【腐敗】の英雄は、死の大地で究極のチーズを夢見る

【腐敗】の英雄は、死の大地で究極のチーズを夢見る

6 2730 文字 読了目安: 約5分
文字サイズ:
表示モード:

第一章 嫌われ者の楽園

「ギデオン、貴様を追放する!」

玉座の間。国王の怒号が響く。

周囲の大臣や騎士たちは、汚物を見るような目で私を見ていた。

鼻をつまんでいる者さえいる。

「理由はわかるな? 貴様の能力『腐敗』は不吉極まりない。魔王を倒したとはいえ、そのカビ臭い存在自体が王都の恥なのだ」

私は、こみ上げる笑みを必死に噛み殺した。

(やった……! ついに自由だ!)

「処分として、北の『死の荒野』へ送る。草一本生えぬ呪われた地で、自らの薄汚い能力と共に朽ち果てるがいい!」

「……承知いたしました。謹んで、お受けします」

声を震わせる演出をする。悲嘆に暮れているように見えただろうか。

実際は、歓喜で膝が震えていただけなのだが。

王都は窮屈だった。

納豆を作れば「毒ガス散布」と通報され、ブルーチーズを熟成させれば「死臭がする」と聖女が飛んでくる。

ここには、私の愛する菌たちが活動できる場所がない。

「では、失礼します」

私は足早に王城を後にした。

目指すは死の荒野。

誰にも邪魔されない、私と菌類だけの約束の地へ。

第二章 死の大地という名の巨大な培養槽

死の荒野は、想像以上に素晴らしかった。

見渡す限りの灰色の土。生物の気配は皆無。

だが、私の『魔眼』には見えていた。

地中深くに眠る、太古の有機物たちが。

「ふふ、素晴らしい。ここはゴミ溜めじゃない。最高の堆肥場だ」

私は地面に膝をつき、掌を押し当てる。

スキル発動――【高速発酵】。

ズズズ、と地面が脈打つ。

私の魔力を餌に、爆発的な速度で微生物が誕生し、土壌を分解、再構築していく。

本来なら数百年かかる腐葉土の生成が、わずか数秒。

灰色の土が、芳醇な香りを放つ黒土へと変貌していく。

「ああっ、いい匂いだ……! ジオスミン(土の匂い)の香りが脳を揺らす!」

私は恍惚として土を握りしめた。

これで野菜を育てれば、王都の貧弱な土壌とは比べ物にならない作物が育つだろう。

「グルルル……」

背後で唸り声がした。

振り返ると、骨と皮だけになった巨大な狼が涎を垂らしている。

魔獣フェンリルだ。この不毛の地で飢え、凶暴化しているらしい。

「肉……クワセロ……」

「おや、喋れるのか。ちょうどいい」

私は懐から、旅の途中で拾った「オークの干し肉(保存状態最悪)」を取り出した。

普通ならただの毒肉だが、今の私には関係ない。

触れるだけで、タンパク質をアミノ酸へと超高速分解。

熟成に熟成を重ねた、旨味の爆弾へと変える。

「食うか?」

放り投げると、フェンリルは空中でそれをキャッチし、丸呑みにした。

直後。

カッ! と狼の目が開かれる。

「!?!?!?」

全身の毛が逆立ち、痩せこけた体に活力がみなぎる。

あまりの旨味の衝撃に、フェンリルは白目を剥いて地面に転がった。

「ワンッ! クゥ〜ン……」

数秒後。

そこには、腹を見せて私に擦り寄る巨大な愛玩犬の姿があった。

「よしよし。お前は今日からポチだ。畑を耕すのを手伝え」

こうして、私とポチのスローライフ(土壌改良)が幕を開けた。

第三章 勘違いの侵略者

三ヶ月が過ぎた。

死の荒野は消滅した。

代わりにそこに在るのは、異常な速度で成長した巨大植物のジャングルと、黄金色に輝く小麦畑である。

巨大化したカボチャは馬車ほどの大きさがあり、トマトは一つでバケツ一杯の果汁が出る。

私の『腐敗』改め『発酵』スキルが、生態系をバグらせていた。

「うん、今日のパンもいい発酵具合だ」

私が焼き立てのパンを割っていると、ポチが吠えた。

「グルルルッ!(主様、敵です!)」

地平線の彼方から、土煙が上がっている。

王国の紋章を掲げた騎士団だ。

数はおよそ二千。

「なんだ? 王都からわざわざ客か?」

先頭の騎士団長が、拡声の魔道具を使って叫んだ。

