聖食の儀 -愛する君を味わい尽くす-

聖食の儀 -愛する君を味わい尽くす-

主な登場人物

アルト・ヴィセラル
アルト・ヴィセラル
17歳 / 男性
透き通るような美少年だが、衣服の下は継ぎ接ぎだらけの皮膚。左目は深紅(魔族の眼)、右腕は漆黒の甲殻に覆われている。常に血の匂いを消す香油を纏う。
レオン・ブライト
レオン・ブライト
19歳 / 男性
黄金の髪、蒼穹の瞳。輝くミスリルの鎧を纏い、まさに物語の主人公といった風貌。しかし物語後半では四肢を奪われ、見る影もなくなる。
ミラ
ミラ
不詳(外見は12歳) / 女性
実体を持つ時は、黒い粘液状のドレスを纏ったゴシックロリータ風の少女。普段はアルトの影や左目から声だけで登場する。

相関図

相関図
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第一章: 咀嚼する聖女

水滴。

ピチャリ、と粘着質な音が鼓膜を叩く。地下深く、光の届かぬ奈落の底。ここにあるのは、吐き気を催すほどの腐敗臭と、どこまでも続く絶望の闇だけ。

石畳に崩れ落ちた少年が、浅い呼吸を繰り返していた。

白磁のように透き通る肌は、至る所が裂け、継ぎ接ぎのような傷跡が走る。かつては純白だったであろう司祭服。今は泥と脂でドス黒く汚れ、擦り切れた裾からは痩せ細った肢体が覗く。前髪の隙間からぎらつく左目は、血溜まりのように深い紅。対照的な右目は、虚空を見つめて濁りきっていた。

アルト・ヴィセラルは、自身の左肩へと視線を滑らせる。

無い。

そこにあるべき腕が、肘から先で消失している。

断面からは鮮血ではなく、薄いピンク色の体液が滲み出し、ジュワジュワと泡を立てていた。痛みはない。神経が麻痺しているのか、それとも痛みを感じる機能すら「彼ら」に奪われたのか。

[Think]お腹が、空いたなぁ。[/Think]

胃袋が収縮し、背骨に張り付くような感覚。

空腹。それは生物としての根源的な欲求であり、今のアルトにとっては死へのカウントダウン。

視線を巡らせる。瓦礫の山。ネズミの死骸。そして、数メートル先に転がる「それ」。

泥にまみれ、まだ温かさを残している肉の塊。

自分の、左腕。

[A:アルト・ヴィセラル:冷静]「……あぁ、そこにあったんだ」[/A]

這いつくばるアルト。泥濘の中、切断された己の腕を拾い上げる。

重い。自分の体の一部だったものが、これほど重い物質だったとは。

指先はまだ微かに痙攣している。断面からは、甘ったるい鉄の匂いが立ち昇り、鼻腔をくすぐる。溢れ出す唾液。奥歯が浮くような、強烈な食欲。

[A:アルト・ヴィセラル:狂気]「もったいないな。まだ、動くのに」[/A]

彼は躊躇わず、自身の指に噛み付いた。

クリッ、という硬質な音と共に、小指の第一関節が砕ける。

口の中に広がるのは、濃厚な旨味と、鼻に抜ける鉄錆の香り。

咀嚼。クチャ、クチャ、と湿った音が静寂に響く。

――美味い。

今まで口にしたどんな高級食材よりも甘美。魂を震わせる、極上の味。これはただの食事ではない。自己愛の極致。喪失した自分を、自分自身で埋め合わせる行為。

[Flash]ドクンッ!![/Flash]

跳ねる心臓。

飲み込んだ肉片が胃の中で熱を持ち、血管を通じて全身へ駆け巡る。切断された左腕の断面が蠢き、肉芽が爆発的に増殖を始めた。

[A:アルト・ヴィセラル:愛情]「痛いの痛いの、僕においで。全部、食べてあげるからね」[/A]

