【悲報】Sランク勇者に見捨てられたので、奈落の底から実況中継します

【悲報】Sランク勇者に見捨てられたので、奈落の底から実況中継します

主な登場人物

天音 カイト (Amane Kaito)
天音 カイト (Amane Kaito)
17歳 / 男性
ボロボロで血に濡れた黒のパーカー、煤で汚れた頬。伸び放題の前髪から覗く瞳は、死んだ魚のように濁っているが、極限状態では青白く発光する。
豪堂 リョウマ (Goudou Ryoma)
豪堂 リョウマ (Goudou Ryoma)
20歳 / 男性
特注のミスリル合金の輝く鎧。完璧にセットされた金髪。常にカメラ映りを気にした爽やかな笑顔だが、瞳の奥は笑っていない。
天音 ミア (Amane Mia)
天音 ミア (Amane Mia)
14歳 / 女性
病衣(薄いピンク色のパジャマ)。色素の薄い茶髪は肩までの長さ。ベッドの上でタブレットを抱きしめている姿が多い。

相関図

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第一章: 奈落の遺言

[System]接続不安定。視聴者数0人。残存酸素3%。[/System]

「……あー、聞こえますか? これが僕の、最期の悪足掻きです」

闇。絶対的な黒の中、ドローンのインジケーターだけが、心臓の鼓動を模すように赤く明滅していた。

その頼りない灯火が、少年の顔を不規則に照らし出す。

伸び放題の黒髪は脂汗と凝固した血液で額に張り付き、かつて黒だったパーカーの右袖は無残に引き千切られ、全身が煤と泥のコーティング。

前髪の隙間から覗く瞳――それは深海の底に沈んだガラス玉。光を失い、濁り切った絶望の色。

天音カイト。十七歳。

世界が憧れるSランクパーティーにおける、ただの荷物持ちだったモノ。

[A:天音 カイト:絶望]「ミア、聞こえてるかな。お兄ちゃんね、ちょっと……遠いところに来ちゃった」[/A]

震える指先で、宙に浮くドローンのレンズを拭う。めくれた指の皮、滲んだ血がレンズの縁に付着し、映像を赤く汚した。

[A:天音 カイト:冷静]「今から、僕がどうやって死ぬか、実況するよ。あはは……悪趣味だよね。でも、誰も見てないし、いいか」[/A]

喉が焼ける。肺を満たすのは腐敗臭と硫黄、呼吸のたびに内側から肉を削がれる感覚。

迷宮の未踏領域「奈落」。

地上の光など一筋も届かぬ、深度三千メートルの棺桶。

数時間前、あの眩しい陽光の下で、カイトは確かに生きていた。

Sランク探索者、豪堂リョウマの輝く笑顔。

『カイト、お前はここで囮になれ』

蹴り飛ばされた背中の感触。反転する視界、遠ざかる光。

残ったのは、リョウマの嘲笑だけ。

[Think]どうせ、僕なんて最初からいなかったんだ。[/Think]

乾いた唇を舐める。鉄の味。

妹のミア。ガラス細工のように脆い少女。

彼女の入院費のためだけに、カイトはゴミ以下の扱いを耐え忍んできた。

殴られ、罵られ、ポーションの実験台にされようとも、生きて帰れば金になったから。

[A:天音 カイト:悲しみ]「ごめんな、ミア。今月の治療費……振り込めないや」[/A]

ドローンのバッテリー警告音が、静寂を切り裂く。

直後。

暗闇の奥、湿った岩肌を擦る音。ズルリ、ズルリ。

背筋を駆け上がる、氷柱を突き刺されたような悪寒。

[Shout]グオオオオオオォォォォォッ!![/Shout]

闇を裂き現れたのは、六つの眼を持つ巨大な大百足。

鋼鉄さえ噛み砕く顎が、カチカチと飢餓の音を鳴らす。

膝が笑う。胃が縮み上がり、酸っぱいものが喉元までせり上がる恐怖。

[A:天音 カイト:恐怖]「……はは。最後のお客さんが来たみたいだ」[/A]

逃げ場なし。武器なし。あるのは壊れかけのドローンと、錆びついたナイフ一本。

だが、カイトの濁った瞳の奥、小さく、けれど鋭い明滅。

死ぬのはいい。どうせ死ぬ。

でも、ミアへの遺言が終わる前に食い殺されるのは――御免だ。

[A:天音 カイト:狂気]「待てよ……。僕の話は、まだ終わってないんだ」[/A]

