第1章: 墜落する葬儀屋
上空三千メートル。成層圏に近い希薄な空気が、肺を凍らせるように突き刺さる。
背骨が軋む。甲板の手すりに押し付けられ、骨格がきしみ音を上げた。
アレン・グレイヴは、霞む視界で眼前の男を見上げる。強風に煽られ乱舞する、色素の薄い灰色の髪。それが病的なまでに白い頬を鞭のように打つ。
瞼の下、万年寝不足のような濃いクマに縁取られた瞳が、焦点の定まらないまま虚空を彷徨った。
身に纏うは、華やかな勇者パーティには似つかわしくない黒いロングコート。その裾は今、荒れ狂う風にはためき、まるで折れたカラスの翼だ。
「悪いな、アレン」
黄金の髪をなびかせる男――勇者レオン・スターライトが、白銀のグリーブでアレンの胸板を踏みつける。磨き抜かれた鏡面のような鎧。そこに、アレンの情けない顔が歪んで映っていた。
「お前のその……死体を弄るスキル? 生理的に無理なんだよ。飯が不味くなる」
「レオン、僕はただ……君たちが倒した魔物を……」
「『綺麗にしてるだけ』だろ? 気味が悪いんだよ。死体は腐るもんだ。それをいつまでも生き人形みたいに保存しやがって」
鼻をつまむ仕草。碧眼に宿るのは、汚物を見るような純粋な侮蔑のみ。
喉が引きつる。弁解の言葉は、ヒューという風切り音にかき消された。
「ここで退場だ。運が良ければ、地面に激突する前に心臓発作で楽に死ねるぜ?」
トン、と。
友人が肩を叩くような軽さで、レオンの足裏がアレンを蹴り出した。
浮遊感。
世界が反転する。
遠ざかる飛行船の底。見下ろすレオンの嘲笑。そして、視界を白く塗りつぶしていく雲海。
「あ――」
声にならない呼気。アレンの体は重力という名の巨人の掌に握り潰されていた。
内臓が浮き上がる不快感。鼓膜を破壊する轟音。
死ぬ。
そう認識した瞬間、思考は奇妙なほど冷えていた。走馬灯すらない。ただ、これから激突して肉塊となる自分の死体を、誰が綺麗に縫い合わせてくれるのだろうか。そんな職業的な懸念だけが脳裏をよぎる。
その時だ。
分厚い雲を突き抜けたアレンの眼下に、異常な「大地」が現れたのは。
いや、大地ではない。
空を泳ぐ巨大な腐肉の塊。
全長数百メートルに及ぶ、古の竜。だがその威容は見る影もない。鱗は剥がれ落ち、露出した赤黒い筋肉からは膿が滝のように溢れ出している。背中には無数の槍。壊死した組織がボロボロと風に崩れていく様は、まさに動く廃墟。
強烈な腐臭が、高空の冷気すらねじ伏せてアレンの鼻腔を焼き焦がした。
ドォン!!
