【悲報】S級探索者に殺されたので、死者(リスナー)とコラボして復讐配信してみた

【悲報】S級探索者に殺されたので、死者(リスナー)とコラボして復讐配信してみた

主な登場人物

夜以 ヨイ (Yoi)
夜以 ヨイ (Yoi)
17歳 / 男性
ボサボサの黒髪で目が隠れている。首から常に壊れたゴーグルを下げ、ボロボロのパーカーを着ている。
レオン・スターライト
レオン・スターライト
19歳 / 男性
金髪碧眼、輝くような笑顔。常に特注の白銀の鎧を身にまとい、光の粒子を漂わせている。
アイリス
アイリス
享年18歳 / 女性
半透明の身体。胸には致命傷の跡がある。生前着ていたローブは血で汚れているが、顔立ちは可憐。

相関図

相関図
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3 5451 文字 読了目安: 約11分
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第1章: 裏切りの生配信

闇の中、赤色のランプが明滅する。心臓の鼓動のように。

地下五百メートル。S級ダンジョン『奈落の顎(アギト)』の最深部。そこは腐った魚とオゾンが混じり合う、死の匂いが支配する場所。

その澱んだ空気の中、**夜以ヨイ**の指先は震え、カメラのピントを探っていた。手入れされぬボサボサの黒髪。首から下げたヒビ割れたゴーグルが、歩くたびにカチリと乾いた音を立てる。泥とオイルで原形を留めぬパーカーの袖口からは、擦り切れた糸が悲鳴のように垂れ下がっていた。

「……レオン、画角、これでいいかな」

湿った岩肌に吸い込まれるような、か細い声。

対してレンズの向こう、圧倒的な「光」がそこにあった。純白の聖銀(ミスリル)の鎧。泥一つ跳ねていない黄金の髪。世界最強の探索者にして、登録者数一億人を誇る『スターライト』のリーダー、レオン。背負った人工太陽の魔法光が、カメラに向け完璧な角度の微笑を浮かび上がらせる。

「最高だよ、ヨイ。君は本当に優秀な――荷物持ちだ」

碧眼が、細められる。

瞬間、ヨイの腹部を貫く灼熱。

熱い。否、冷たい。

理解よりも早く、痛覚が叫ぶ。視線を落とせば、薄汚れたパーカーを貫通し、レオンの短剣が深々と埋まっていた。

「が、あ……?」

「悪いな、ヨイ。最近、君が画面の隅に映り込むだけで同接(数字)が下がるんだ。視聴者は美しいものしか見たくない。……わかるだろ?」

短剣が引き抜かれる。肉が裂ける粘着質な音が、高性能マイクに拾われた。

崩れ落ちる膝。冷たい石畳。喉の奥からせり上がる鉄の味。

「ここで君は、凶悪な魔物から仲間を逃がすために散った『悲劇の英雄』になる。僕がそうナレーションをつけてあげるからさ。感謝してくれよ?」

遠ざかる足音。振り返りもしない背中。

置き去りにされたドローンカメラだけが、空中に浮遊し、ヨイの死にゆく様を冷淡に映し続ける。コメント欄は、嘲笑の滝。

『うわ、グロ』『足手まとい乙』『レオン様逃げて!』『やっと死んだか陰キャ』

視界の明滅。

手足の感覚は消失し、内臓が焼け付く激痛だけが鮮明に残る。

(僕は、ただのモブだ……)

スラムのゴミ捨て場で拾われ、誰かに必要とされたくて、ボロボロになるまで尽くして。最後は数字(ゴミ)として廃棄される。

「……痛い、なぁ」

涙すら枯れ果てた。瞼は鉛のように重い。

意識が黒い泥の中へ沈みかけた、その時。

ドローンのホログラムではない。**深紅の文字列**が、ヨイの網膜へ直接焼き付く。

《視聴者数:測定不能》

《深淵の住人たちが、貴方のチャンネルに関心を持っています》

《クエスト:『復讐』のリクエストを承認しますか?》

[YES]** / [NO]

痙攣する指先。虚空を、掴む。

第2章: 死者との交信

腐臭は消え失せ、漂うのは白檀の香り。

目を開ける。そこは依然として奈落の底。だが、世界は決定的に変質していた。

岩肌から染み出す青白い燐光。ヨイを見下ろす無数の「目」。

「……生きてる、のか?」

身を起こす。息を呑む。腹部の傷が塞がっているのではない。黒い霧のごとき何かが傷口を縫い合わせ、無理やり生を繋ぎ止めているのだ。

フードを被り直し、割れたゴーグルを弄る。

背後、吹き抜ける冷気。

「ねえ、あんた。私の声、聞こえてるの?」

氷のような指先が、頬に触れた。

振り返った先、半透明の少女が浮遊している。豪奢なローブはどす黒い血に染まり、胸には風穴。透き通るような白い肌と、怒気を孕んだ瞳だけが、生前よりも鮮烈に輝いていた。

