【追放】廃棄された毒聖女、奈落で魔王に愛され覚醒す

【追放】廃棄された毒聖女、奈落で魔王に愛され覚醒す

主な登場人物

エルマ
エルマ
17歳 / 女性
物語序盤は毒の影響で肌や髪がドス黒く変色し、ボロボロの灰色のローブを羽織っている。覚醒後はプラチナブロンドに金の瞳、純白のドレス姿となる。
ゼファー
ゼファー
19歳 / 男性
金髪碧眼、豪奢な装飾が施されたミスリルの聖鎧。常に自信に満ちた(あるいは傲慢な)表情。
オライオン
オライオン
不詳(外見は20代後半) / 男性
黒い竜の革で作られたロングコート、目元を覆う黒い包帯。背中に巨大な漆黒の大剣を背負う。

相関図

相関図
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3 3916 文字 読了目安: 約8分
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第一章: 廃棄される幸福

風が、腐臭を含んで吹き荒れる。

世界最深のダンジョン『奈落』の縁だ。断崖絶壁の淵に立つ少女のローブは、もはや元の色が判別できないほど灰色に汚れ、裾は無残に千切れていた。

フードの下から覗く肌は、病的なドス黒さ。壊死した古木のようにひび割れ、紫色の血管が不気味に浮き上がっている。かつての色など想像も及ばぬ澱んだ髪が、乾いた風に煽られて頬を打つ。

エルマは、自分の手を見つめる。指先まで黒く染まったその手は、震えもしない。ただ、冷たい。

[A:ゼファー:冷静]「……臭うな」[/A]

背後から投げかけられた声に、慈悲など欠片もなかった。

振り返れば、陽光を照り返して眩いばかりに輝くミスリルの聖鎧。金糸の刺繍が施された純白のマントをなびかせ、金髪碧眼の青年が立っている。勇者ゼファー。彼の手には、磨き抜かれた聖剣が握られていた。

[A:ゼファー:怒り]「おい、聞いてるのか? 俺の視界を汚すなと言ったんだ、役立たずが」[/A]

鼻をつまむ仕草。露骨な嫌悪。

エルマの喉がひくりと動く。声帯が毒に侵され、掠れた音しか出ない。

[A:エルマ:恐怖]「……申し訳、ありませ……ん」[/A]

[A:ゼファー:冷静]「お前をパーティから追放する。理由はわかるな? その薄汚い見た目だ。俺の隣に立つ資格がない」[/A]

資格。

視線を落とすエルマ。彼女の体がこうなったのは、ゼファーが受けるはずだった致死性の呪毒、麻痺毒、石化の呪い……その全てを『調律』し、我が身に引き受けてきたからに他ならない。

だが、彼は知らない。知ろうともしなかった。彼にとって勝利は自分の実力であり、エルマはただそこにいるだけの、薄気味悪い背景でしかないのだから。

[Think]弁解? いいえ、そんな気力はもう……[/Think]

不思議と、胸に湧き上がったのは絶望ではなかった。

重い鎖が外れるような、安堵。

もう、毒を飲まなくていい。痛みを数えなくていいのだ。

[A:ゼファー:狂気]「さっさと消えろ。俺の栄光の歴史に、そんな黒い染みは不要なんだよ!」[/A]

[Shout]ドンッ![/Shout]

衝撃。

ゼファーの蹴りが、華奢な体を突き飛ばした。

浮遊感。

宙に投げ出される体。視界が反転し、遠ざかる空と、歪んだ笑みを浮かべる勇者の顔が見えた。

奈落の底から吹き上げる風は、氷のように冷たく、そしてどこか甘い死の匂いがした。

[Think]ああ……やっと、眠れるんですね[/Think]

抵抗などしない。まぶたを閉じる。

重力に身を任せ、無限の闇へと吸い込まれていった。

◇◇◇

第二章: 闇の中の光

硬い。冷たい。

背中に走る激痛が、意識を強引に現世へ引き戻した。

咳き込むエルマ。口の中に充満するのは、鉄錆の味と、古いカビの匂い。

目を開けると、そこは完全な闇……ではなかった。

[A:オライオン:冷静]「……目覚めたか」[/A]

地の底とは思えぬほど低く、だが驚くほど澄んだバリトンボイス。

闇の中から一人の男が歩み寄ってくる。

長身痩躯。黒い竜革のロングコートを纏い、背中には身の丈ほどもある巨大な漆黒の大剣。目元は黒い包帯で覆われ、その相貌は彫像のように整っているが、どこか人外の威圧感を放っていた。

盲目の男。

反射的に身を縮める。自分の醜い姿を見られたくない。そう思った瞬間、彼が目が見えないことに気づき、安堵の息を漏らす。

しかし、男はエルマの目の前で膝をつき、包帯越しにじっと彼女を見据えた。

[A:オライオン:冷静]「妙だな。これほどの深淵に落ちて、なお輝きを失わぬとは」[/A]

