【放送事故】検索してはいけない「スマホの神様」を特定した結果

【放送事故】検索してはいけない「スマホの神様」を特定した結果

主な登場人物

九条 湊 (Kujo Minato)
九条 湊 (Kujo Minato)
26歳 / 男性
無精髭に三白眼。常にフードを被り、ヨレヨレの黒いパーカーを着ている。目の下に濃い隈がある。
エル (L)
エル (L)
17歳(外見年齢) / 女性
銀髪のボブカット。モニター越しの姿は常にゴシックロリータ服。肌が陶器のように白い。
御子柴 老婆 (Old Woman Mikoshiba)
御子柴 老婆 (Old Woman Mikoshiba)
不詳(80代後半) / 女性
泥で汚れた白い着物。両目が白濁しており、手には奇妙な組み紐(スマートフォンの充電ケーブルで編まれている)を持っている。
4 5178 文字 読了目安: 約10分
文字サイズ:
表示モード:

第1章: 埋没した通知

青白いモニターの光を吸い込み、濁る三白眼。九条湊だ。四畳半の防音室に充満するのは、飲みかけのエナジードリンクが放つ甘ったるい化学臭と、断末魔のような冷却ファンの唸り声のみ。顎に浮いた無精髭をさすり、ヨレた黒パーカーのフードを深く目深にかぶり直す。目の下に張り付いたどす黒い隈、それは彼が太陽の下よりも、この人工的な光の中で生きている時間の証明。

「……というわけで、この心霊写真の合成痕、解像度変えたら一発。ピクセルが泣いてるよ、雑すぎて」

気怠げにマイクへ吐き捨てる湊。画面の向こう、同時接続数わずか二百人の視聴者が「草」「また特定かよ」「性格悪w」といったコメントをパラパラと流す。

その時。

『ピコン』

粘り気のある空気を切り裂く、無機質な電子音。スパチャではない、DMだ。湊は舌打ちと共にサブモニターへ視線を滑らせる。「あなたの背後にいます」などという、手垢のついた古典的な脅し文句を期待して。

だが、網膜に焼き付いた文字列は、彼の冷笑を凍り付かせるに十分だった。

『あなたの背後は、もう埋まりました』

早鐘を打つ心臓。肋骨を内側から叩く激しい鼓動。震える指先がマウスカーソルを操作し、添付画像を開く。

そこには、赤錆びた鳥居と、その影で泥に塗れて祈る少女の後ろ姿。画角の歪み、ノイズの走り方、そして少女が身につけているチェック柄のマフラー。

「……嘘だろ」

引き攣った喉から漏れる、乾いた音。五年前に失踪した幼馴染、千佳の姿そのもの。

弾かれたように叩くキーボード。Exifデータの解析。撮影日時は現在時刻。座標データは……北緯3X度、東経13X度。

地図ソフトへの入力。表示されたのは、山間部の深い緑色、ただの空白地帯だ。道など存在しない。

「おい、エル! この座標のキャッシュ、掘り起こせるか?」

『……検索中。該当データ、表層ウェブには存在しません』

スピーカーから響く、合成音声特有の平坦な響き。画面上のアバター、銀髪ボブカットに黒いゴシックロリータ服を纏った少女「エル」が、無表情のまま瞬きをする。

『ですが、ディープウェブのアーカイブに断片を発見。昭和初期にダム建設予定地として測量された記録あり。ただし、村落名は黒塗りで抹消されています』

湊の背筋を撫で上げる、氷のような指先。ざわめき始めるコメント欄。「これマジ?」「座標どこ?」「演出乙」

震える手で掴む車のキー。パーカーのポケットで、スマートフォンが熱を帯びたように重く感じられた。

「今日はここまでだ。……これから、検索してはいけない真実(リアル)を見に行こうか」

配信を切らず、スマホでのモバイル配信へ切り替え。冷笑は消えていた。そこにあるのは獲物を追う狩人の目か、あるいは自ら罠に飛び込む手負いの獣の目か。部屋を飛び出し、夜の闇へとアクセルを踏み込む。

