第一章: 終わりの始まり
銀色の灰が、無音のまま降り積もっていく。
肺を焼き、血肉を石英に変える致死の雪。空を覆い尽くす分厚い鉛色の天蓋から、それは際限なくこぼれ落ちていた。
錆びきった鉄の臭気と、乾ききった血の匂い。
吹き抜ける風が削れた線路を撫でるたび、悲鳴のような摩擦音が荒野に響く。
冷え切った鉄枕木の上で、カイトの歩みは唐突に止まった。
重い。限界まで摩耗した関節部が軋みを上げ、鋭い火花を散らす。
風を孕んで翻る漆黒の防塵外套。その隙間から覗く右半身は人工皮膚が凄惨に裂け、無骨な金属装甲が痛々しく剥き出しになっていた。
灰に塗れた銀髪。唯一の光源のように発光する、琥珀色の右眼。
網膜を覆うインターフェースには、赤みを帯びたエラーコードが無数に滝のように流れ落ちる。
[System]警告。動力炉出力、残り三パーセント。冷却液の循環不全。二〇〇秒後に完全機能停止[/System]
膝から力が抜け、乾いた大地へ崩れ落ちた。
砂利が頬を擦る。とうの昔に焼き切れた痛覚センサーは、もはや何の反応も返さない。
視界の端が、ゆっくりと[Blur]暗転[/Blur]していく。
これでいい。守るべき人間はもう、この世界から消え去った。心を持たないただの兵器がスクラップに戻る、それだけの事象だ。
微かな、足音。
じゃり、じゃり。灰を踏みしめる不規則なリズム。
「……ッ」
凍りついた視界に、人影が映る。
ダボついた、明らかにサイズの合わない黄ばんだ防護服。
透き通るような白い肌と、風に揺れる淡い水色の髪。
少女だった。
息を呑むほど痛々しい光景。彼女の左手と細い首筋は、美しくも残酷なガラス質の結晶に深く侵食されている。
[A:カイト:冷静]「……対象外、だ。私に、接近するな」[/A]
掠れた合成音声が、ひび割れたスピーカーから漏れる。
[Sensual]
少女は立ち止まらない。膝をつき、油と灰に塗れたカイトの金属の頬に、素手で触れる。
指先が、異常に温かい。
[A:ルリ:悲しみ]「どうして、こんなにボロボロになるまで……」[/A]
[/Sensual]
少女の大きな瞳から、透明な雫がこぼれ落ちた。
ぽたり。
滴はカイトのひび割れた装甲の隙間へ滑り込み、青い冷却液と混ざり合う。
[Pulse]ドクン[/Pulse]、と。
停止しかけていた動力炉が、不可解な脈動を打った。
[System]生体反応を検知。未登録の生体コード。システム、強制再起動[/System]
[Flash]視界が激しく明滅する。[/Flash]
琥珀色の義眼に、確かな光が戻る。
[A:カイト:驚き]「理解不能だ。私のシステムに、外部からの再起動コマンドなど……」[/A]
[A:ルリ:喜び]「あ……動いた。よかったぁ……!」[/A]
ふわりと、柔らかな笑み。
灰の降る絶望の世界で、その笑顔だけがひどく場違いに咲き誇る。
[A:ルリ:愛情]「ねえ、私、ルリっていうの。あなたのお名前は?」[/A]
[A:カイト:冷静]「……個体識別名、カイト。旧第三防衛プラント所属、自律型機械兵士」[/A]
カイトは軋む体を起こし、少女を見下ろした。
145センチほどの小柄な体躯。風が吹けば吹き飛んでしまいそうなほどの脆さ。
[A:ルリ:興奮]「カイト、だね! あのね、お願いがあるの。私、死ぬ前にどうしても、本物の青い海を見に行きたくて」[/A]
[A:カイト:冷静]「却下する。海は既に干上がり、灰の砂漠と化していると推測する。非合理的な行動だ」[/A]
[A:ルリ:照れ]「えへへ、それでもいいの。いつか絶対、本物の青い海を見に行こうねって、約束したから」[/A]