[A:エルマ:恐怖]「……あ、なたは……? 私、は……汚れて、いて……」[/A]

[A:オライオン:冷静]「汚れ? 何を言っている」[/A]

伸びてくる、男の大きな手。

身構えたが、その手は恐るべき優しさで、ドス黒く変色した頬に触れた。

指先は熱いほどに温かい。革手袋の粗い感触が、凍りついた肌を摩擦する。

[Sensual]

オライオンは指の腹で、ひび割れた彼女の肌をなぞる。まるで壊れかけの至宝を扱うように、慎重に、愛おしげに。

[A:オライオン:愛情]「目など不要だ。俺には視える。お前の魂は……どんな星よりも眩しい。まるで、夜空そのものだ」[/A]

男の吐息が近く、エルマの鼓動が不規則に跳ねる。

[/Sensual]

[A:エルマ:驚き]「きれい……? 私が……?」[/A]

[A:オライオン:冷静]「ああ。俺の名はオライオン。かつて魔王と呼ばれ、ここに捨てられた成れの果てだ。……お前の名は?」[/A]

[A:エルマ:照れ]「エルマ……です」[/A]

[A:オライオン:喜び]「エルマか。良い名だ。……立てるか? ここは冷える」[/A]

差し出された手。

機能としての価値ではなく、存在そのものを肯定されたのは、生まれて初めてだった。

瞳からこぼれ落ちたのは、黒い涙ではなく、透明な雫。

彼女はその手を、震えながら握り返した。

◇◇◇

第三章: 崩落する栄光

地上。王都の広場。

凱旋パレードの最中だ。

[A:ゼファー:興奮]「見ろ! この俺の輝きを! 魔王の残党どもなど敵ではない!」[/A]

ゼファーが剣を掲げた、その瞬間。

バキンッ、と嫌な音が響く。

名剣と謳われた聖剣の刀身に、亀裂が走ったのだ。

[A:ゼファー:驚き]「な……っ!?」[/A]

それだけではない。

上がる観衆の悲鳴。

ゼファーの顔。美しいその皮膚が、見る見るうちに紫色の斑点に覆われ、膿が吹き出した。

喉が焼けるように熱い。肺が空気を吸うたびに、ガラス片を飲み込んだような激痛が走る。

[System]警告:状態異常【猛毒】【麻痺】【腐食】を確認。耐性スキル……不在。[/System]

[A:ゼファー:恐怖]「ぐあっ……!? なんだ、これは……! 痛い、熱い! 誰か、治癒を……!」[/A]

僧侶が駆け寄るが、回復魔法をかけたそばから皮膚が崩れ落ちていく。

今まで無傷でいられたのは、彼が強かったからではない。

エルマという『フィルター』が、呼吸をするように毒を吸い取っていたからだ。

そのフィルターを捨てた今、世界に満ちる穢れが、無防備な勇者に牙を剥く。

[A:ゼファー:怒り]「エルマ……あいつか! あいつが何かしたんだな!?」[/A]

違う。あいつが「いなくなった」からだ。

だが、ゼファーの歪んだ自我はそれを認めない。

[A:ゼファー:狂気]「許さん……俺の所有物の分際で……! 取り戻せ! 今すぐ奈落へ潜るぞ! あれは俺の道具だ、俺の命綱なんだよぉぉぉ!!」[/A]

顔面の皮が剥がれ落ち、赤い肉が見える形相で絶叫する勇者。

その姿に、もはや英雄の面影はない。ただの、醜悪な怪物だった。

◇◇◇

第四章: 限界と覚醒

奈落最深部。

そこは、地上の光など届かぬ絶対の闇。だが今、無数の魔物の群れが、紅い瞳を光らせて二人を取り囲んでいた。

[A:オライオン:怒り]「下種どもが……!」[/A]

《重力波》

オライオンが大剣を一閃させる。空間が歪み、押し寄せた魔物たちが挽肉のように圧縮され、弾け飛ぶ。

だが、数が多すぎる。

盲目の騎士はエルマを背に守りながら戦い続けていたが、死角から伸びた魔獣の爪が、彼の脇腹を深々と抉った。

[A:オライオン:冷静]「ぐっ……!」[/A]

[A:エルマ:悲しみ]「オライオン様!」[/A]

駆け寄るエルマ。傷口からは大量の血が溢れ出ている。魔王と呼ばれた彼の生命力をもってしても、この奈落の瘴気の中では回復が追いつかない。

[A:エルマ:絶望]「私のせい……私がいるから、あなたが傷つく……やはり私は、誰かの犠牲になる運命なの……?」[/A]

まただ。

また、大切な人が傷つく。私が呪われているから。

エルマの手が震える。いっそ、この身の毒を爆発させて、敵ごと消滅すれば――。

[A:オライオン:怒り]「馬鹿なことを考えるな!!」[/A]