「……アイリス?」

かつて『スターライト』に所属し、事故死したとされる天才魔導師。

彼女は驚愕に目を見開き、次いで顔を歪める。

「嘘……聞こえるの? 三年間、誰にも届かなかったのに!」

彼女だけではない。闇の奥、数え切れないほどの「声」が押し寄せる。

『痛い痛い痛い』『帰りたい』『ママ』『あいつが殺した』『寒い』

無念の死を遂げた者たちの魂。怨嗟の声が、脳内でシステム音声へと変換される。

《ユニークスキル『黄泉の配信者(ネクロ・キャスター)』が覚醒しました》

《現在待機中の視聴者(死者):4,892名》

「うるさい……! 頭が割れる……!」

頭を抱え、蹲るヨイ。アイリスが目前へ顔を寄せた。その瞳に宿るは、燃え上がる憎悪と、深淵なる哀しみ。

「あいつらは、私を見殺しにした。魔力が尽きた私を囮にして、レオンは笑ってた。『君の死はいい絵になる』って」

涙は地面に落ちる前、光の粒子となり霧散する。

「生きたかった。もっと魔法を研究したかった。美味しい紅茶を飲みたかった……! ねえ、あんたも同じなんでしょ? 悔しくないの!?」

自身の掌を見つめる。泥と血に塗れた、薄汚い手。

悔しい?

そんな言葉では足りない。心臓の代わりに埋め込まれたどす黒い塊が、ドクンと脈打つ。

「……僕に、カメラを貸してくれ」

懐から取り出したのは、壊れかけのスマートフォン。画面のヒビ。だが、まだ動く。

アイリスを見据え、歪んだ唇で笑う。それは彼が生まれて初めて浮かべた、獰猛な笑み。

「僕が君たちの声を、世界で一番バズるエンターテインメントにしてやる。……配信準備(スタンバイ)、開始だ」

第3章: 逆転のチャンネル

地上。世界は涙に暮れていた。

「仲間を救って散った英雄ヨイ」を追悼するレオンの配信。同接数三億人突破。投げ銭(スーパーチャット)の総額は国家予算に匹敵する。

煌びやかな祭壇の前、レオンが嘘泣きのハンカチで目元を拭う。

『ヨイ君、君の勇気は永遠に……』

瞬間。

世界中の動画サイト、街頭ビジョン、個人のスマホ。画面が一斉にノイズへ覆われる。

砂嵐の向こう、低く、しかし骨まで響く声が割り込んだ。

『――さあ、遺言(ネタ)提供の時間だ』

画面が切り替わる。

映し出されたのは、闇の中、青白く浮かぶヨイ。そして背後に漂う、無数の亡霊たち。

最前列、死んだはずのアイリスが佇む。

『え、あれって……』『アイリス!? 死んだはずじゃ……』『合成だろ?』

混乱のコメント欄。ヨイは無表情に指を鳴らす。

「コラボ配信のゲストを紹介するよ。……レオン、君が三年前に殺した『元仲間』だ」

アイリスが両手を掲げる。画面越しにも伝わる圧力の奔流。

地上、レオンのスタジオ照明が次々と破裂。砕け散るガラス。悲鳴。

カメラが捉えたのは、逃げ惑うレオンの姿。その足元から這い出す白い手――何百、何千という幽霊の手が、輝く鎧へ掴みかかる。

「う、うわあああ! なんだこれは!?」

「離せ! 汚らわしい!」

振り回される剣。だが、実体のない怨念は斬れぬ。

ヨイは淡々と、スマホの画面をタップし続ける。流すのは、ただのポルターガイスト映像ではない。

過去のアーカイブ。

裏での脅迫音声。不正なアイテム独占の瞬間。アイリスを見殺しにしたあの日の記録。

死者たちの記憶(ログ)が、致命的な証拠映像として全世界へ暴露されていく。

『おい、これマジかよ』

『レオンの足元、手形がついてる……』

『人殺し』『詐欺師』

『ヨイ生きてたのか! やれ! 全部晒せ!』

称賛の嵐だったコメント欄、一瞬にして断罪の場へ。

地下の闇、ヨイは流れる文字列を見つめていた。胸のすくような快感。だが、それ以上に指先の震えが止まらない。

(これが、僕の力……)

死者たちの無念が、莫大な魔力(スパチャ)となり体へ流れ込む。

「まだだ。こんなものじゃ終わらせない」

次なる「暴露」を準備しようとした、その時。

手元の端末、レオンからの直接通信。

画面に映るレオンの顔。余裕も恐怖も消え失せ、そこにあるのは底冷えする英雄の「悪意」のみ。

「……面白い見世物だったよ、ヨイ。でも、君は致命的なミスをしたね」

第4章: 英雄の悪意

「あの映像はすべて、ヨイが悪魔と契約して作ったディープフェイクだ!」

翌日、世界は再び反転する。

メディアを掌握したレオンの即座の発表。「ヨイはダンジョンの魔人に魂を売り、死者の姿を冒涜している」。教会はヨイを「人類の敵」と認定。

ネットの海は濁りきる。

『死体を操るなんて最低』『やっぱりヨイが悪魔だったんだ』

掌を返した大衆の悪意。矛先はヨイへ。

「……っ、ふざけるな! 全部事実だろ!」

冷たい床を殴りつける拳。滲む血。

だが、本当の絶望はそこではない。

配信画面、新たなポップアップ。

無機質な白い病室。ベッドの上、チューブに繋がれ眠る痩せ細った少女。

ヨイの唯一の肉親。心臓病で入院中の妹、ミナ。

「やめろ……ミナには手を出すな……!」

映像の隅、レオンの部下たちの姿。

スピーカーから響くレオンの声。

『彼女の治療費、誰が払っていたと思ってるんだい? 君が死んだことになったから、もう支援は打ち切りだ。ああ、それとも……魔人討伐の人質として有効活用させてもらおうか』