衝撃。竜の背中に叩きつけられる体。腐った肉がクッションとなり、即死は免れたものの、全身の骨がきしむ激痛に視界が明滅する。
口の中に広がる鉄の味。
『グゥ……オォ……』
足元から伝わる、地響きのような呻き声。
竜は生きている。いや、死にきれずに彷徨っているのだ。蛆が湧き、腐敗ガスに塗れ、苦痛にのたうち回りながら飛んでいる。
(汚い……)
恐怖よりも先に胸に湧き上がったのは、抑えがたい衝動。
職業病だ。
ズレた関節、裂けた皮膚、濁った眼球。それらを見ると、指先が勝手に動いてしまう。
あるべき姿に戻してやりたい。安らかに眠らせてやりたい。
「……じっとしてて」
震える手で、黒い革手袋を噛んで引き抜く。
曝け出された細い指が、ドロドロに溶けた竜の鱗に触れた。
「すぐに、綺麗にしてあげるから」
スキル発動――【死化粧(ソウル・レストア)】。
掌から溢れ出す淡い燐光。
それは攻撃魔法のような激しい輝きではない。月光を煮詰めたような、静謐で冷たい光。
光が竜の腐肉を伝う。
弾け飛ぶ膿。透明な滴となり、剥がれた鱗が逆再生するように皮膚を覆っていく。黒ずんだ筋肉は瑞々しい紅を取り戻し、突き刺さっていた槍は錆びて崩れ落ちた。
ごっそりと持っていかれる魔力。血管が焼き切れるような感覚。
それでも、指を離せなかった。
目の前の命が――あるいは死が、整っていく感覚。その美しさに、アレンは恍惚としていた。
やがて、竜の全身が白銀に輝きだす。
腐臭は消え、百合の花のような芳香が大気を満たした。
『……ありがとう』
脳髄に直接響く、鈴を転がしたような声。
次の瞬間、意識はプツリと途絶えた。
落下する彼の体は、再生した白銀の竜によって優しく受け止められる。
第2章: 穢れた手、聖なる指先
「主様。起きてください、主様」
頬に落ちる冷たい水滴。アレンは重い瞼を持ち上げた。
そこは、鬱蒼とした森の中。木漏れ日が、苔むした岩肌をまだらに照らしている。
「……ここは?」
「ご無事ですか。お怪我は?」
視界に割り込んできたのは、透き通るような白磁の肌を持つ少女。
重力を無視してふわりと浮いている。
水銀のように流れる長い白髪の間から、突き出した捻じれた二本の竜の角。彼女の足元は存在せず、幽霊のように青白い陽炎となって揺らいでいた。
「……竜?」
「はい。貴方様に魂を繕っていただいた、シルヴィアと申します」
少女――シルヴィアは、古風なドレスの裾をつまみ、恭しく礼をした。
自分の手を見る。黒い手袋はどこかへ消え、泥と血で汚れた素手が震えている。
「僕が、君を直したの……?」
「直した、などという言葉では足りません。貴方様は、腐ち果てて悪霊に堕ちかけていた私の魂を、その指先一つで『昇華』させたのです」
シルヴィアが、アレンの汚れた手を取る。その甲に寄せられる冷たい唇。
「我が魂は、今より貴方様のものです。死化粧師(エンバーマー)アレン・グレイヴ」
呆然とするアレン。
不遇職だと言われた。死体を弄るだけの、気味の悪い掃除屋だと。
けれど今、目の前には、神話級の古竜が跪いている。
ふらりと立ち上がると、森の奥からガサリと音がした。
勇者パーティが「レベル上げ」のために虐殺し、放置していったオーガの死骸。頭部を粉砕され、ハエがたかっている。
痛む胸。
彼は無言でオーガに近づき、砕けた頭蓋に手を添える。
「……痛かったね。おやすみ」
【死化粧】。
溢れる光。
砕けた骨がパズルのように組み上がり、裂けた皮膚が縫い合わされる。死が逆転するわけではない。だが、苦痛に歪んでいたオーガの表情が、幼子のように穏やかなものへと変わっていく。
そして、その巨体が光の粒子となって崩れ落ちた。
粒子は風に乗らず、アレンの体に吸い込まれていく。
「力が……」
体の中に流れ込む温かい奔流。オーガが生前培った剛力が、アレンの細い腕に宿る感覚。
シルヴィアが、うっとりとその光景を見つめていた。
「魔物を倒すのではなく、送ることで力を継承する……。主様、貴方はご自身が思っているより、ずっと『死』に愛されていますよ」
アレンは自分の手を見つめた。
レオンには「生理的に無理だ」と吐き捨てられた手。