誰と、とは言わなかった。
ルリの視線は遠く、鉛色の空の向こうを見つめている。
カイトの胸の奥で、エラーとも呼べない微かなノイズが走った。
ただの護衛用ツール。そう自らを定義し直す。
[A:カイト:冷静]「……護衛対象として登録。目的地、海」[/A]
歩き出す二人の背後に、冷たい星明かりが降り注ぐ。
しかし、カイトのレーダーは捉えていた。地平線の彼方から、微細な結晶の嵐を巻き起こしながら、規格外の熱源が猛スピードで接近してくるのを。
[System]警告。クラスS・敵性体接近[/System]
嵐の予感が、錆びた世界を微かに震わせていた。

第二章: 錆びた温もりとガラスの呪い
爆ぜる薪の音が、静寂の夜を撫でる。
パチッ、パチッ。
火の粉が舞い上がり、暗闇に溶けていく。焼けた古タイヤの臭いと、質の悪い密造酒の強烈なアルコール臭が鼻をつく。
[A:ドク:喜び]「ほれ、ガラクタ。お前さんも一杯やるか? 機械の胃袋にゃキツイかもしれねぇがな」[/A]
灰色の無精髭を撫でながら、ドクが薄汚れたスキットルを差し出す。片目を覆うようにずり下げた革製ゴーグル。分厚い油まみれの作業着には、鈍く光る無数の工具がぶら下がっていた。
[A:カイト:冷静]「不要だ。アルコールの摂取は機体のパフォーマンスを著しく低下させる。それに、私はガラクタではない」[/A]
[A:ドク:喜び]「へっ、可愛げのねぇ野郎だ。機械だってな、愛情込めて磨けば心が宿るんだよ」[/A]
ドクは豪快に笑い、スキットルを呷る。
荒野で出会ったこの老人は、カイトの破れた装甲をジャンクパーツで見事に補修してみせた。その腕は確かだ。
焚き火の反対側では、ルリがボロボロのスケッチブックに何かを描いている。
オレンジ色の火光が、彼女の淡い水色の髪を柔らかく照らし出していた。
[A:ルリ:喜び]「見て見て、ドク! カイト! 海の絵、描いたの!」[/A]
差し出された紙には、青いクレヨンで力強く塗られた波と、不器用な魚たちが泳いでいる。
ドクの目尻が下がった。
[A:ドク:愛情]「おうおう、上手じゃねぇか。こりゃ立派な海だ」[/A]
[A:カイト:冷静]「実際の波の波長と、太陽光の屈折率から計算すると、色が不自然だ。もっと濃い群青色であるべきだと推測する」[/A]
[A:ルリ:怒り]「もう、カイトは固いことばっかり言うんだから!」[/A]
頬を膨らませるルリ。
カイトは微かに首を傾げる。なぜ彼女は頬を膨らませるのか。計算外の行動パターン。
だが、胸の奥の動力炉が、わずかに熱を帯びるのを感じた。
温かい。これが、焚き火の熱量というものなのか。
ふと、ルリが小さな咳をした。
コン、コン。
彼女が口元を押さえた左手。その手首から肘にかけて、ガラスのような結晶がびっしりと肌を覆い尽くしている。
炎の光を乱反射する、無機質で美しい死の印。
カイトの視覚センサーが、その結晶の増殖率を瞬時に弾き出す。
出会った時よりも、明らかに進行が早まっている。
[A:カイト:冷静]「ルリ。その腕の侵食率。お前が周囲の致死性の灰を浄化するたびに、進行しているのではないか?」[/A]
場が、凍りついた。
薪の爆ぜる音だけがやけに大きく響く。
[A:ルリ:悲しみ]「……ばれちゃった、か」[/A]
ルリは力なく微笑み、ダボついた防護服の袖を下ろした。
[A:ルリ:照れ]「大丈夫だよ。私がこうやって灰を吸い込めば、少しでも空気が綺麗になるから。カイトやドクが、苦しくならないように」[/A]
[A:カイト:驚き]「非論理的だ! 自らの生命を削る行為は、生物としての生存本能に著しく反する」[/A]