『ギデオン! 貴様、禁忌の魔術を使って魔物の軍勢を作り上げているな! 偵察部隊から報告は来ているぞ!』

「は?」

見回す。

そこには、私が堆肥作りの手伝いをさせたスケルトン(カルシウム源)や、畑の番をしているマンドラゴラたちがウロウロしている。

『大人しく投降しろ! さもなくば、この聖なる炎で森ごと焼き払う!』

「焼き払う……?」

私のこめかみに青筋が浮かんだ。

この土を作るのに、どれだけの微生物の愛と努力があったと思っている。

この小麦の酵母を育てるのに、どれだけ温度管理に気を使ったと思っている。

それを、焼く?

「……帰れ」

私はパンを置き、立ち上がった。

『問答無用! 全軍、突撃ぃぃぃ!』

騎士たちが剣を抜き、殺到してくる。

私はため息をつき、右手をかざした。

やることは一つ。

彼らは鉄を身に纏っている。

鉄は、錆びるものだ。

「【酸化促進】」

バギィッ!

先頭の騎士の剣が、飴細工のように砕け散った。

「え?」

続いて、鎧。

ガシャガシャガシャッ!

精巧なプレートメイルが、一瞬で赤錆の塊となり、ボロボロと崩れ落ちる。

「う、嘘だろ!? 俺のミスリル製の剣が!」

「鎧が! 鎧が土に還っていく!」

二千人の騎士たちが、次々と下着姿になっていく。

戦場に、間の抜けた悲鳴が響き渡る。

「鉄分は土にいい。置いていけ」

私は無慈悲に告げた。

「ひ、ひいいいッ! 装備だけを腐らせた!? 化け物だぁぁぁ!」

騎士団長(パンツ一丁)が馬首を返して逃げ出した。

それを合図に、軍勢は雪崩を打って敗走していく。

後に残されたのは、大量の鉄屑(良質なミネラル源)だけだった。

最終章 腐敗の王はパンを愛す

「ふう。騒がしい連中だったな、ポチ」

「ワンッ!(鉄分補給完了ですね!)」

錆びた鉄屑を畑に撒きながら、私は満足げに頷いた。

これでまた、作物が美味くなる。

王都では、この一件が「魔王ギデオンが、睨んだだけで軍隊の武装を解除させた」と伝わり、以降誰も手出しをしてこなくなった。

それどころか、「死の荒野に生える作物を食べれば、不治の病も治る」という噂が広まり、隣国からは高値での取引を求められるようになった。

私はただ、美味いパンとチーズが食いたいだけなのだが。

「まあいい。今日はカマンベールの熟成具合を見る日だ」

菌の声が聞こえる。

世界は、発酵と腐敗のサイクルで回っている。

私は追放された英雄。

辺境の地で、今日も菌と共にスローライフ(世界レベルのバイオテロ一歩手前)を満喫している。

AI物語分析

【主な登場人物】

  • ギデオン: 「腐敗」の能力を持つ元英雄。性格は合理的かつ変人。有機物の分解と再構築を自在に操る。追放を「大型連休」程度にしか捉えていない。口癖は「発酵だ」。
  • ポチ(フェンリル): 死の荒野に生息していた伝説の魔獣。ギデオンの発酵肉(熟成肉)の虜になり、忠実な番犬(愛犬)となる。戦闘力は災害級。
  • 騎士団長: 典型的な「噛ませ犬」。ギデオンの能力を過小評価し、パンツ一丁で逃げ帰る羽目になる哀れな中間管理職。

【考察】

  • 「腐敗」と「発酵」の境界線: 物語の核となるテーマ。人間にとって有益なら「発酵」、害なら「腐敗」と呼ばれるが、現象としては同一である。主人公はこの二面性を理解し、世界の見方を変えるトリックスターとして描かれている。
  • スローライフの皮肉: 主人公にとっての「スローライフ」は、周囲から見れば「超高速の環境改変(バイオハザード)」である。この認識のズレがコメディを生みつつ、読者に「幸せとは主観的なもの」という問いを投げかける。
  • 鉄の還元: クライマックスで武器を土に還す描写は、「剣を鋤(すき)に」という平和へのメタファーであると同時に、物理的な「ミネラル補給」という実利的なオチを兼ねている。
この物語の「続き」を生成する

あなたのアイデアをAIに与えて、この物語の続きや、もしもの展開を創作してみましょう。

0 / 200
本日、あと...

TOPへ戻る