五億の絶望、買われた未亡人

五億の絶望、買われた未亡人

主な登場人物

雨宮 美桜 (Amamiya Mio)
雨宮 美桜 (Amamiya Mio)
26歳 / 女性
透き通るような色白の肌、常に潤んだような色素の薄い瞳。儚げだが、芯には狂気を秘めた美貌。白いワンピースが汚れる姿が似合う。
久城 怜 (Kujo Rei)
久城 怜 (Kujo Rei)
32歳 / 男性
氷のような銀縁眼鏡、感情を読ませない漆黒の瞳。仕立ての良い三つ揃えのスーツ。指先が異常に綺麗。
雨宮 健人 (Amamiya Kento)
雨宮 健人 (Amamiya Kento)
28歳 / 男性
流行を追った派手なブランド服、軽薄な茶髪。笑顔が胡散臭い。
11 4425 文字 読了目安: 約9分
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第1章: 値踏みされる魂

シャンデリアの暴力的な光。視界が白く焼き尽くされる。

纏うのは、夫が「記念日だから」とあつらえた純白のワンピース。そのシルクの裾を握りしめる指先は、血の気を失い白蝋のように硬直している。栗色の波打つ髪は冷や汗で頬に張り付き、かつて琥珀のように透き通っていた瞳は、今や恐怖で濁り、焦点さえ結べない。

地図に載らない地下のホール。

吐き気を催すほどの香水の甘さと、古びた紙幣のカビ臭さ。それらが混ざり合い、ねっとりと肺腑を犯す。

「おい、もっと胸を張れよ。商品らしくな」

耳元で囁かれる声。背筋が粟立つ。

雨宮健人。私の夫。流行りのツイードジャケットを着崩し、整髪料で固めた茶髪を揺らす男。彼にとって私は妻ではない。家畜市場へドナドナされる仔牛。ただリードを握られているだけの存在。

「エントリーナンバー108番。若き未亡人……いや、これから未亡人になる予定の、極上の雌です」

司会者の下卑た紹介。同時に、無慈悲なスポットライトが私を射抜く。

客席から湧き上がるのは、値踏みするような視線、視線、視線。脂ぎった欲望が、無数の蟻となって肌を這い回る。

「夫の借金五千万。スタート価格は五百万から!」

呼吸停止。心臓が早鐘を打ち、肋骨を内側から砕かんばかりの衝撃。

隣で祈るように両手を組む健人。私の安全を? 否。もっと高く、もっと高く値がつくことを。

「六百万!」

「八百万!」

飛び交う数字。私の命の値段。

吐き気が喉元までせり上がる。床に崩れ落ちそうになった、その刹那。

「五億」

喧騒を瞬時に凍結させる、絶対零度の響き。

会場の空気が一変し、全員の視線が一点に吸い寄せられた。

最前列、黒革のソファに深く腰掛けた男。

氷のような銀縁眼鏡の奥、感情の一切を排除した漆黒の瞳。それが私を――いいえ、私の魂の芯を見据えていた。闇そのものを切り取ったかのような三つ揃えのスーツ。組まれた足の革靴は、血濡れたような艶を放つ。