カイトの合成音声が、不意に大きくなる。
自分でも制御できない、荒々しい出力。
[A:ドク:怒り]「馬鹿野郎……ッ! なんで黙ってた!」[/A]
ドクが立ち上がり、拳を強く握りしめる。その目には、かつて灰の病で失った娘の姿が重なっていた。
[A:ルリ:悲しみ]「ごめんなさい……でも、私なんかが生きてる意味、これくらいしか……」[/A]
俯くルリの肩が震えている。
カイトの指先が、微かに痙攣した。
[Think]私は道具だ。エラーは存在しない。なのに、なぜ。この機体はこんなにも、彼女を失う可能性に対して警報を鳴らし続けるのか。[/Think]
その時だった。
[Flash]視界の端が、真紅に染まる。[/Flash]
夜空を切り裂き、血のような赤い閃光が、彼らの野営地目掛けて真っ直ぐに墜落してきた。
轟音。
巻き上がる黒煙の中から、冷酷な足音が響く。

第三章: 赫い強襲と引き裂かれた星月夜
土煙が晴れる。
そこには、血のように赤い髪を持つ男が立っていた。
長身を包むのは、黒い甲冑のような光沢を放つ結晶化した皮膚。鋭い三白眼が、ゴミでも見るかのように彼らをねめつける。
[A:シエン:狂気]「美しいだろう? この星が新しく生まれ変わる産声だ」[/A]
シエン。星の底で生み出された狂信者。
男が指先を軽く振ると、周囲に漂う銀色の灰が意思を持ったように渦を巻き、鋭い無数の槍へと変貌した。
[A:シエン:冷静]「忌まわしい浄化の力を持つ小娘。新世界の誕生を阻む不純物は、ここで排除してやろう」[/A]
空気を切り裂き、灰の槍が放たれる。
[Impact]ガィィィン!![/Impact]
カイトが身を挺し、右半身の金属装甲で槍を弾き飛ばした。火花が飛び散り、人工皮膚がさらに大きく裂ける。
[A:カイト:怒り]「対象への攻撃は、私が排除する」[/A]
[A:シエン:驚き]「ほう? 旧時代にすがる滑稽なガラクタが。まだ動くとはな」[/A]
シエンの姿が掻き消える。
[Tremble]速い。[/Tremble]
カイトの演算が追いつく前に、強烈な蹴りが鳩尾の装甲を陥没させた。
くの字に折れ曲がり、吹き飛ばされるカイト。青い冷却液が宙を舞う。
[A:ルリ:恐怖]「カイト!!」[/A]
シエンがルリの首を掴み上げようとした瞬間。
[A:ドク:怒り]「触るんじゃねぇえええ!!!」[/A]
轟音を立てて、ドクの改造装甲車がシエンに突っ込んだ。
凄まじい衝撃。しかし、シエンは片手で車のバンパーを受け止め、地面にめり込みながらも耐え切ってみせる。
[A:ドク:悲しみ]「カイト! ルリを連れて逃げろ!! 俺が足止めする!」[/A]
運転席のドクは、血塗れの顔で笑った。その手には、起爆装置が握られている。
作業着に染み込んだガソリンの匂い。
[A:カイト:絶望]「ドク、それは……!」[/A]
[A:ドク:愛情]「機械だってな、心が宿るんだ。ルリを、頼んだぞ……!」[/A]
[Flash]閃光。[/Flash]
そして、鼓膜を破る大爆発。
炎の壁が夜空を焦がし、熱波がすべてを吹き飛ばす。
カイトはルリを腕に抱き込み、爆風に乗りながら崖下へと転がり落ちていった。
◇◇◇
冷たい夜風が、木々の間を抜ける。
暗い洞窟の中。カイトの機体は限界を迎えていた。至る所から青い液が滲み、左脚のサーボモーターは完全に沈黙している。
[A:ルリ:悲しみ]「私のせいだ……ドクも、カイトも……私がいるから……」[/A]
膝を抱え、震えるルリ。彼女の涙が、地面の灰をガラスの花に変えていく。
