、彼女を抱きしめ、震える背中を撫で続けた。
第五章 残響
しばらくして、荒い呼吸だけが室内に残った。
美和は俺の胸に顔を埋めたまま、ぐったりとしている。
汗で張り付いた髪をかき上げてやると、彼女はとろんとした目で俺を見た。
「……最低なレッスンね」
「そうか? 最高の声が出てたぞ。録音しておけばよかったな」
「殺すわよ」
美和は力なく笑い、それから俺の唇に、自分から軽くキスをした。
「……本番、上手くやれそう?」
「どうかしら。……でも、これじゃあ足りないかも」
彼女の手が、今度は俺のベルトに伸びてくる。
妖艶に歪んだ口元。
そこにはもう、清廉潔白なニュースキャスターの面影はなかった。
「責任、取ってよね。……朝まで付き合ってもらうわよ、先生」
再び熱を帯び始めた狭い部屋の中で、俺たちは二度目のセッションを始める。
防音室の扉が開くのは、まだ当分先のことになりそうだ。