オライオンが、血塗れの手でエルマの肩を掴んだ。

[A:オライオン:愛情]「犠牲? 運命? そんなくだらん鎖、俺が断ち切ってやる」[/A]

彼は自らの胸に指を突き立てる。

心臓の鼓動と共に脈打つ、強大な魔力。それを引き抜き、エルマの唇へと押し当てた。

[Sensual]

[A:オライオン:冷静]「受け取れ。俺の命……魔王の核だ。これでお前の毒を、全て燃料に変える」[/A]

重なる唇。

流れ込んでくるのは、灼熱の奔流。

オライオンの命が、エルマの中にある膨大な『死の毒』と化学反応を起こす。

黒と赤が混ざり合い、臨界点を超え――

[/Sensual]

[Shout]カッッッッ!![/Shout]

閃光。

闇を食らい尽くすほどの、純白の光が炸裂した。

剥がれ落ちていく黒い色。

ひび割れた皮膚は瑞々しい白磁へ。

澱んだ髪は、星の光を編んだようなプラチナブロンドへ。

背中からは光の翼が噴出し、彼女の瞳は黄金に輝き出した。

[System]個体名エルマ:覚醒。【毒喰らい】より【浄化の聖女】へクラスチェンジ。[/System]

[A:エルマ:冷静]「……もう、迷いません」[/A]

その声は鈴を転がすように美しく、しかし絶対的な威厳に満ちている。

彼女は手を掲げる。ただそれだけで、周囲の魔物たちが灰となって崩れ去った。

◇◇◇

第五章: 決別と旅立ち

静寂が戻った奈落の底に、場違いな足音が響く。

鼻をつくのは、肉の腐る臭い。

[A:ゼファー:狂気]「はぁ……はぁ……見つけたぞ……俺の、道具……」[/A]

現れたのは、半ばゾンビと化したゼファーだった。

片目は溶け落ち、鎧は錆びつき、かつての美貌は見る影もない。

だが、彼の残った瞳が、光り輝くエルマを捉えて大きく見開かれた。

[A:ゼファー:驚き]「な……なんだ、その姿は……? 美しい……女神、か……?」[/A]

よろよろと歩み寄るゼファー。その手は汚濁にまみれ、何かを乞うように震えている。

[A:ゼファー:愛情]「エルマ、だろう? 綺麗だ……そうだ、その姿こそ俺に相応しい! 戻ってこい! 愛しているんだ、なぁ、やり直そう!」[/A]

あまりに醜悪な愛の囁き。

だが、エルマの黄金の瞳には、怒りも、軽蔑さえも映っていなかった。

あるのは、道端の石を見るような『無関心』だけ。

エルマは、傷ついたオライオンの肩を抱き寄せ、優しく治癒の光を注いでいた。オライオンの傷が塞がっていく。

[A:エルマ:冷静]「……誰ですか?」[/A]

[A:ゼファー:驚き]「は……? 俺だ! 勇者ゼファーだ! お前の主だぞ!」[/A]

[A:エルマ:冷静]「私の世界に、あなたは必要ありません。……オライオン様、行きましょう」[/A]

[A:オライオン:喜び]「ああ。……案内してくれ、俺の光」[/A]

指先を軽く振るエルマ。

[Magic]《サンクチュアリ》[/Magic]

展開される拒絶の結界。ゼファーの体は目に見えない壁に弾き飛ばされた。

[A:ゼファー:絶望]「待て! 置いていくな! 痛いんだ、苦しいんだ! 俺を救えぇぇぇ!!」[/A]

木霊する勇者の絶叫。

しかし、二人は一度も振り返らない。

オライオンの背にある大剣が、空間を切り裂き、地上とは違う「どこか」への道を開く。

光の中へ消えていく二人の背中は、あまりに神々しく、そして残酷なほどに幸福そうだ。

残されたのは、暗闇と、腐りゆく元英雄の嗚咽だけ。

毒を喰らい続けた聖女は、もういない。

彼女は新しい地図を描くために、愛する人と共に旅立ったのだから。

[System]物語は、ここで閉じられる。[/System]

クライマックスの情景

【物語の考察:美醜の逆転】

本作の核は「美しさの定義」の逆転にある。地上の英雄であるゼファーは、外見こそ美しいが内面は腐敗しており、逆に奈落の魔王オライオンは、闇に堕ち盲目でありながらも、エルマの「魂の光」を見抜いた。物語が進むにつれ、エルマの「毒(汚れ)」は浄化され、ゼファーの「聖性(メッキ)」が剥がれ落ちる対比構造が鮮やかである。

【メタファー:毒とフィルター】

エルマが引き受けていた「毒」は、現代社会における「他者の悪意やストレスの吸収」のメタファーと言える。彼女が覚醒したのは、その毒を「誰かのために我慢する」のではなく、「愛する者との化学反応でエネルギーに変えた」からである。自己犠牲からの脱却と、相互理解による魂の救済がこの物語のテーマだ。

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