[A:カイト:冷静]「自責は無意味だ。私は護衛任務を遂行しているにすぎない」[/A]
[A:ルリ:怒り]「任務なんてどうでもいい! 私は、あなたに壊れてほしくないの!!」[/A]
ルリが立ち上がり、カイトの冷たい胸を叩いた。
[A:ルリ:悲しみ]「もう嫌だよ……私のために誰かが傷つくのは。私さえいなくなれば……」[/A]
彼女の左手だけでなく、首筋から頬にかけてまで、結晶化が悍ましい速度で進行していた。
最適解が、弾き出せない。
[A:カイト:冷静]「……休息をとれ。夜明けと共に出発する」[/A]
視線を逸らし、洞窟の入り口へ向かうカイト。
背後で、ルリの微かなすすり泣きが響く。
数時間後。
カイトがスリープモードから再起動した時。
そこに、ルリの姿はなかった。
足跡は、シエンのいる星の底へと続いている。
自らを差し出すことで、彼女はカイトを守ろうとしたのだ。
カイトの琥珀色の瞳が、夜の闇の中で激しく明滅した。

第四章: 警報を喰らう鋼
巨大な地下空間。星の底と呼ばれる旧人類進化研究施設。
天井から垂れ下がる無数のケーブルと、床を埋め尽くす銀色の結晶体。
祭壇の中央に、気を失ったルリが磔にされている。彼女の体は既に半分以上が透き通るガラスへと変貌し、淡い光を放っていた。
[A:シエン:喜び]「素晴らしい。この純度の高い不純物を核にすれば、世界を覆い尽くす完全なる結晶の嵐が完成する」[/A]
シエンが両手を広げ、恍惚の表情を浮かべる。
その時。
分厚い鉄の扉が、[Impact]爆音と共にひしゃげ、吹き飛んだ。[/Impact]
砂埃の中から、一歩、また一歩と、異形のシルエットが進み出る。
右腕は半ばから千切れかけ、左目は完全に潰れている。剥き出しの金属装甲から青い火花を散らし、引きずるように歩を進めるカイト。
[A:シエン:驚き]「貴様……なぜまだ動ける? その機体は既に完全に破壊されているはずだ」[/A]
シエンの三白眼が、僅かに見開かれた。
カイトの視界は、真っ赤な警告文で埋め尽くされていた。
[System]致命的損傷。生存率0.0001パーセント。任務の継続は不可能。即時シャットダウンを推奨[/System]
[System]警告。機体崩壊の危険。直ちに稼働を停止してください[/System]
煩い。
カイトは残った左手で、自らの首筋にある装甲を強引に引き剥がした。
ブチィッ!
太いケーブルを引きちぎり、アラート回路を物理的に切断する。
視界のノイズが晴れる。
[A:カイト:怒り]「俺は、道具じゃない」[/A]
低い、地の底から響くような声。
カイトの琥珀色の右目が、かつてないほどの激しい輝きを放つ。
[A:カイト:絶望]「俺は……彼女の、家族だ!!」[/A]
地面を蹴る。
装甲が軋む。モーターが悲鳴を上げる。
限界を超えた過剰駆動が、カイトの身体を弾丸に変えた。
シエンが放つ無数の灰の槍。カイトの体を、容赦なく串刺しにしていく。
肩を貫かれる。脇腹を削られる。太腿を砕かれる。
それでも。
カイトは止まらない。
痛覚はない。だが、ルリを失う恐怖が、魂を焼くように機体を前へと押し出していく。
[A:シエン:狂気]「理解不能だ! 旧人類のガラクタ風情が!!」[/A]
[A:カイト:怒り]「ルリを……返せェェェ!!」[/A]
[Shout]死なせてたまるかァァァ!! 彼女を生かすんだ!![/Shout]
カイトの拳が、シエンの結晶化した顔面に叩き込まれる。
硬質な破壊音。
だが、シエンの反撃がカイトの胸部装甲を深々と貫いた。
動力炉が剥き出しになり、青い光が漏れ出す。