アルトは笑った。

血に濡れた口元を歪め、恍惚とした表情で、残りの腕にかぶりつく。骨を砕き、筋を千切り、髄を啜る。

彼の中で何かが壊れ、そして何かが生まれた音がした。

◇◇◇

第二章: 脳髄のワルツ

ダンジョンの生態系、その激変。

かつて捕食者だった魔物たちが、今や獲物として狩られている。

その中心にいるのは、異形の姿へと変貌したアルトだった。

右腕は漆黒の甲殻に覆われ、巨大な鉤爪となっている。背中からは蜘蛛のような脚が数本伸び、空気を裂いて蠢く。彼は魔物を「治療」と称して捕食し、その優れた器官を自身の肉体に移植し続ける日々。

最下層の一角。

巨大な肉塊の中に埋もれるようにして、一つの「脳」が浮いていた。

上級魔族、ミラ。

かつてダンジョンの主と呼ばれた彼女も、勇者パーティとの激戦で肉体を失い、今はわずかな魔力で生命を維持するだけの存在になり果てている。

[A:アルト・ヴィセラル:喜び]「見つけた。綺麗な脳だね」[/A]

覗き込むアルト。その瞳孔は興奮で開ききっている。

[A:ミラ:恐怖]「……貴様、何者じゃ。人間か? いや、その混ざり合った魂の匂い……」[/A]

脳だけになったミラが、テレパシーで直接語りかけてくる。老成した、しかしどこか幼さを残す声。

[A:アルト・ヴィセラル:冷静]「僕はアルト。君、死にそうだね。可哀想に」[/A]

[A:ミラ:怒り]「同情など不要。早くとどめを刺せ」[/A]

[A:アルト・ヴィセラル:愛情]「そんな野蛮なことしないよ。君の知識、君の魔法、君の痛み……全部、僕の中で生きればいい」[/A]

アルトは自身の頭部に手をかけた。

長い爪が、こめかみの皮膚を切り裂く。頭蓋を開く音。パカッ、という乾いた音が、あまりにも軽く響いた。

[A:ミラ:驚き]「な、何を……!?」[/A]

[A:アルト・ヴィセラル:狂気]「引越しだよ、ミラちゃん。僕の脳の隣、空いてるから」[/A]

アルトはミラの脳を優しく掬い上げると、自身の頭蓋の中へ、まるでパズルのピースを嵌めるように押し込む。

繋がる神経。

スパークする電流。

視界が弾け、二つの意識が溶け合う。

[Tremble]あぁぁぁぁぁぁぁッ!![/Tremble]

[A:アルト・ヴィセラル:興奮]「すごい……! 君の魔力回路、最高だよ。世界が、こんなに鮮明に見えるなんて」[/A]

アルトの左目が、深紅に輝き出した。影の中から、黒いドレスを纏ったゴシックロリータ風の少女の幻影が浮かび上がる。

[A:ミラ:照れ]「……狂っておる。貴様、本当に狂っておるわ」[/A]

[A:アルト・ヴィセラル:愛情]「褒め言葉として受け取っておくね」[/A]

二人は一つになった。

孤独な怪物と、瀕死の魔王。

それは世界で最も歪んだ、結婚の儀式。

◇◇◇

第三章: 聖女の解剖学

王都の広場は、凱旋パレードの熱気に包まれていた。

勇者レオン・ブライト。黄金の髪をなびかせ、ミスリルの鎧を輝かせるその姿は、まさに太陽の化身。

その隣には、新たな聖女が寄り添っている。虚ろな瞳で、ただ微笑むだけの人形のような少女。

群衆の影から、フードを目深に被ったアルトが見つめていた。

鼻をつく甘い香り。香油の匂いではない。

あれは、腐臭を隠すための薬品の、鼻をつく香り。

[A:ミラ:冷静]「おいアルト。あの聖女、中身が空っぽじゃぞ」[/A]

脳内で響くミラの声。

[A:アルト・ヴィセラル:冷静]「うん、知ってる。……レオンたちの体も、なんだかおかしいね」[/A]

