記憶を削る少年と、ガラスに還る少女

記憶を削る少年と、ガラスに還る少女

主な登場人物

アキ
アキ
17歳 / 男性
色素の薄い銀髪に、虚ろだが優しい琥珀色の瞳。終末世界に適応したゴーグル付きの防塵マント、首には何重にも巻かれたマフラー、すり減った革のブーツを履いている。常に手帳とペンを首から下げている。
シロ
シロ
16歳 / 女性
肩で切り揃えられた黒髪、透き通るような青い瞳。研究所から逃げ出した際の名残である白い病衣を継ぎ接ぎしたワンピースの上に、大きすぎるミリタリージャケットを羽織っている。右腕の皮膚の一部が青い結晶になりかけており、包帯で隠している。
カラス
カラス
20歳 / 男性
無造作に伸びた黒髪、鋭い三白眼。左目は義眼であり、軍の支給品である黒い防寒コートに身を包む。首元にはかつてアキからもらった古いドッグタグが隠されている。タクティカルブーツと無数の傷跡。

相関図

相関図
拡大表示
4 4520 文字 読了目安: 約9分
文字サイズ:
表示モード:

第一章: 終わりの始まり

空が割れ、ガラスの雨が降り注ぐ。

夕立のように降りしきるそれは、冷気と魔力を孕んだ『結晶雪』。

夕日に乱反射し、世界をプリズムの狂気で満たしている。

色素の薄い銀髪に、結晶の破片がカチリと弾けた。

防塵マントの襟元に何重にも巻いたマフラーを口元まで引き上げ、アキは虚ろな琥珀色の瞳で灰色の空を仰ぐ。

すり減った革のブーツが、錆びついた線路の上で鳴らす重い音。

歩調に合わせ、首から提げた革表紙の手帳が心臓を叩く。

[A:シロ:冷静]「止まれ。来る」[/A]

前を歩いていた少女が、切り揃えられた黒髪を揺らして振り返る。

透き通る青い瞳。錆の匂いが充満する廃線路の先を射抜く鋭い視線。

継ぎ接ぎだらけの白い病衣の上には、不釣り合いに大きなミリタリージャケット。

右腕を覆う汚れた包帯の下で、何かが淡く発光している。

[A:アキ:冷静]「自律型だね。四機……いや、五機か」[/A]

[A:シロ:興奮]「私が壊す。だから、君は目を閉じていて」[/A]

地を蹴るシロ。

鋼鉄の顎を持つ多脚兵器が、駆動音を響かせて襲いくる。

少女は一切の躊躇なく、細い腕を虚空へと突き出した。

[Magic]《崩壊領域》[/Magic]

[Impact]空間が、文字通り砕け散る。[/Impact]

鼓膜を破るような耳鳴り。

鋼鉄の装甲がガラス細工のようにひび割れ、瞬く間に光の粒子となって爆散。

だが、強大な力の代償は即座に彼女の肉体を蝕み始める。

[Shout]チリッ……![/Shout]

苦悶に眉間を寄せ、膝をつくシロ。

内側から破れる包帯。右腕の皮膚が、ひび割れたように美しい青の結晶へと変異していく。

生きた肉をガラスに置き換える、呪いのような侵食。

[A:アキ:恐怖]「シロ!」[/A]

駆け寄り、その細い右腕を両手で包み込む。

氷のように冷たく、ざらついた無機物の感触。

[A:シロ:照れ]「平気だ。これくらい、すぐ……」[/A]

[A:アキ:冷静]「喋らないで。今、直すから」[/A]

アキの琥珀色の瞳に宿る、淡い光。

[Magic]《時間復元》[/Magic]

指先から溢れた温かな光が、シロの右腕を包み込む。

青い結晶が逆回しの映像のように崩れ、元の白い肌へと戻る。

治癒ではない。対象の時間を巻き戻す、神の領域の異能。

だが、光が収まった瞬間。

[Glitch]ガアァァン……ッ[/Glitch]

明滅するアキの視界。強烈な吐き気が胃の腑から込み上げる。

呼吸が浅くなり、胸の奥から「何か」がごっそりと削り取られる感覚。

[A:シロ:驚き]「アキ? 顔色が悪いぞ」[/A]

[A:アキ:冷静]「大丈夫、なんともないよ」[/A]