[A:シエン:冷静]「終わりだ、ガラクタ」[/A]
シエンがとどめを刺そうと腕を振り上げた瞬間。
カイトの剥き出しの動力炉が、不気味な高周波を放ち始めた。
[System]リミッター解除。動力炉、臨界点突破(メルトダウン)開始[/System]
カイトが、血に塗れた口元で嗤う。
暴走する鋼の鼓動が、星の底を揺るがせた。

第五章: 青い海の産声
[Pulse]ドクン、ドクン、ドクン。[/Pulse]
空間そのものが震動する。
カイトの動力炉から溢れ出した青い光が、凄まじい熱量を持って周囲の結晶を溶かしていく。
[A:シエン:恐怖]「な、なんだこの出力は……!? 貴様、自爆する気か!!」[/A]
[A:カイト:怒り]「これで……終わりだァァァ!!」[/A]
カイトはシエンの体に組み付き、そのままただの一撃に全てのエネルギーを注ぎ込む。
右腕が、シエンの胸郭を貫通する。
[Impact]ゴァァァァァン!!![/Impact]
閃光。爆発。
絶対的な進化を狂信した男の体は、青い炎に包まれ、ガラスの破片となって四散した。
崩れ落ちるシエンを見届けることなく、カイトは祭壇へと這い進む。
機体は既に炭化し、関節からは黒い煙が上がっている。
「……ル、リ……」
掠れた音声。
祭壇で目を覚ましたルリは、拘束を解き、這い蹲るカイトの元へ駆け寄った。
[A:ルリ:悲しみ]「カイト!! いや、やだ、どうして……!」[/A]
[A:カイト:冷静]「……無事、か。任務……完了、だ」[/A]
ルリは首を横に振る。彼女の全身は、既に九割が結晶化し、透明な彫像のようになりかけていた。
[A:ルリ:愛情]「カイト。私ね、わかったの。私がここに生まれた意味」[/A]
ルリが両手を胸の前で組む。
彼女の体から、眩いほどの白い光が溢れ出す。
[A:カイト:驚き]「やめろ……それ以上力を使えば、お前は……!」[/A]
[A:ルリ:喜び]「泣かないで。私、世界で一番幸せだったよ」[/A]
[Flash]光の奔流が、星の底から天を貫く。[/Flash]
分厚い鉛色の天蓋が、ガラスが割れるように砕け散った。
降り注ぐ、まばゆい陽光。
空気を覆っていた致死性の灰が、光に触れて一瞬にして清らかな水滴へと変わっていく。
そして、眼下に広がったのは。
見渡す限りの、本物の青い海だった。
「……あ……」
カイトの視覚センサーが、熱で焼け焦げ、ノイズまみれになりながらも、その圧倒的な色彩を捉える。
群青色の海面が、太陽の光を弾いてきらきらと輝いている。
波の音が、潮の香りを運んでくる。
ルリの体は完全に結晶と化し、光の粒子となって風に溶けていく。
[Sensual]
最後に残った彼女の温かい右手が、カイトの冷たい頬を優しく包み込んだ。
[A:ルリ:愛情]「綺麗だね、カイト……」[/A]
[/Sensual]
微かな囁き声が、潮騒に紛れて消えた。
誰もいなくなった海辺。
カイトの動力炉の光が、風前の灯火のように明滅する。
琥珀色の義眼から、青い冷却液ではない、透明な液体が零れ落ちた。
最初で最後の、涙。
[A:カイト:悲しみ]「ああ……綺麗だ」[/A]
指先が砂を掴む。
温かい。
[System]システム、完全停止[/System]
静寂。
カイトの銀色の髪を、海風が優しく撫でる。
ただ、寄せては返す波の音だけが、清冽に、どこまでも美しく響き渡っていた。
錆びた鼓動は止まり、彼らは永遠の青に溶けていく。
残されたのは、世界を満たす生命の産声。
灰の海は、終わったのだ。
[FadeIn]――Fin.――[/FadeIn]