ドローンを背後へ。錆びたナイフを逆手に。

視聴者数0人の画面の向こう、世界中のネットワークが不可解な信号を受信し始めていたことを、彼はまだ知らない。

◇◇◇

第二章: 無自覚の英雄譚

「……え、嘘だろ?」

東京、渋谷スクランブル交差点。

大型ビジョンを見上げたサラリーマンの手から、スマホが滑り落ちた。

同時多発的ハッキング。世界中の端末、街頭ビジョン、あらゆるスクリーンが、ノイズ混じりの映像にジャックされる。

映し出されたのは、泥と血に塗れた少年。

そして、Sランク探索者すら逃げ出す災厄、「深淵の大百足」。

[A:天音 カイト:冷静]「関節の隙間……あそこか」[/A]

画面の中、人間離れした速度で地を蹴るカイト。

真正面からの突撃、自殺行為。

大百足の鎌が、カイトの首を刈り取らんと迫る。

誰もが目を背けたその瞬間――。

カイトの体が、不自然に沈み込んだ。

泥濘んだ地面にあえて足を滑らせ、鎌の軌道を髪の毛一本分の差で回避。

[Think]右、三五度。毒液の噴射角。[/Think]

脳内で分解される世界。数値とラインの羅列。

致死の領域だけが赤く、生存への細い糸だけが青白く輝く。

スキル《死線解析》。

「逃げ足が速いだけ」と罵られてきたその能力は、死と隣り合わせの極限状態でこそ真価を発揮する異能。

[A:天音 カイト:怒り]「邪魔だ、どけぇッ!」[/A]

交差の刹那。錆びたナイフを、大百足の甲殻の継ぎ目へ。

そこは迷宮の瘴気が溜まる排気孔。

ナイフの柄を足場に再跳躍、天井の鍾乳石を蹴り折る。

数トンの岩塊、悲鳴を上げる大百足の頭上へ直撃。

[Shout]ギャアアアアアアッ!![/Shout]

舞う土煙。カイトは肩で息をしながら、画面へ力なく微笑む。

[A:天音 カイト:冷静]「……ふぅ。まだ、話せるな。ミア、聞いてる? 昔、一緒に行った遊園地、覚えてるか?」[/A]

地上、SNSの爆発。

『なんだ今の動き!?』

『CGだろこれ』

『いや、この場所……未踏の奈落じゃないか?』

『誰だこの少年、泣きながら戦ってるぞ』

視聴者数、瞬く間に一億人を突破。

着飾ったヒーローたちの安全圏からの「冒険ごっこ」に飽いた世界は、泥水を啜り、嘔吐しながらも妹への愛を語る「本物の絶望」に釘付けとなった。

病院のベッドの上。

天音ミアは、タブレットを抱きしめ震えていた。

薄いピンク色のパジャマ越し、心臓の早鐘。

画面の中の兄は、見たこともないほどボロボロで、けれど誰よりも強く見えた。

[A:天音 ミア:悲しみ]「お兄ちゃん……死なないで。お願い……」[/A]

彼女の持つ《絶対聴覚》は、兄の声に含まれる「諦め」を聞き取っていた。

生きようとしているのではない。

綺麗に死のうとしている。

迷宮の底、続く独り言。

[A:天音 カイト:絶望]「僕ね、リョウマさんたちに感謝してるんだ。こんなゴミ屑を、ここまで連れてきてくれたんだから。……役に立てなくて、ごめんなさい」[/A]

純粋すぎる劣等感、世界中の視聴者の胸を抉る。

『謝るな!』

『お前はすごい!』

『誰かこいつを助けてくれ!』

コメントの嵐など知る由もなく、ふらつく足で奥へ進むカイト。

そこへ響く、ノイズ混じりの電子音。

[System]通信接続回復。地上波とのリンクを確立しました。[/System]

僅かに見開かれる瞳。

[A:天音 カイト:驚き]「え……? 繋がってる……?」[/A]

画面の向こうにある無数の「生」。

独りではないという事実が、カイトの膝から力を奪う。

助かるかもしれない。

ミアに、もう一度会えるかもしれない。

その希望の灯火を吹き消すように、通信機から響く、傲慢な声。

[A:豪堂 リョウマ:冷静]「よう、ゴミ屑。しぶといな」[/A]

◇◇◇

第三章: 英雄の仮面、悪魔の素顔

空間に投影されたホログラム、豪堂リョウマ。

特注のミスリル合金鎧は、地下の暗闇にあっても不快なほど神々しい。

完璧にセットされた金髪、カメラ映りを計算し尽くした爽やかな笑顔。

だがその碧眼だけが、汚物を見る冷酷さを湛えていた。

[A:天音 カイト:恐怖]「リョウマ……さん? 救助は……」[/A]