浅くなる呼吸。白く明滅する視界。逆流する胃の内容物。

「おえぇっ……あ、が……!」

吐瀉物をぶちまけ、髪をかきむしる。

自分のせいで。自分が調子に乗って配信などしたせいで。

妹が殺される。

「ヨイ、もういいわ。やめましょう」

悲痛な顔で背中に触れようとするアイリス。

「私がいるから、あんたが悪魔扱いされる。私が消えれば……」

「黙れよ!!」

獣のような咆哮。

「ここでやめたら、ミナも、君も、僕も! ……全員、ただの『可哀想な被害者』で終わるんだよ! そんなの、死んでも御免だ……!」

充血した眼球。カメラを睨み据える。

奥歯が砕けそうなほど噛み締める。

恐怖で足がすくむ。逃げ出したい。でも、ここで逃げたら、僕は一生ゴミのままだ。

「……レオン。お前が一番欲しい『絵』を用意してやる」

震える指で作成する、最後の配信予告(サムネイル)。

タイトル:**【最終回】英雄レオンの葬列、および僕の命の使い道について**

「最深部まで来い。僕のすべてを賭けて、お前を『完結』させてやる」

第5章: 葬列のフィナーレ

世界の底、ダンジョン最深部。

数万のスマートフォンのライトにも似た燐光が、円形闘技場を埋め尽くす。

祭壇の中央。そこにヨイは座している。目深に被ったフード、膝の上にはあのタブレット。

「よく来たね、レオン。……そして、一億人の視聴者の皆さん」

顔を上げる。瞳はもう人間の色をしていない。極限まで拡大した黒目、虹彩の中を高速で流れる無数の文字(コメント)。

「茶番は終わりだ、化け物め!」

数百人の精鋭部隊と高位神官を引き連れたレオン。対死霊用の聖別された銀が輝く。

「妹は返してやる。君の死体と引き換えにな!」

振り下ろされる聖剣。閃光が闇を切り裂き――ヨイの首元で止まった。

キンッ。硬質な音。

受け止めたのは、実体化したアイリスの手。否、彼女だけではない。

ヨイの周囲から湧き上がる、泥人形のような黒い影。かつてレオンたちが「経験値稼ぎ」のために虐殺してきた亜人、魔物、使い捨てにされた冒険者たちの成れの果て。

「数が違うんだよ、数がぁぁぁ!!」

絶叫と共に、影たちが津波となって軍勢を飲み込む。

聖剣の光など、圧倒的な怨念の質量を前には無力。

悲鳴を上げ、沈んでいく精鋭たち。

その地獄絵図は、ヨイの制御する無数のカメラアングルで、余すことなく世界中へ配信されていた。

「嘘だ、やめろ、カメラを止めろ!!」

髪を振り乱し叫ぶレオン。剥がれた仮面の下、醜い怯え顔。

ヨイはその顔を、超高画質でズームアップした。

「みんな、見てるか!? これが君たちの英雄の、ノーメイクの顔だ!!」

ヨイの体から、皮膚が剥がれ落ちていく。

過剰な魔力行使の代償。肉体は限界を超え、炭のように崩れ始めていた。

『ヨイ、もうダメ! あんたが消えちゃう!』

アイリスの悲鳴。

「構わない……! 僕の寿命(いのち)なんて、この瞬間のための投げ銭(スパチャ)だ!!」

残った右手を突き出す。最後のスキル発動。

《スーパーチャット(命)を受領しました》

《断罪執行(バン・ハンマー):対象【レオン・スターライト】》

「地獄の底で、詫び続けろォォォッ!!」

凝縮された闇の巨大杭が、レオンを貫く。

断末魔は聞こえない。

圧倒的な闇が、光の英雄を、その栄光ごと咀嚼し、飲み込んだからだ。

静寂。

配信画面の向こう、世界中が息を呑む。

最深部には、もう誰の姿もない。

ただ、炭化したパーカーの残骸と、主を失ったゴーグルだけが転がっていた。

数年後。

『奈落の顎』は立ち入り禁止区域となり、静寂に包まれている。

だが、深夜2時。特定の周波数に合わせると、奇妙な配信が繋がるという都市伝説が囁かれていた。

画面には何も映らない。ただ、暗闇と、時折聞こえる少年の低い声。

『――さあ、今日も遺言(ネタ)を聞かせてくれ』

そのチャンネルの登録者数は、今も増え続けている。

誰にも見つからない奈落の底で、彼は永遠に、死者たちの物語を配信し続けているのだ。

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