久城怜。この街の影を統べるフィクサー。

「ご、五億……!? か、彼だけの値段ですか?」

裏返る司会者の声。

久城は細く長い指で眼鏡のブリッジを押し上げ、薄い唇を優雅に歪めた。

「違う。その女の『絶望』を買うと言ったんだ。肉体(うつわ)ごと、全て」

ハンマーが振り下ろされる乾いた音。私の人生の終わりと、地獄の始まりを告げる弔鐘。

第2章: 硝子の靴の破砕

久城の邸宅。美術館のように静謐で、墓場のように冷たい。

広大な寝室の中央、天蓋付きのベッドに腰掛ける私。白いワンピースは剥ぎ取られ、薄いシルクのシュミーズ一枚。

「震えていますね。寒いのですか? それとも、期待しているのですか?」

近づく革靴の音。

久城は私の前に立ち、まるで壊れ物を扱うように顎を人差し指で持ち上げた。

陶器のような冷たさ。触れられた箇所から熱が奪われていく。

「け、健人は……夫は……」

「まだあの男の名前を口にするのですか。君には躾が必要らしい」

サイドテーブルから取り出されたのは、銀色に光る聴診器。

医者が使うものではない。もっと無機質で、装飾的な、冷たい金属の塊。

「動かないで。君の心音(こころ)に、まだあの男への未練という雑音が混じっていないか、検品します」

拒絶しようとした手首は、片手で軽々と制圧され頭上に縫い留められる。

冷え切ったチェストピースが、シュミーズの上からではなく、直接、左胸の膨らみに押し当てられた。

「ひっ……!」

皮膚を焼く冷たさ。電流のような刺激が背骨を駆け抜ける。

目を細め、聴診器のイヤーピースを通して私の鼓動を聞く彼。

「速い。……嘘つきな心臓だ。口では拒んでも、体は正直に反応している」

金属の円盤が、胸のふくらみから肋骨をなぞり、下腹部へと滑り落ちる。

冷感と、彼の手の僅かな温もりが混在し、感覚が狂い始める。

お腹の奥が熱い。拒絶しなければならないのに、次の動作を待ってしまっている自分への嫌悪。

「君は美しい。特に、何かに耐えている時の表情が」

聴診器は放り投げられ、今度は太腿に滑り込む手。

指先が、最も恥ずかしい場所、秘められた花芯の入り口を、フェザータッチで撫でる。

直接ではない。布越しの、焦れったい摩擦。

「あ、あっ……やめ、て……」

「泣かないでください。君の涙一粒でさえ、私の資産なのだから」

残酷なほど甘い囁き。わざと敏感な突起を爪先で弾く悪魔。

頭の中が白く弾ける。

屈辱なのに。家畜以下の扱いなのに。

私の体は、彼の指先一つで、甘い蜜を滴らせる浅ましい花へと変えられていく。

第3章: 仕組まれた地獄

季節が三つ巡る頃。私は「雨宮美桜」という抜け殻を脱ぎ捨て、久城の操り人形として社交界に君臨していた。

目的はただ一つ。私を売った夫、雨宮健人を破滅させること。

久城の筋書き通り、架空の投資話に食いつき、さらなる借金を重ね、ついには会社の金にまで手をつけた健人。

今夜は、その証拠を突きつけ、彼を社会的に抹殺する仕上げの夜。

久城の書斎。彼が戻るのを待つ時間。

重厚なマホガニーの机。整然と並ぶ洋書。

ふと目についた、机の端に置かれた一冊の革表紙のファイル。背表紙には何も書かれていない。

吸い寄せられるように手に取り、開く。

一枚目。健人の借用書。

二枚目。健人の浮気相手の興信所レポート。

そこまでは想定内。だが、ページをめくる手が止まる。

三枚目。

『オークション開催計画書』。

主催者欄には、流麗な筆記体で『Rei Kujo』のサイン。

四枚目。

『ターゲット選定:雨宮美桜。最適解:夫の負債を利用した精神的孤立の演出』

呼吸困難。

視界の明滅。

文字が、意味を持った毒虫となって脳内を食い荒らす。

夫が借金をしたのも、私が売られたのも、偶然ではなかった。

最初から、久城が仕組んでいたのだ。私という「商品」を手に入れるために、彼が健人を罠に嵌め、地獄への道を作り上げたのだ。

救われてなどいなかった。

より深く、より逃げ場のない、美しい檻の中に誘い込まれていただけ。

「……ご覧になりましたか」

背後で閉まる重い扉の音。

振り返れば、久城がそこに立っている。

悪びれる様子など微塵もない。むしろ、最高傑作の絵画が完成する瞬間を待ちわびていたかのような、恍惚とした表情で。

第4章: 堕ちる快楽

「悪魔……!」

ペーパーナイフを握りしめ、突進する。

殺してやる。私の人生を、心を、尊厳を、ゲームの駒のように弄んだこの男を。

切っ先が彼の喉元に迫る。

だが、久城は動じない。避けることさえ。

私の手首を掴むと、あろうことか、その刃を自らの頸動脈へと強く押し当てた。

赤い血の珠が、白い皮膚に滲む。

「さあ、殺せ。その手で私を終わらせてみろ」

底なしの沼のように暗く、狂おしいほどに熱い瞳。

「だが、私を失えば君はどうなる? 元の『ただの惨めな女』に戻るか? それとも、あの愚かな元夫の元へ帰るか?」

「黙って……ッ!!」

「君はもう知っているはずだ。痛みと屈辱の中でしか、生を実感できない身体になっていることを」

手が重なり、さらに強くナイフが喉に食い込む。

ツーと首筋を伝う血。彼の真っ白なシャツを汚す鮮烈な赤。

それを見た瞬間、私の中で何かが決定的に壊れた。

殺したい。

でも、この男がいなくなったら、私は誰のために息をすればいい?