手帳を開き、震える指でペンを握る。

記憶を失う恐怖。

何かを忘れ、何かを失う。

[A:シロ:冷静]「アキ。昨日、私が教えた花の名前。覚えているか?」[/A]

上下する喉仏。

花。昨日。彼女が笑って、廃墟の隙間に咲く青い花を指さして……。

そこから先の映像が、ノイズにまみれて真っ白に飛んでいる。

[A:アキ:絶望]「……ごめん。思い出せない」[/A]

シロの青い瞳がわずかに揺れ、唇を噛み締め俯いた。

[A:シロ:悲しみ]「そうか。……気にするな。大した花じゃない」[/A]

アキは手帳のページを強く握りしめる。

この呪いを解くという『最果ての海』へ行かなければならない。

自分の全てが、空っぽのガラス箱になってしまう前に。

第二章: 忘却の水底

水没した廃墟の都市。

膝まで浸かる濁水から、崩れかけた高層ビルが墓標のように突き出ている。

鼻腔を突く、湿った苔と錆びた鉄の臭気。

ひび割れたアスファルトの高台。小さく爆ぜる焚き火の音だけが、辛うじて沈黙を遠ざける。

炎の明かりを頼りに、アキはすり減ったノートにペンを走らせる。

『シロは甘い携帯食料が好き』

『シロの目は青い』

いびつに震える文字の形。

ページをめくる度、自分が自分でなくなっていくような冷気が背筋を這い上がる。

[Sensual]

[A:シロ:冷静]「何をそんなに書いているのだ」[/A]

隣に腰を下ろしたシロから伝わる、雨に濡れた布の匂いと微かな体温。

小さな肩がアキの腕に触れる。

アキはペンを止め、手帳を閉じた。

[A:アキ:照れ]「日記みたいなものだよ。全部、書き留めておきたくて」[/A]

炎の向こうの暗闇を彷徨う、シロの視線。

彼女は右腕の包帯を無意識に押さえている。

袖の下で、ひっそりと結晶化が進行していることをアキは知らない。

[A:シロ:愛情]「なあ、アキ。もし『最果ての海』に着いたら……本当の海を見たら、君は何をしたい?」[/A]

[A:アキ:喜び]「そうだね……波の音を聞きながら、一日中寝そべっていたいな。シロは?」[/A]

[A:シロ:照れ]「私は、綺麗な石を拾う。アキと一緒に」[/A]

[/Sensual]

微かに緩むシロの唇。

だが、その平穏を切り裂くように、水面を叩く複数の足音が響いた。

[A:シロ:驚き]「……囲まれている」[/A]

立ち上がるシロ。

闇の中から、赤いレーザーサイトの光が何本も真っ直ぐに二人を捉える。

雨音に混じる、軍のタクティカルブーツが泥を蹴る音。

[A:カラス:冷静]「絶望したくないなら、そこで立ち止まってろ」[/A]

低く、威圧的な声。

暗闇から歩み出たのは、長身の男。

無造作な黒髪に鋭い三白眼。左目は無機質な義眼が冷たい光を放つ。

軍支給の黒い防寒コートを翻し、男は葉巻もないのに口の端を歪めた。

[A:アキ:驚き]「カラス……兄貴」[/A]

首元で鈍く光る古いドッグタグ。

かつて同じ孤児院で背中を預け合った男が、銃口の向こう側で冷酷に二人を見下ろす。

第三章: 灼熱の真実

[Pulse]ドクン、ドクン、ドクン。[/Pulse]

鼓膜を打つ心音が、周囲の音を遠ざける。

カラスの義眼がアキを射抜き、無数の銃口がシロに照準を合わせる。

[A:カラス:怒り]「大人しく投降しろ、アキ。その化け物は回収する」[/A]

[A:シロ:怒り]「誰が……!」[/A]

前に出ようとするシロ。

その瞬間、強烈な不可視の力が彼女の両肩を真下へと押し潰した。

[Impact]ガァンッ![/Impact]

シロの膝がコンクリートを砕き、めり込む。

カラスの異能、『重力操作』。

[A:カラス:冷静]「動くな。内臓が破裂するぞ。俺は痛覚も味覚もとうに捨てた。お前たちを止めるためなら、なんだってする」[/A]

[A:アキ:怒り]「やめろ! 僕らは海へ行くんだ。呪いを解きに……!」[/A]