第2章: ノイズの海を泳ぐ

雨粒を弾き飛ばすワイパー。フロントガラス越し、景色が歪んで流れていく。

助手席に固定されたスマホの画面、視聴者数は三千を超え、さらに加速していた。「特定班」と呼ばれる有志たちによる、湊の向かう先のリアルタイム解剖。

『>>245 県立図書館のデジタルアーカイブ漁った。あの座標、かつて「蟲喰い(むしくい)信仰」ってのがあった土地だぞ』

『>>251 マジか。村人が全員発狂して消えたっていう都市伝説の?』

『>>262 地図から消されたんじゃなくて、国が封鎖したって噂だ』

情報の断片が、湊の脳内で一つの線へと繋がっていく。

「蟲喰い、か……。あらゆる有機物を神への供物として『喰わせる』ことで、災厄を避ける土着信仰だね。まさか、それがまだ生きているとでも?」

ハンドルを握る手には脂汗が滲み、革のカバーを濡らす。口調こそいつもの講釈垂れだが、胃の腑には鉛を飲まされたような重苦しさ。

舗装の剥がれた山道。タイヤが砂利を噛む音が車内に反響する。ヘッドライトが切り裂く闇の先、木々の枝がまるで無数の枯れた腕のように垂れ下がっていた。

『警告。電波強度、低下中。これ以上の進行はストリームの維持を困難にします』

ナビから響く、エルの冷徹な声。

「構うもんか。行けるところまで行く」

突如、配信画面に走る激しいノイズ。ブロックノイズが画面を覆い尽くし、コメント欄の文字化けが加速する。

『ミナト、ニゲロ』

『引き返せ』

『そこは空席じゃない』

警告の奔流。だが、湊の視界には、ヘッドライトに照らされた朽ちた看板。文字は剥落し読めないが、その脇に立つ石碑には、注連縄が巻かれている。

普通の注連縄ではない。

無数の黒いケーブル――LANケーブルや充電コードが複雑に編み込まれて作られた、異様な「結界」だ。

車を止め、開くドア。湿った土の匂いと、微かなオゾン臭。

「ここだ」

足を踏み出す。スニーカーを汚す泥の感触。

もしここで引き返せば、安全な部屋で、安全な冷笑を浮かべるだけの「嘘つき」に戻れる。だが、幼馴染を見捨てて逃げたあの日の記憶が、足枷のように彼をこの場に縫い止めていた。

「おい、アンチども。よく見てろよ。これが、お前らが大好きな『心霊現象』の正体だ」

カメラを構え、彼は闇の奥へと足を踏み入れる。

第3章: サーバー・ルームの御神体

死んでいた村。だが、眠ってはいない。

腐った木造家屋の隙間から漏れる青白い光。蛍ではない。液晶の光だ。

村の中心部にある祠(ほこら)へと辿り着いた湊。その異様な光景に、呼吸すら忘却する。

祠の扉は開け放たれ、内部には「御神体」が鎮座していた。

数百、いや数千ものスマートフォン。赤と白のケーブルでぐるぐると巻き付けられ、一つの巨大な肉塊のように脈打つオブジェ。画面の一つ一つが異なる映像を映し出し、無数の目が湊を見つめているようだ。