縋る声。リョウマは鼻で笑う。

[A:豪堂 リョウマ:怒り]「救助? バカかお前。お前が生きて帰ってきたら、俺が『仲間を見捨てた』ことになるだろうが。俺の伝説に傷をつける気か?」[/A]

その言葉、配信を通じて全世界へ。

しかしリョウマは知らない。ここが電波圏外、カイトのドローンだけが特異的にジャックしている状況など、想像の埒外。

[A:豪堂 リョウマ:狂気]「安心しろ。お前の妹の治療費くらいは、香典代わりに出してやるよ。だから――死んでくれ」[/A]

手元の起爆スイッチが押される。

轟音。

カイトの頭上、岩盤が人工的な爆破によって崩落を開始。

迷宮構造を利用した、完全なる生き埋め工作。

[A:天音 カイト:絶望]「あ……ぁ……」[/A]

数億の視聴者が絶叫する中、視界を埋め尽くす土砂。

希望を持たせてから、突き落とす。

それが最も効率的に心を殺す方法だと知っているかのように。

[Shout]お兄ちゃんッ!![/Shout]

ミアの悲鳴も、轟音にかき消される。

暗闇。窒息。重圧。

瓦礫の下敷きになり、肋骨が軋む音が体内を伝う。

[Think]痛い。苦しい。やっぱり、僕はモブなんだ。主役の踏み台になって死ぬ、哀れな犠牲者……。[/Think]

遠のく意識。

走馬灯のように浮かぶ、ミアの笑顔。

『お兄ちゃんは、私のヒーローだよ』

――違う。

ヒーローなんかじゃない。僕はただの、逃げ回るだけの……。

『お兄ちゃん』

不意に、脳裏で弾ける音。

《死線解析》が暴走するほどのアラートを脳内に流し込む。

視界真っ暗な瓦礫の中、見える無数の「死のライン」。

そして、たった一本。

針の穴を通すような、極細の「生」のラインが、青白く、強烈に発光していた。

[Think]僕の死に場所は……僕が決める。[/Think]

瓦礫の隙間から漏れる一筋の光。

ドローンのライトではない。カイトの濁った瞳が、闇の中で青白い燐光を放ち始めたのだ。

[A:天音 カイト:冷静]「……リョウマ。お前は一つ、勘違いをしてる」[/A]

内側から吹き飛ぶ瓦礫。

土煙の中、ゆらりと立ち上がる影。

[A:天音 カイト:怒り]「僕は荷物持ちだ。お前らが捨てたゴミの山が、どれだけ崩れやすいか……一番知ってるのは、僕だ」[/A]

◇◇◇

第四章: 覚醒する死線

崩落は止まらない。

だが、カイトはもう、頭を抱えて震えてはいなかった。

瞳に映る落下岩塊の軌道、衝撃の波及範囲、迷宮全体の構造バランス。

すべてが光のワイヤーフレームとして可視化される世界。

[System]スキル《死線解析》が覚醒しました。対象範囲:迷宮全域。[/System]

[A:天音 カイト:冷静]「右、三歩。屈む。左へ跳躍」[/A]

舞うように瓦礫を回避。

落ちてくる巨岩を足場に、さらに上へと駆け上がる。

人間を超越した反射神経。未来視にも似た、絶対的な予知。

[Think]リョウマたちは、上層の第4エリアにいる。この崩落を利用して、奴らの足場を崩す。[/Think]

ドローンへ向かい、静かに告げる。

[A:天音 カイト:冷静]「みんな、見てて。これが、モブの逆襲だ」[/A]

地上、カイトの生存に沸く歓喜の渦。

同時に爆発するリョウマへの憎悪。

英雄の仮面は剥がれ落ち、いまや彼は世界共通の敵。

だが、そんなことは関係ない。

カイトはただ生きるために、理不尽を噛み砕くために牙を剥く。

上層エリア。

優雅にワインを傾けるリョウマ。

崩落の音をBGMに祝杯を上げようとしたその時、足元の床が唐突に消失した。

[A:豪堂 リョウマ:驚き]「なッ!?」[/A]

[A:天音 カイト:怒り]「落ちろぉぉぉッ!!」[/A]

奈落の底から響き渡る咆哮。

崩落エネルギーの連鎖、迷宮の支柱一点への正確な破壊。

計算されたドミノ倒し。

Sランクパーティーの煌びやかな装備を纏った連中が、悲鳴と共に深淵へ堕ちていく。

[A:豪堂 リョウマ:恐怖]「ふざけるな! 俺は選ばれた人間だぞ! 飛べ! 《飛翔魔法》!」[/A]

