清掃員、配信切り忘れにつき。~Sランクパーティが全滅したので、残りカスを掃除(キル)します~

清掃員、配信切り忘れにつき。~Sランクパーティが全滅したので、残りカスを掃除(キル)します~

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第一章 「映り込むな、ゴミ拾い」

鉄錆と腐肉が混ざり合った独特の悪臭。

ダンジョン「新宿大深度地下迷宮」の二十七層は、いつだって鼻が曲がるほど臭い。

俺、相沢レンジは、愛用の強化モップを強く握りしめた。

「おい、そこの掃除屋(スカベンジャー)! 画角に入ってんだよ、退け!」

怒声とともに、風圧魔法(エア・ブラスト)の余波が俺の作業着を叩く。

視線の先には、煌びやかなミスリルの鎧を纏った金髪の青年。

国内登録者数トップ3を誇るSランク探索者、カイトだ。

彼の周囲を浮遊するドローンカメラが、赤く点滅している。

『ライブ配信中:同接120,000人』

空中に投影されたホログラムのコメント欄が、滝のように流れていた。

《邪魔だよゴミ拾いw》

《カイトきゅんの勇姿が見えない!》

《運営、一般人の立ち入り禁止にしろよ》

《あいつ、Fランクの相沢じゃね? まだやってたんだ》

俺は無言で頭を下げ、カメラの死角となる岩陰へ移動する。

壁にこびりついた「スライムの粘液」をヘラで削ぎ落とすのが、今日の俺の仕事だ。

地味で、薄給で、誰からも見下される仕事。

「はぁ……早く終わらせて帰りたい」

ため息をつきながら、俺は耳栓を深く押し込む。

カイトたちの派手な爆裂魔法の音が、少しだけ遠のいた。

俺の視界には、彼らとは違うものが見えている。

ダンジョンの壁、床、空気中に漂う、微細な『黒いノイズ』。

カイトが剣を振るうたび、そのノイズは増殖し、空間に亀裂を入れていく。

(……雑だな。あんなに散らかして)

探索者はモンスターを倒すが、その後に残る『魔力の澱み』までは処理しない。

それが溜まりすぎると、ダンジョンは「消化不良」を起こす。

俺はヘラを動かしながら、壁のノイズを指先でなぞった。

ジュッ、と音がして、黒いシミが光の粒子になって消える。

「よし、綺麗になった」

その時だった。

ズズズ……ンッ!!

地鳴りと共に、フロア全体が脈打つように揺れた。

ただの地震じゃない。

空間そのものが悲鳴を上げている。

「なんだ!? おい、カメラ安定させろ!」

カイトの焦った声。

俺が顔を上げると、彼らが戦っていた「ミノタウロス・ロード」の様子がおかしい。

筋肉が異常に膨張し、皮膚が裂け、中からどす黒いタールのような泥が噴き出している。

『GRRRRRRAAAAAA!!!』

咆哮は音波兵器となり、カイトたちの防壁魔法(バリア)を紙屑のように引き裂いた。

《え? 何これ》

《イベント?》

《カイト逃げろ! これやばいって!》

コメント欄が加速する。

次の瞬間、ミノタウロスの腕が鞭のようにしなり、Sランクパーティの前衛二人を壁に叩きつけた。

グシャッ。

生々しい音。

「あ、が……っ!?」

カイトが腰を抜かし、後ずさる。

彼の自慢のミスリル剣は、飴細工のように捻じ曲がっていた。

ドローンカメラだけが、無慈悲にその惨状を映し続けている。

モンスターは、カイトの喉元へゆっくりと爪を伸ばす。

(あーあ……だから、掃除しろって言ったのに)

俺はモップを肩に担ぎ直し、岩陰から出た。

第二章 バグり始めた深層

「ひ、ひぃぃ……! 来るな、来るなァ!」

カイトの情けない声が洞窟に響く。

股間が濡れているのが、高画質カメラのおかげで全世界に配信されてしまっているだろう。

俺はカイトとモンスターの間に、無造作に割り込んだ。

「おい、そこどけよ」

「は……? 相沢……?」

カイトが涙目で俺を見上げる。

目の前には、ビル3階分はあろうかという巨体。

噴き出すタールは、床の岩盤さえも溶かしていた。

普通の探索者なら、近づくだけで魔力中毒死するレベルの濃度だ。

だが、俺には「ひどい汚れ」にしか見えない。

《おい! 清掃員が自殺しに行ったぞ!》

《逃げろバカ!》

《放送事故になる! BANされるぞ!》

ドローンが俺の背中をアップにする。

俺はポケットから、コンビニで買ったゴム手袋を取り出し、パチンと装着した。

「業務規定外だけど、特別料金(オプション)つけてもらうぞ」

呟くと同時に、俺はモップを構える。

先端についているのは布ではない。

俺が独自に開発した、魔力吸収素材『対汚染吸着繊維』だ。

ミノタウロスが、邪魔なハエを払うように剛腕を振り下ろした。

風圧だけで鼓膜が破れそうだ。

カイトが悲鳴を上げて目を瞑る。

ドォォォォォォンッ!!