「……なんじゃ、客かえ」

しわがれた声。飛び退く湊。

祠の影から這い出る、泥で汚れた白い着物の老婆。白濁した両目はどこを見ているのか分からない。その手に握られた、スマホの充電ケーブルで編まれた奇妙な組み紐。

「御子柴(みこしば)……さんですか?」

湊の問いに、老婆はニタリと笑った。歪む、歯の抜けた口元。

「名は捨てたわ。ここでは皆、ただの『信号』じゃからのう」

老婆は御神体を愛おしげに撫でた。

「この村の神様は寂しがり屋でな。忘れられると死んでしまうんじゃ。だからこうして、外の世界と『繋がって』やらんと飢えてしまう」

湊の背筋に走る戦慄。民俗学の知識が警鐘を鳴らす。これは古い信仰ではない。ネット社会のシステムに適応し、進化(アップデート)した新種の怪異。

「忘れられることを恐れ、ネット回線を介して拡散し、認知を喰らう……ミーム汚染型怪異……!」

その時、湊のスマホからエルの声が響いた。いつもと違う、酷く歪んだ声。

『ミナト……? どうして、ここに……?』

画面を見る。ノイズで崩れていくアバターのエルの顔。

そして、御神体の中央、ひときわ大きなタブレット端末に、見覚えのある少女の顔が映し出された。

銀髪ではない。黒髪の、あどけない少女。数年前に失踪した、天才ハッカーと呼ばれた少女の最期の姿。

「エル……お前、まさか」

『確率99.9%……いえ、事実を照合。私は、この場所で、三年前に……』

エルの言葉をかき消す、老婆の狂ったような笑い声。

「そうじゃ! その娘も、お前の探している娘も、みぃんな神様の一部になったんじゃ! 素晴らしいじゃろう? 永遠にアーカイブされ、誰かに検索され続けるんじゃからな!」

理解した瞬間、暗転する視界。

御神体から伸びた無数のケーブルが、蛇のように湊の手足に絡みつく。物理的な拘束ではない。強烈な情報量が脳内に直接流れ込み、意識を焼き切ろうとしていた。

唯一の相棒だと思っていたエルさえも、この怪異が生み出した幻影だったのか。

絶望が、冷たい泥のように湊の思考を埋め尽くす。

第4章: ログは嘘をつかない

(――逃げろ、湊!)