空中で体勢を立て直すリョウマ。抜かれる輝く剣。

[Magic]《光輝の聖剣》![/Magic]

極大の光の刃、闇を切り裂きカイトへ迫る。

圧倒的暴力。歴然たるレベル差。

まともに受ければ蒸発は免れない。

だが、カイトの青白い瞳は、その光の中に「綻び」を見ていた。

派手だが燃費が悪く、隙だらけの剣技。

一歩も引かず、錆びたナイフを構え、光の奔流へ突っ込む。

[A:天音 カイト:興奮]「見えたッ、お前の『死線』!!」[/A]

光と闇の交錯。舞う鮮血。

カイトのナイフは、聖剣ではなく鎧の留め具――わずか数ミリの隙間を貫いた。

弾け飛ぶミスリルの鎧、晒される無防備な肉体。

[A:豪堂 リョウマ:絶望]「あ……?」[/A]

胸倉を掴まれ、もつれ合うようにしてさらに深い闇の底――迷宮の核(コア)がある最深部への落下。

[Shout]一緒に来いよ、リョウマ! ここが僕らのステージだ![/Shout]

◇◇◇

第五章: 深淵の王

静寂。

最深部は意外なほど静かで、どこか神聖な空気に満ちていた。

青白い燐光を放つ巨大なクリスタル――迷宮の核(コア)が、脈打つように輝く。

地面に這いつくばるリョウマ。

鎧は砕け、自慢の金髪も泥まみれ、恐怖に引き攣る顔。

その目の前、無数の浮遊カメラ。

ドローンだけではない。迷宮の防衛システムすらもジャックしたカイトが、あらゆる角度からリョウマの醜態を映し出す。

[A:豪堂 リョウマ:恐怖]「や、やめろ……撮るな……俺は、俺は……」[/A]

[A:天音 カイト:冷静]「世界中が見てるよ、リョウマさん。あなたの『本当の顔』を」[/A]

傷だらけの体で、コアの前に立つカイト。

右腕は折れ、全身からの出血。

けれどその立ち姿は、王のように威厳に満ちていた。

ナイフを捨てる。もう復讐の必要はない。リョウマは社会的に死んだ。

だが、崩落の連鎖は止まらない。このままでは迷宮全体が崩壊し、地上の都市すら飲み込む大災害となる。

止める方法は一つ。

誰かがコアと同化し、新たな「迷宮の主」となって制御するしかない。

静かにコアへ触れる手。

[A:天音 カイト:愛情]「ミア」[/A]

画面の向こう、病室で泣き崩れる妹への呼びかけ。

[A:天音 カイト:冷静]「口座への送金ルート、確保したよ。ダンジョンが生み出す魔力リソース……これ全部、ミアの治療費に換金されるように設定した」[/A]

[A:天音 ミア:悲しみ]「いらない……! お金なんていらないから、帰ってきてよお兄ちゃん!」[/A]

ミアの悲痛な叫び、胸を締め付ける痛み。

帰りたい。ミアの作った不格好なオムライスが食べたい。

でも、僕がここで人柱にならなければ、ミアも、世界も死ぬ。

徐々に結晶化していく体。

指先から光の粒子となり、コアへと溶けていく。

[A:天音 カイト:愛情]「ごめん、帰れないや。でも、悲しまないで。僕は死ぬわけじゃない」[/A]

憑き物が落ちたような、穏やかな笑み。

濁っていた瞳は今や、星空のように澄み渡っていた。

[A:天音 カイト:冷静]「僕はここにいる。この深淵から、ずっとミアを見てる。世界中の誰よりも強い『王様』になって、君を守り続けるから」[/A]

カイトを完全に包み込む光。

遠ざかるリョウマの絶叫と崩落音。

最後に画面へ映ったのは、眩い光の中で微笑む少年の口元と、彼が最後に紡いだ言葉。

『行ってきます』

プツン。

配信が途切れることはなかった。

画面は暗転したが、そこには「LIVE」の文字が赤く灯り続けている。

迷宮の崩落は止まり、訪れた静謐な沈黙。

数年後。

その迷宮は「天音の奈落」と呼ばれ、最深部には誰も到達できない聖域となった。

地上では、病を克服した少女が、毎日あるチャンネルを開く。

真っ暗な画面。何も映らない配信。

けれど、そこからは確かに聞こえるのだ。

迷宮の王が、侵入者を拒み、世界を支え続ける、力強い息遣いが。

[A:天音 ミア:愛情]「おはよう、お兄ちゃん」[/A]

少女は画面に向かって微笑む。

深淵の底で、王は今日も孤独に、しかし誇り高く、世界を守り続けている。

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