カラスの顔から、微かな表情すら消え失せる。

雨に打たれながら、男は低く吐き捨てる。

[A:カラス:絶望]「『最果ての海』など存在しない。あそこは異能者の命を結晶化させ、世界のエネルギーに還元する巨大な焼却炉だ」[/A]

止まる息。

グラリと傾くアキの視界。雨粒がスローモーションで空中に静止する。

焼却炉。希望の地など、最初から。

[A:シロ:狂気]「アキ……逃げて……っ!」[/A]

シロの青い瞳が、かつてない強烈な光を放つ。

[Magic]《絶界崩壊》[/Magic]

[Shout]カァァァァァッ!![/Shout]

カラスの重力場を力でねじ伏せ、シロの周囲の空間が爆発的にひび割れる。

次々と吹き飛ぶ特務兵たち。カラスでさえ腕で顔を庇い後ずさる。

だが。

[Tremble]パキ、パキパキパキッ![/Tremble]

限界を優に超えた力の解放。

シロの足元から、美しい青の結晶が一気に這い上がる。

膝から腿へ。下半身全体が完全にガラスの彫像へと変異する。

[A:シロ:悲しみ]「アキ、行け……! 私のことは、もう」[/A]

糸が切れたように倒れ込むシロ。

アキは泥水に這い蹲り、彼女の下半身にすがりつく。

[A:アキ:恐怖]「嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ!」[/A]

かつてない莫大な力を引き出す。

記憶が飛ぼうが、どうなろうが構わない。

[Magic]《全時間復元》[/Magic]

シロの下半身を眩い光が包み、結晶を強引に生肉へと戻していく。

同時に、アキの脳裏で何かが決定的に砕け散る音がした。

[Glitch]……シロノコトガ、イトオシイ……?[/Glitch]

収まる光。

元に戻るシロの足。

アキは荒い息を吐きながら、顔を上げる。

目の前には、心配そうに自分を見つめるシロ。

青い瞳。黒い髪。

[A:アキ:冷静]「……君は、誰だっけ?」[/A]

嘘だ。名前はわかる。知識としては知っている。

だが、心臓が微塵も動かない。

目の前の少女に対する「温かい感情」が、丸ごと抜け落ちている。

第四章: 空洞の輪郭

[Sensual]

冷たい雨が上がり、白んだ空から差し込む薄日。

アキは泥だらけの手帳をパラパラとめくる。

『シロを守る。僕の命に代えても』

『彼女の笑顔を見ると、胸が温かくなる』

他人の日記を読んでいるような気分。

顔を上げ、少し前を歩くシロの背中を見るアキ。

[A:アキ:冷静]「シロ。歩き疲れてない? 休憩する?」[/A]

[A:シロ:驚き]「……いや、大丈夫だ。私は」[/A]

手帳の記述に従い、アキは彼女の冷え切った手を握る。

脈打つ細い手首。肌の触れ合い。

だが、アキの胸の奥底には何のさざ波も起きない。

義務。ただの記録の再現。

[/Sensual]

握られた手を見つめ、唇の端を微かに震わせるシロ。

アキの瞳の奥から、自分への熱が完全に消え去っていることを彼女は痛いほど理解している。

私が彼を壊した。私のせいで、彼は空っぽになる。

[A:シロ:愛情]「アキ」[/A]

[A:アキ:冷静]「どうしたの?」[/A]

首を傾げるアキ。その優しさは完璧な模造品。

シロは胸を張り裂けんばかりに痛めながら、ふわりと微笑んだ。

[A:シロ:愛情]「なんでもない。君の手、温かいな」[/A]

私が彼を愛している。だから、それでいい。

これ以上、彼の記憶を奪いたくない。彼を壊してしまうことだけは避けたかった。

それでも、歩き方を忘れたように足元をふらつかせるアキを、シロは一人にできない。

そっと、アキの手を強く握り返す。

地平線の向こう。

死の気配を濃厚に漂わせる、広大な白銀の砂漠が見え始める。

背後からは、地の鳴るような軍の追撃部隊の駆動音。

[A:アキ:冷静]「行こう。あそこが、目的地だね」[/A]