けれど、この手だけが、誰にも看取られず野垂れ死ぬ魂を救えるのだとしたら。
「行こう、シルヴィア。街へ戻らなきゃ」
まだ、信じていたかった。レオンも、何か事情があったのかもしれないと。
あるいは、自分が役立たずだったから捨てられたのなら、この新しい力で証明すれば、また仲間に入れてもらえるかもしれない。
そんな淡い、あまりにも愚かな希望。
第3章: 汚泥の底で、星を見る
街への帰還。それは悪夢の幕開けだった。
城門をくぐった瞬間、アレンを出迎えたのは歓声ではない。
石つぶてだ。
「この人殺しが!」
「出て行け! 疫病神め!」
拳大の石が額に直撃する。
裂けた皮膚。視界を赤く染める鮮血。
よろめくアレンの足元に、腐った野菜や泥が次々と投げつけられる。
「な、なにを……」
広場の演台。スポットライトを浴びたレオンが立っていた。
一点の曇りもない輝く鎧。悲痛な面持ちで、民衆に語りかける姿。
「市民諸君! 悔しいが、真実を話そう。この街周辺に魔物が増え続けていた原因……それは、私の仲間であったはずのアレンが、死体を操り、魔物を培養していたからだ!」
「ち、ちがう……!」
アレンの声は、熱狂した民衆の怒号にかき消される。
レオンは自らの名声を高めるため、人為的に魔物を発生させていた。「マッチポンプ」だ。そしてその罪を、すべて「不気味な死化粧師」に押し付けたのである。
「捕らえろ! この悪魔を地下牢へ!」
取り押さえられ、地面にねじ伏せられる体。泥水が口に入り、呼吸ができない。
シルヴィアが実体化して暴れようとする気配。アレンは必死で首を横に振った。ここで彼女が手を出せば、それこそ「魔王の手先」だと断定される。
抵抗しないまま、引きずられていく。
レオンと目が合う。
民衆に手を振りながら、口の形だけで彼はこう告げた。
『お前は、俺の踏み台になれて幸せもんだな』
地下牢獄の最下層。
光の届かない闇の中、アレンは汚水に膝まで浸かっていた。
全身が痛む。寒気は止まることを知らない。
額の傷から流れた血が固まり、瞼が鉛のように重かった。
(なんで……)
僕はただ、綺麗にしたかっただけなのに。
誰も見向きもしない死骸が可哀想で、撫でていただけなのに。
『……レン……アレン……』
闇の底から聞こえる声。
それは一人ではない。十、百、いや、千の怨嗟。
アレンは水面を見つめた。そこに浮かび上がる無数の青白い顔。
見覚えのある顔があった。
かつてレオンと共に戦い、そして「囮」として使い捨てられ死んでいった、冒険者たち。斥候のトム。魔導士の少女リリィ。
魂はレオンへの復讐心に囚われ、ドス黒く変色している。怨霊(レイス)となって、今にも暴走せんばかりだ。
『痛いよぉ、アレン……』
『あいつが、俺の足を切って逃げたんだ……』
『助けて、苦しい、寒い、アレン、アレン……!』
彼らはアレンを呪いに来たのではない。
救いを求めて、この「死化粧師」の元へ集まってきたのだ。
大粒の涙が零れ落ちる。
汚水に波紋を広げ、死者たちの慟哭と混ざり合う雫。
「ごめん……ごめんね、気づいてあげられなくて」
腐りかけたリリィの霊を抱きしめる。
冷たい。氷のように冷たい魂。
でも、アレンの手だけが、彼らに温もりを与えられる。
「もういいよ。我慢しなくていい」
アレンの瞳から、弱々しい光が消えた。
代わりに宿ったのは、冷徹で、静謐な、冥府の王の如き暗い輝き。
立ち上がる。
濡れそぼった黒いコートが、重たく水面を叩いた。
「レオン。君が壊したものを、僕が直す」
懐から取り出したのは、愛用の化粧道具。骨でできた櫛と、紅筆。
牢獄の闇の中で、死者たちのための、最初で最後の反撃の準備が始まる。
「さあ、みんな。順番に並んで。……最高に美しくしてあげるから」
第4章: 黄泉のパレード
阿鼻叫喚の地獄と化した王都のメインストリート。
レオンが「演出」のために召喚したキメラが暴走し、制御不能に陥っていた。
「逃げろぉぉ!!」
「勇者様はどこだ!? 助けてくれ!」
逃げ惑う民衆。レオンは舌打ちをしながら剣を振るう。
予定と違う。こんな強力な個体を呼んだ覚えはない。