アルトの「魔眼」は、真実を映し出していた。

レオンの筋肉は異常に肥大化し、血管には青白い薬液が流れている。彼らは強化されているのではない。酷使され、限界を超えて稼働させられているただの「部品」。

その夜。祝賀会の会場。

アルトは姿を現した。かつての仲間たちの前に。

[A:レオン・ブライト:驚き]「アルト……? 生きていたのか、その汚らしいなりで!」[/A]

レオンの手からワイングラスが落ちる。赤い液体が絨毯に染みを作る。

[A:アルト・ヴィセラル:冷静]「久しぶりだね、レオン。元気そうで何よりだよ」[/A]

[A:レオン・ブライト:怒り]「貴様、追放された分際で! 衛兵! この廃棄物を摘み出せ!」[/A]

[A:アルト・ヴィセラル:愛情]「廃棄物、か。……ねぇレオン。君たちが僕を追放した理由、知ってる?」[/A]

[Impact]「不潔だから」じゃないよ。「不味そうだから」だよ。[/Impact]

凍りつく会場の空気。

[A:レオン・ブライト:恐怖]「な、何を言って……」[/A]

[A:アルト・ヴィセラル:冷静]「君たちの目的は世界平和じゃない。神様への『生贄』を集めること。それも、最高品質のパーツをね。僕は混ぜ物が多すぎて、神様の口に合わなかったんだって」[/A]

アルトが一歩踏み出すたび、床がミシミシと悲鳴を上げる。

外れるフード。

露わになったのは、半分が人間、半分が甲殻と粘液に覆われた異形の顔。

[A:アルト・ヴィセラル:狂気]「でも安心して。神様が食べないなら、僕が食べてあげる。君たちの才能、無駄にはしないから」[/A]

[A:ミラ:興奮]「くくく、晩餐の時間じゃな」[/A]

レオンの背後で、聖女が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

裂ける彼女の背中。中から無数の触手が溢れ出す。

それが、この世界の「神」の末端だった。

◇◇◇

第四章: 執刀開始

宴会場は、瞬く間に鮮血の手術室へと変わった。

悲鳴と怒号。逃げ惑う貴族たち。

しかし、勇者パーティだけは動けない。見えない糸に縛られたように、その場に縫い付けられている。

[A:レオン・ブライト:怒り]「動け! なぜ体が動かん! 俺は勇者だぞ!」[/A]

[A:ミラ:冷静]「神経毒じゃよ。アルトの体液は、気化しただけで麻酔になる」[/A]

アルトがゆっくりと、レオンに近づく。

その右手――巨大な鉤爪が、メスのように鋭く光った。

[A:アルト・ヴィセラル:愛情]「レオン、君のその目。遠くまで見渡せる蒼穹の瞳。素敵だなって、ずっと思ってたんだ」[/A]

[A:レオン・ブライト:恐怖]「や、やめろ……来るな! アルト……!」[/A]

[Sensual]

アルトの指先が、レオンの頬を優しく撫でる。

ひやりとした甲殻の感触に、レオンの肌が粟立った。

まるで恋人に触れるような手つきで、アルトはレオンの瞼を押し広げる。

震える眼球。涙で潤んだその瞳に、異形の怪物が映っていた。

「動かないで。傷がつくと、鮮度が落ちるから」

熱い吐息がかかる距離。

ブチリ。

湿った音がして、視界が闇に染まる。

[/Sensual]

[Shout]ギャァァァァァァァッ!![/Shout]

レオンの絶叫がシャンデリアを揺らす。

アルトの手には、青く輝く眼球が二つ、宝石のように握られていた。彼はそれを自身の眼窩へと押し込む。

繋がる視神経。脳裏に溢れる光。

[A:アルト・ヴィセラル:喜び]「あぁ、見える……! これが君の見ていた世界か。なんて美しいんだ」[/A]