爆音が響く。

しかし、衝撃は来なかった。

カイトが恐る恐る目を開ける。

そこには、モップの柄一本で、巨大な拳を受け止めている俺の姿があった。

「……は?」

カイトの口がポカンと開く。

《は?》

《え?》

《コラ?》

《何が起きた???》

コメント欄がフリーズしたように止まり、直後に爆発的な速度で流れ出す。

俺は腕に力を込めることなく、ただ淡々と「作業」を開始した。

「汚れが酷いな。これじゃあ、苦しいだろ」

俺はモンスターに向かって話しかける。

こいつは怒っているんじゃない。

体内に溜まった「魔力のゴミ」に耐えられず、苦しんでいるだけだ。

俺のスキル【分解洗浄(クリーニング)】が発動する。

モップの先端が青白く発光し始めた。

触れた場所から、ミノタウロスを覆っていた黒いタールが、シュワシュワと泡になって消えていく。

『グ、ル……ゥ……?』

モンスターの動きが止まる。

殺意に満ちていた赤い瞳が、次第に穏やかな青色へと変わっていく。

「そうそう、じっとしてろ。今、楽にしてやるから」

俺は手首を返し、モップを回転させる。

遠心力と共に、絡みついた呪いを「拭き取る」。

それは戦闘というより、熟練の職人が巨大な彫刻を磨き上げているような、奇妙な美しさを持っていた。

第三章 業務外、超過勤務

「嘘だろ……あの『暴走種(ハザード)』を、押し返してる……?」

カイトが呆然と呟く。

俺は、最後の仕上げにかかった。

ミノタウロスの核(コア)にこびりついた、最も濃い澱み。

そこにモップの先端を突き立てる。

「【全自動(フルオート)・洗濯(ウォッシュ)】」

カッッッ!!!

洞窟全体が、目が眩むような純白の光に包まれた。

轟音ではない。

鈴が鳴るような、清涼な音が響き渡る。

光が収まると、そこにはモンスターの姿はなかった。

代わりに、掌サイズの美しい宝石が一つ、床に転がっている。

そして、周囲の壁や床も、まるで新築のようにピカピカに磨き上げられていた。

「……ふぅ。頑固な汚れだった」

俺は額の汗を拭い、ゴム手袋を外す。

ドローンカメラが、俺の顔と、その宝石を交互に映している。

静寂。

誰も言葉を発さない。

俺は落ちていた宝石――S級魔石を拾い上げ、カイトの方へ放り投げた。

「あ、わっ……」

慌てて受け取るカイト。

「やるよ。俺は清掃員だからな、討伐報酬はいらない」

そう言って、俺は出口の方へと歩き出す。

「あ、待てよ! お前、一体何なんだ!?」

背後から呼び止める声。

俺は振り返らず、片手を上げて答えた。

「ただの通りすがりだ。……あ、そうだ」

俺はドローンカメラを指差した。

「そこ、まだ汚れてるぞ」

カイトの頬には、先ほどの戦闘でついた泥がへばりついていた。

その瞬間。

《うおおおおおおおおお!!》

《かっけええええええええ!!》

《誰だ今の!? 名前教えろ!!》

《Fランクの相沢? 嘘だろ!?》

《スパチャ投げさせろ!!》

《今の動き、剣聖より速かったぞ……》

同接数は、いつの間にか500,000人を超えていた。

「……やべ」

俺はポケットの中のスマホが、通知で熱を持っていることに気づく。

俺自身の記録用チャンネル『新宿掃除日誌(登録者数12人)』。

確認のために画面を見ると、そこに表示されていた数字は――。

『登録者数:12人 → 890,000人』

「……配信、切り忘れてた」

俺の呟きは、熱狂するインターネットの海に飲み込まれていった。

明日のシフト、どうしようか。

そんな現実的な悩みを抱えながら、俺は光の出口へと足を速めた。

AI物語分析

【主な登場人物】

  • 相沢レンジ (Protagonist): Fランクの清掃員(スカベンジャー)。「分解洗浄」という、一見地味だが実は物理法則を無視して物質を還元する規格外のスキルを持つ。名誉欲がなく、ただ「汚いのが許せない」という動機で動く職人気質。
  • カイト: Sランク探索者パーティ「黄金の牙」のリーダー。実力はあるが、承認欲求とプライドが高すぎる典型的な「配信者様」。レンジの引き立て役だが、後にレンジの最初のファン(兼パシリ)になる素質を持つ。
  • ミノタウロス・ロード: 今回のボス。単なる怪物ではなく、ダンジョンの自浄作用が追いつかずに「汚染」で暴走した被害者的な側面を持つ。

【考察】

  • 「掃除」というメタファー: 本作における「掃除」は、単なる清掃ではなく、行き過ぎた消費社会(探索者による乱獲と放置)へのアンチテーゼとして機能している。英雄が「壊す」存在なら、主人公は「治す」存在である。
  • 配信文化の光と影: 承認欲求に塗れたカイトと、それを冷めた目で見つめるレンジの対比は、現代のSNS社会における「本質的な価値とは何か」という問いかけを含んでいる。
  • スキルの二面性: 「汚れを落とす」能力は、解釈次第で「存在そのものを消し去る」最強の即死スキルになり得る。主人公がそれを「掃除」と認識しているからこそ、平和利用できているという危ういバランスが魅力。
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