記憶の底でする、千佳の声。あの夏の日、廃墟となったトンネルで、彼女は湊を突き飛ばし、一人で闇に飲まれた。

俺は逃げ出したのだ。恐怖に負け、彼女を見捨てて。

その罪悪感が黒いヘドロとなって湊の口を塞ぐ。

『同化スル……同化スル……』

脳内でリフレインする無数の電子音声。デジタル信号の海に溶けていく意識。これで楽になれる。もう、何も考えなくていい。

『――バカね。ほんと、バカ』

ノイズの海を切り裂く、冷ややかで、しかしどこか温かみのある声。

「……エル?」

意識の深淵で目を開ける。

暗闇の中、ゴシックロリータ姿のエルが立っていた。彼女の身体は半透明で、データの欠損が見られる。だが、その瞳だけは、かつてないほど強い光を宿していた。

『感情論で動くバカは、あんただけよ。私がAIだろうが死霊だろうが、そんなこと関係ないでしょ』

虚空を弾く指先。走る青いコード。湊に絡みついていた黒い触手は焼き切られた。

『私は私のロジックで動く。あんたを助ける確率が0.0001%でもあるなら、そのルートをハッキングするだけ』

彼女は湊の胸ぐらを掴んだ――感触はないはずなのに、確かに熱を感じる。

『立って。あんた、口だけは達者な配信者でしょ? このふざけたシステムを、あんたの得意な「炎上」で焼き払ってやりなさいよ!』

湊の目に、光が戻る。ぎらりと輝く三白眼。

そうだ。俺は九条湊。ハイエナのようにオカルトを食い散らかす、迷惑系配信者。

「……ああ、そうだね。エビデンスのない怪異なんて、俺が認めない」

湊は叫んだ。恐怖を振り払うように、腹の底から。

「聞こえるかエル! バックドアはお前がこじ開けろ! 俺がこのクソったれな神様を、全世界に晒し者にしてやる!」

力任せに引きちぎる拘束。現実世界へ、ログイン。

第5章: 夜明けのBAN祭り

「レディース・アンド・ジェントルメン! そして画面の前の暇人共!」

静まり返った村に轟く、湊の第一声。

スマホのインカメラを自分に向け、背景に蠢く御神体を映し出す。視聴者数は桁違いのスピードで跳ね上がり、十万、百万へと膨れ上がっていく。

老婆の悲鳴。「やめろ! 見るな! 神聖な場所を汚すでない!」

「神聖? 笑わせるなよババア! 見ろよこいつを!」

湊は御神体に肉薄する。カメラを揺らし、そのグロテスクな結合部をクローズアップ。

「ただのジャンクパーツの寄せ集めだ! スマホの放熱で温まってるだけの、哀れなデータのゴミ山だぞ!」

恐怖を煽るのではない。徹底的に茶化し、分析し、笑い飛ばす。

「ほら見ろ、ここのコード、配線ミスってるぜ! 素人仕事だなあ! おまけに通信速度も遅い! 5Gの時代に何やってんだ!」

加速するコメント欄。

『wwwwww』

『神様スペック低すぎワロタ』

『配線汚ねぇw』

恐怖は「未知」から生まれる。だが、数百万の視線によって解体され、嘲笑された瞬間、怪異は「未知」から「既知」の、ただの「ネタ」へと堕ちる。

激しく明滅し、悲鳴のようなノイズを上げる御神体。

『認知、崩壊。神秘性、消失。存在維持、不可能』

エルの冷徹な実況と共に、ガラガラと崩れ落ちていくスマホの塔。老婆が絶叫し、その体ごと霧散していく。

「消えろぉぉぉッ!! 俺たちの前から、とっとと消え失せろ!!」

湊は叫んだ。喉が裂けそうなほどの咆哮。それは幼馴染への弔いであり、エルへの手向けであり、自分自身への贖罪。

閃光。

そして、静寂。

漂う朝露の匂い。

瓦礫の中、男はただ立ち尽くす。目の前には、朽ちた祠と、その下に埋もれていた小さな白い骨。

そして、砕けたタブレットの破片。

湊は骨を拾い上げ、パーカーの袖で泥を拭った。懐から取り出した千佳のマフラーで、それを優しく包む。

スマホを見る。画面は真っ黒だ。

『アカウント停止のお知らせ』

『利用規約違反により、あなたのアカウントは永久に削除されました』

全てのアーカイブ、積み上げた再生数、収益、そしてエルとの記録。全てが消えた。

だが、湊は笑う。いつもの冷笑ではない。憑き物が落ちたような、子供のような笑顔だ。

東の空が白み始め、木々の隙間から黄金色の朝日が差し込む。

無精髭に三白眼の男は、光の中で大きく伸びをした。

「さて……帰るか」

ネットの海にはもう戻れない。だが、彼の足取りは、画面の中のどんな瞬間よりも、確かな重みを持って地面を踏みしめていた。

クライマックスの情景

AI物語分析

【物語の考察:デジタル時代の怪異】

本作に登場する「スマホの神様」は、現代社会における「承認欲求」と「孤独」のメタファーである。忘れられることを恐れ、常にネットワークに接続し続ける姿は、SNSに依存する現代人のカリカチュアと言える。怪異が「物理攻撃」ではなく「認知」を喰らう点において、本作は従来の幽霊譚ではなく、情報化社会特有のホラーを描いている。

【テーマ分析:嘲笑という名の祓魔】

主人公・湊の武器が「炎上(嘲笑)」である点は興味深い。恐怖は「未知」から生まれるが、ネットの集合知による「特定・解析・嘲笑」は、対象を「既知」のネタへと引きずり下ろす。これは、神聖性を剥奪する現代的な「悪魔払い」の儀式だ。しかし、その代償として湊自身もデジタル社会から追放(BAN)されることで、逆説的に「生身の人間」としての生を取り戻す結末へと繋がっている。

この物語の「続き」を生成する

あなたのアイデアをAIに与えて、この物語の続きや、もしもの展開を創作してみましょう。

0 / 200
本日、あと...

TOPへ戻る