キメラの爪が建物を粉砕し、瓦礫が降り注ぐ。
その時。
空気が、凍りついた。
カツン、カツン、と。
戦場には似つかわしくない、整然とした足音。
土煙の向こうから現れたのは、一団の「葬列」だった。
先頭を歩くのは、黒いロングコートを纏ったアレン。
その背後には、かつて死んだはずの冒険者たちが続いていた。だが、彼らは腐ったゾンビではない。
透き通るような肌、星屑を散りばめたような衣装。そして何より、生前よりも遥かに美しい「死に顔」をして、静かに行進していた。
「な、なんだあれは……!?」
止まるレオンの手。
アレンが、暴れまわるキメラの前に立ちはだかった。
武器は持っていない。ただ、その右手をゆっくりと掲げるだけ。
「【死化粧・展開(フル・ブルーム)】」
アレンの背後から、リリィの霊が飛び出した。彼女は微笑みながら杖を振るう。
放たれたのは攻撃魔法ではない。無数の「白百合」の花弁。
花弁がキメラに触れると、鋼鉄の皮膚が灰のように崩れ、中から呪われた魔石が露出した。
「ギャァァァァァァァァ!!」
キメラの断末魔。
アレンは動じない。舞い散る花弁の中、踊るようにキメラに接近する。
その動きは洗練され、無駄がなく、見る者すべてを魅了するほどに優雅。
アレンの手が、キメラの露出した魔石に触れる。
「可哀想に。こんなに継ぎ接ぎにされて」
パァァァァン……!
弾け飛ぶ魔石。無数の光の蝶となって空へ昇っていく。
巨大な怪物が、一瞬にして浄化された。後に残ったのは、穏やかな顔で眠るライオンと山羊の死骸だけ。
静寂。
誰もが言葉を失っていた。
それは、あまりにも荘厳で、美しい「死」だったからだ。
「……あれは、リリィか?」
「死んだトムもいるぞ……」
「なんて安らかな顔なんだ……」
民衆の間に広がるのは、恐怖ではなく、畏敬の念。
アレンは振り返り、真っ青な顔をして震えるレオンを見据えた。
「レオン。君の嘘は、もう隠せない」
指先がレオンを指す。すると、背後に付き従う英霊たちが一斉に、レオンを睨みつけた。
その視線は雄弁に語る。『私を殺したのは、お前だ』と。
「ふ、ふざけるな……! 俺は勇者だ! 世界の主人公だぞ!!」
狂乱するレオン。懐からドス黒いオーラを放つ宝珠を取り出した。
禁忌のアーティファクト。
彼自身の魂を削り、異形の力を得る最後の手段。
「全員消えろぉぉぉぉぉ!!」
膨張する肉体。黄金の鎧が内側から弾け飛び、肉が裂け、骨が変形する。
美しかった勇者の顔が、醜悪な肉塊へと崩れ落ちた。
「アレンンンンン!! 見てろ、これが俺の力だァァァ!!」
化け物と化したレオンが咆哮する。
だが、アレンは一歩も引かない。
風に煽られる灰色の髪をかき上げ、クマのある虚ろな瞳を細める。
その口元に、微かな、しかし確固たる慈愛の笑みを浮かべて。
「……仕事の時間だ」
アレンが手袋をはめ直す乾いた音が、戦場に響き渡った。
第5章: 花を手向ける、その日まで
「ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!! オレヲ、ミロオォォ!!」
かつて勇者と呼ばれた肉塊。広場の石畳を粉砕しながら突進してくる。
肥大化した右腕は丸太のように太く、そこから突き出した無数の骨の棘が、生きているように蠢いていた。
その顔には、もはや目も鼻もない。あるのは、承認欲求という名の巨大な口腔だけだ。
「シルヴィア」
「はい、主様」
アレンの呼びかけに応える霊体の古竜。
シルヴィアが咆哮すると、不可視の衝撃波がレオンの巨体を真正面から受け止めた。
波打つ肉。逃げていく衝撃。
その隙に、アレンが駆ける。
速い。
死者たちの力を借り受けたそのステップは、重力を感じさせない。
黒いコートの残像を残し、アレンは怪物の懐へと潜り込んだ。
「死ネ! 死ネ! 俺ヨリ目立ツナァァ!!」
「レオン。君はずっと、泣いていたんだね」
暴れ回る暴力の嵐の中で、アレンの声だけが静かに届いた。
アレンには見える。
醜い肉の鎧の奥底で、膝を抱えて震えている小さな魂。
誰かに認めてほしくて、褒めてほしくて、嘘を塗り重ねてしまった孤独な子供の姿が。
ドスッ!