憎しみと、依存と、どうしようもない渇望。ドロドロに溶け合い、脳髄を焼き尽くす業火。

「あぁ……ああぁぁぁッ!!」

獣のような咆哮。ナイフを取り落とし、血の滲む彼の首筋に噛み付く。

「いい子だ……」

引き寄せられる腰。机の上へと乱暴に押し倒される身体。

書類が散乱し、インク瓶が床で砕け散る。

引き裂かれる下着。準備もなしに、その硬く熱い灼熱の楔が、私の最奥へと突き立てられた。

「ぎっ……!」

裂帛の痛み。

だが、それがスイッチとなる。背骨を駆け上がる稲妻のような快楽。

彼の剛直が、私の内壁を、理性を、人間としての最後の砦を、容赦なく抉り、犯していく。

「君の絶望は、こんなにも締まりがいい……」

「あっ、あぐっ、久城さん、れい、さんッ……!」

打ち付けられるのは愛ではない。魂への刻印。

激しい律動のたび、口からは言葉にならない喘ぎが漏れ、涎が顎を伝う。

チカチカと明滅する視界。白目を剥きそうになるのを必死で耐える。

彼の楔が、私の一番深い場所、子宮の入り口をノックするたび、私は彼の一部になり、彼もまた私の一部になる。

憎い。愛しい。殺意と、抱かれたいという渇望。

矛盾する感情が、絶頂という名の白い爆発に飲み込まれていく。

彼の背中に爪を立て、血が滲むほど食い込ませながら、彼という地獄の底へ、喜んで堕ちていく。

「あ、あ、だめ、こわれる、頭、まっしろに……ッ!!」

第5章: 永遠の共犯者

雨宮健人は、廃人同然になっていた。

横領発覚。借金取りに追われ、路上で土下座をする姿に、かつての傲慢な面影はない。

「み、美桜……頼む、助けてくれ……俺たちは夫婦だろう……?」

雨の中、足元にすがりつく彼を見下ろす。

今の私が纏うのは、久城があつらえた漆黒のベルベット。首には彼が贈ったダイヤモンドのチョーカー。

それは飼い犬の首輪のように重く、そして心地よい。

「夫婦? ええ、そうね」

バッグから取り出した一枚の紙。

離婚届ではない。彼が横領した証拠書類の原本と、裏社会への『紹介状』。これを渡せば、彼は二度と日の当たる場所を歩けない。

「さようなら、健人さん。あなたはもう、私の絶望の役には立たないわ」

放り投げられる紙。踵を返す私。

背後の絶叫は、雨音にかき消されていく。

音もなく滑り込む黒塗りのリムジン。

開くドア。闇よりも深い瞳をした魔王が、私を待っていた。

「終わりましたか」

「はい、旦那様」

車に乗り込み、隣へ。

満足げに微笑み、私の髪を優しく撫でる久城。

その手は、私を地獄へ突き落とした手であり、私を唯一救い出した手でもある。

窓の外、灰色に沈む世界。

私はもう、光の世界には戻れない。戻るつもりもない。

この美しく、残酷で、甘美な檻の中で、彼に骨の髄まで愛され、壊され続けること。

それこそが、私が選び取った、世界で最も不道徳なハッピーエンド。

「帰りましょう、美桜。今夜は長い夜になりますよ」

「……はい。私を、壊していいのはあなただけです」

走り出す車。

彼の肩に頭を預け、安堵と共に目を閉じる。

私の心臓は今、彼の手の中でしか、その鼓動を刻むことを許されていない。

クライマックスの情景

AI物語分析

【物語の考察:絶望という名の恋】

本作の核となるのは、「愛」と「支配」の境界線が溶解するプロセスである。主人公・美桜は、夫という社会的安寧を失い、久城という絶対的な支配者に「所有」されることで逆説的に自己を確立する。これはストックホルム症候群的な依存であると同時に、自らを地獄へ堕とすことでしか得られない究極の「赦し」の物語でもある。

【メタファーの解説】

聴診器と心音:久城が美桜の心音を聞く行為は、肉体的な愛撫を超えた「魂の検閲」を意味する。心臓の鼓動を支配することは、彼女の生命そのものを握るメタファーである。
ダイヤモンドのチョーカー:最終章で美桜が身につけるチョーカーは、美しい「首輪」である。それは隷属の証であると同時に、彼女が自ら望んでその檻に入ったという、歪んだ愛の契約書として機能している。

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