次は魔法使いの心臓。

戦士の脚。

盗賊の神経。

アルトは次々と仲間たちを「解体」し、その優秀なパーツを自身の劣った部位と交換していく。

床には、かつての仲間だった肉塊が転がっていた。まだ息はある。呼吸だけはさせているのだ。

[A:アルト・ヴィセラル:冷静]「君たちはここで死ぬんじゃない。僕の一部になって、永遠に生きるんだ。……ほら、寂しくないでしょう?」[/A]

血の海の中、完成されていくアルト。

最強の勇者。最強の魔術師。最強の怪物。

彼は天井を見上げた。そこには、崩れ落ちた聖女の体から這い出した、巨大な「何か」が渦巻いている。

[System]警告:神性反応を検知。捕食対象として推奨されません。[/System]

[A:アルト・ヴィセラル:狂気]「いただきます」[/A]

◇◇◇

第五章: 聖食の儀

王都の上空に、新たな太陽が昇った。

それは黄金ではなく、脈動する肉と光の混合物。

神と呼ばれた集合生命体は、アルトによって内側から食い破られ、その権能ごと乗っ取られた結果。

地上では、人々がひれ伏していた。

恐怖ではない。圧倒的な「救済」への感謝だ。

アルトが放つ光を浴びた者は、病が癒え、欠損した手足が再生し、苦痛から解放された。

ただし、その代償として自我は希薄になり、恍惚とした表情で空を見上げるだけの存在となる。

玉座に座るアルト。

その姿は神々しく、同時に冒涜的だった。

背中には十二の翼。肌はダイヤモンドのように硬質で透明。

そして、その腹部には。

[A:レオン・ブライト:絶望]「……して……ころ……」[/A]

埋め込まれたレオンの顔。苦悶、そして呻き。

その隣には魔法使いの顔、戦士の顔。かつての仲間たちが、アルトの肉体の一部として、永遠に生き続けていた。意識はある。感覚も残っていた。だが、主導権は全てアルトにある。

[A:ミラ:愛情]「良い眺めじゃな、アルト。これが貴様の望んだ世界か?」[/A]

ミラの意識が、アルトの脳内でくすくすと笑う。

[A:アルト・ヴィセラル:喜び]「うん。みんな一緒だ。もう誰も傷つかないし、誰も捨てられない。……完璧なハッピーエンドだね」[/A]

アルトは腹部のレオンの顔を、愛おしそうに撫でた。

レオンの口から、悲鳴とも喘ぎともつかない声が漏れる。

[A:アルト・ヴィセラル:愛情]「ねぇレオン。世界は僕のために回ってる。……そうだろう?」[/A]

かつてレオンが口癖にしていた言葉を、アルトは聖歌のように歌い上げる。

その歌声は王都中に響き渡り、人々は涙を流して新たな神を讃えた。

[Impact]誰もが幸せで、誰もが狂っている。[/Impact]

アルトは満ち足りた表情で、瞳を閉じた。

その口元には、永遠に消えない慈愛と狂気の笑みが張り付いている。

食事が終わることはない。

この世界がある限り、彼は愛し、食べ続けるのだから。

[FadeIn]ごちそうさまでした。[/FadeIn]

クライマックスの情景

【物語の考察:聖なるカニバリズム】

本作において「食べる」という行為は、単なる栄養摂取ではなく、他者への歪んだ「愛」と「救済」のメタファーとして機能している。主人公アルトにとって、対象を咀嚼し自身の血肉とすることは、相手を「永遠に失わない」ための唯一の手段であり、究極の独占欲の表れだ。

【メタファーの解説:融合する個我】

アルトの肉体に埋め込まれた勇者レオンたちの顔は、自我の境界が崩壊したディストピアを象徴する。彼らは死ぬことも許されず、アルトという「神」の一部として強制的に統合されている。これは「誰も傷つかない世界(個が存在しない世界)」という、全体主義的な平和のグロテスクな風刺とも読み取れるだろう。

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