骨の棘がアレンの肩を貫く。
飛び散る鮮血。濡れる黒いコート。
「主様ッ!」
「いいんだ、シルヴィア!」
痛みに顔をしかめず、むしろ愛おしそうに、自分を刺したその腕を抱きしめるアレン。
血に濡れた手で、怪物の胸元――心臓があるはずの場所へ触れる。
「痛いね。苦しいね。……もう、演じなくていいんだよ」
【死化粧・最終術式(ラスト・メイク)】。
全身から放たれる、命そのものを削るような眩い光。
それは破壊の光ではない。
母親が赤子を包む産着のような、暖かく、柔らかい輝き。
光がレオンの醜い肉体を侵食していく。
蒸発する黒い膿。白い羽へと変わる棘。
暴走していた筋肉がほどけ、本来の人間の形へと収束していった。
「あ……あ……?」
怪物の咆哮が、少年の戸惑う声に変わる。
光の中で、レオンは自分の手を見た。
白銀の鎧も、聖剣もない。ただの、何も持たない手。
目の前には、肩から血を流しながら、優しく微笑むアレンがいた。
その顔は、初めて会った日、田舎から出てきたばかりのアレンが浮かべていた、あどけない笑顔と同じ。
「ア……レン……俺……」
「綺麗になったよ、レオン」
涙でぐしゃぐしゃになったレオンの頬を、血のついた指で拭う。
紅を引くように。
「おやすみ」
力が抜ける体。
アレンの肩に崩れ落ち、そして無数の光の粒子となって霧散する。
最後に残ったのは、一言の「ごめん」という呟きと、彼が幼い頃に大切にしていたであろう、小さなガラス玉のような魂の欠片だけ。
そっと掌で包み込み、空へ放つ。
ガラス玉は空高く昇り、星の一つとなって瞬いた。
戦いが終わり、朝日が昇る。
広場には、アレンと、彼を守るように立つ死者たちの霊だけが残されていた。
恐る恐る近づいてくる民衆。
「あ、ありがとう……あなたが、救ってくれたのか?」
「我々は、なんてことを……」
謝罪と称賛の声。
だが、アレンはそれに答えない。
血で汚れたコートを翻し、背を向ける。
「行こう」
「よろしいのですか? 主様。今なら、英雄として迎えられますが」
シルヴィアの問いに、アレンは困ったように眉を下げた。
その瞳のクマは、相変わらず深い。
「僕は死化粧師だからね。……華やかな舞台は、死者には似合わないよ」
アレンが歩き出すと、石畳の隙間から、一斉に花が咲き乱れた。
赤、青、白、黄。
それは彼が救ってきた魂たちの感謝の色だ。
死の香りを纏いながら、それでも誰よりも生を美しく彩る少年。
一人歩くその後ろ姿には、もう迷いも、卑屈な猫背もない。
ただ、静寂と花弁だけが、彼の旅路を祝福していた。
「次は、どこの魂を咲かせに行こうか」
風が吹き、灰色の髪が優しく揺れた。