空っぽの心が、破滅の地を目指す。

第五章: 記憶がガラスに降る前に

最果ての地。

干上がった海一面に広がる、無数の命が散った白銀の結晶砂漠。

見渡す限りのガラスの海が、残酷なほど美しく陽光を反射している。

背後の丘には、空を埋め尽くすほどの軍用装甲車と自律兵器の群れ。

カラスの姿は見えない。軍本隊による無差別の殲滅。

[A:シロ:冷静]「アキ。目を閉じていて」[/A]

前へ出るシロ。

振り返った彼女の顔は、ひどく穏やかだった。

[A:シロ:愛情]「私が壊す。全部。だから、君は生きて」[/A]

全身から噴き出す青い光。

髪が、肌が、服が、すべて美しい結晶へと変わる。

己の命を完全に燃料として燃やす、極大の光。

[Flash]世界が、白に染まる。[/Flash]

光の粒子となり、空へ昇ろうとするシロの体。

アキの瞳に、その光が焼き付く。

感情はない。記憶もない。

だが、細胞の奥底にある「直感」が警鐘を鳴らして暴れ狂う。

[Think]ダメだ。それを失ってはいけない。[/Think]

アキは首から下げていた命綱のノートを引きちぎり、虚空へ投げ捨てた。

パラパラと舞い散る紙片。

過去の記録も自分を繋ぎ止める鎖も、すべて燃やし尽くす。

[A:アキ:狂気]「還れェェェェェッ!!!」[/A]

喉が裂けるほどの絶叫。

限界を遥かに凌駕する異能の解放。

[Magic]《神の領域・完全復元》[/Magic]

アキの全身から巻き起こる黄金の奔流が、光となって消えゆくシロを包み込む。

同時に、世界を覆っていた無数の結晶砂漠も光に飲まれる。

逆流する時。

砕けるガラスの音。命の脈動。

視界が完全に白く焼き切れ、そして。

◇◇◇

聞こえる波の音。

ザザーッ、と。鼻腔をくすぐる潮の香り。

水色の空の下、そこには本物の海が広がっている。

波打ち際に座り込んでいる銀髪の少年。

虚ろな瞳は何も映さず、ただ波の満ち引きを見つめている。

記憶も、感情も、言葉すらも、すべてを代償として支払い尽くした空っぽの器。

[Sensual]

ザクッ、ザクッと近づく砂を踏む音。

細い腕が、背中からアキを強く、強く抱きしめる。

涙で濡れた頬が、アキの首筋に押し当てられた。

[A:シロ:愛情]「……アキ」[/A]

振り向かせ、その手を両手で包み込むシロ。

ボロボロに泣きながら、それでも太陽のように笑っている。

アキは不思議そうに首を傾げる。何もわからない。

[A:シロ:愛情]「大丈夫。君が忘れた全部、今度は私が教えてあげるから」[/A]

[/Sensual]

静かに波を打つ青い海。

拾い上げた小さな青いガラス片が、シロの手の中でキラキラと光っている。

終わりと始まりの海で、二人の新しい時間が静かに動き出す。

クライマックスの情景

【物語の考察】

本作は「自己犠牲」と「忘却」を主軸に置いた、極めて痛切な終末ファンタジーである。主人公アキはヒロインを救うために自らの「記憶」と「感情」をすり減らしていく。通常、愛する者を救うための力は美徳として描かれるが、本作ではその代価として「愛する理由」そのものを喪失するという残酷なジレンマが提示される。「助けたい」という本能だけが残り、心が空洞化していく過程は、読者の胸をえぐるような喪失感を生み出している。

【メタファーの解説】

『ガラス(結晶)』は、美しさと脆さ、そして「生命の硬直(死)」の象徴である。命をエネルギーへと変える非情な世界のシステムに対して、アキの『時間復元』は生命の流動性を取り戻す抗いと言える。また、アキが記憶を記す『手帳』は彼自身の魂の外部記憶装置であったが、最終章でそれを投げ捨てる行為は「過去への執着を断ち切り、無償の愛(あるいは本能)のみで彼女を救う」という究極の決断を意味する。記憶を失った彼を、今度は彼女が導くという結末は、二人の関係性の美しい反転と新生を描いている。

あなたのアイデアで「続き」を書こう!

「もしもあの時...」「この後二人は...」
あなたの想像をAIが形にします。

0 / 200
本日、あと...
感想をコメントする(返信)

TOPへ戻る