第1章:血とコーヒーと、途切れたループ

トースターが跳ねる乾いた音が響く。マグカップから立ち上る、ブラックコーヒーの焦げた匂い。
それらをすべて塗り潰すように、部屋中を満たすねっとりとした鉄の悪臭。
ダイニングテーブルの下に広がる、赤黒い水たまり。
[A:リリカ:愛情]「ねえ、私の内臓、どこ?」[/A]
床に仰向けに転がるリリカが、明るく無邪気な声をあげる。
彼女が身をよじるたび、血で重くなったセーラー服がぐちゃりと嫌な音を立てた。ゆるいウェーブの栗色の髪は血糊で固まり、透き通るような白い肌の腹部には、生々しい空洞がぽっかりと口を開けている。
[A:カイ:冷静]「冷蔵庫だ。一番下の段」[/A]
カイはトーストをかじりながら、死んだような三白眼で床を見下ろす。
ボサボサの黒髪を鬱陶しそうに掻き上げ、首元に刻まれた古い傷跡を指先でなぞった。着崩した学生服には、昨夜彼女を解剖したときの返り血が斑点状にこびりついている。
互いを切り刻み、痛めつける。
それこそが、この閉鎖された部屋で育った二人の、狂いなく回る日々の輪郭。
[Pulse]だが。[/Pulse]
[A:リリカ:狂気][Tremble]「あれ……? ねえ、カイ」[/Tremble][/A]
リリカの白い指先が、自らの腹の底を探る。
いつもなら、這い寄る肉芽が傷口を縫い合わせるはずの場所。そこから、とめどなく鮮血が溢れ続けていた。
痛覚が麻痺しているはずの彼女の唇が、かすかに震える。
[A:リリカ:恐怖]「ふさがらない、よ。どうして……?」[/A]
[Pulse]永遠が、軋みながら崩れ落ちる音。[/Pulse]
[Impact]轟音。[/Impact]
分厚い玄関のドアが、金属の悲鳴を上げて内側へ弾け飛ぶ。
濛々と舞い上がる砂埃の向こうに、人影が立っていた。
シャープなショートカットの銀髪。一切のしわを許さない、きちんと着こなされたブレザーの制服。
[A:シオン:冷静]「安心して。私が彼女の『呪い』を無効化した」[/A]
凛とした声が、重い血の匂いを冷たく切り裂く。
鋭い眼光が、血だまりの中の二人を射抜いた。
[A:シオン:冷静]「これでもう、殺されなくて済むわ」[/A]
第2章:押し売りの正義と破綻の音
銀髪の少女の硬い靴音が、血まみれのフローリングを踏み鳴らす。
[A:シオン:怒り]「異常だ。こんな密室で、少女を毎日切り刻むなんて。完全に洗脳されている」[/A]
独善的な断定。彼女の背負う正義は、一分の疑いもなくカイを加害者と切り捨てる。
[A:リリカ:絶望][Shout]「いやっ! やめて、こっち来ないで!」[/Shout][/A]
リリカが床を這い、栗色の髪を振り乱した。
裂けた腹部から引きずられるように内臓がこぼれかけ、フローリングに生々しい赤い軌跡を描き出す。
[A:リリカ:狂気][Tremble]「カイに壊してもらえないなら……生きている意味がないのっ!」[/Tremble][/A]
[A:シオン:冷静]「可哀想な子。痛みでまともな判断ができなくなっている。今、そこから救い出してあげる」[/A]
シオンが床を蹴る。
[Flash]閃光のような踏み込み。[/Flash]
カイが防ぐ間もない。圧倒的な質量を伴ったブーツが、彼のみぞおちに深くめり込んだ。
[A:カイ:驚き][Impact]「が、は……ッ」[/Impact][/A]
肺の空気を根こそぎ吐き出され、カイは壁まで吹き飛ばされる。
崩れ落ちた彼の視界の端。シオンがリリカの細い腕を掴み、力任せに引き離そうとしていた。
[A:リリカ:絶望][Shout]「カイ! カイッ! 今日も私を壊して! 愛してる!!」[/Shout][/A]
喉が裂けるほどの絶叫。だが、回復という奇跡を奪われた肉体は、すでに限界を越えている。
リリカの顔から急速に血の気が引き、白磁のような肌が土気色に染まっていった。
伸ばされた白い指先が空を掻き、やがて力なく床へ落ちる。
[Pulse]沈黙。[/Pulse]
[A:シオン:冷静]「……手遅れか。でも、せめて最後は人として……」[/A]
[A:カイ:狂気][Tremble]「面倒だな」[/Tremble][/A]
這いつくばったまま、カイの喉の奥から低い声が漏れる。
三白眼の奥底に、黒く濁った炎がぬらりと這い出した。
[A:カイ:狂気]「誰に許可をもらって、おせっかい焼いてんだよ」[/A]
第3章:永遠に続く甘い腐敗
[A:シオン:怒り]「黙れ。私があなたたちの呪いを解き、正しい世界へ救ってみせる!」[/A]
シオンは冷たく言い放ち、ブレザーの袖を翻してカイへと向き直る。
格闘の構え。一切の隙のない、鍛え上げられた暴力の形。
対するカイは、ふらつきながら立ち上がった。
首元の古い傷跡からどくどくと血が流れ、汗ばんだ黒髪が額にへばりついている。
[A:カイ:冷静]「だが、お前が望むなら」[/A]
その呟きは、目の前の独善的な正義へ向けられたものではない。
シオンがとどめを刺そうと踏み込んだ、その刹那。
[Flash]鈍色の弧が、空気を裂く。[/Flash]
カイの右手に握られていたもの。
それは毎晩、気が狂うほどの時間をかけて研ぎ澄まされた解剖用のメスだ。
一切の躊躇はない。滑るように振り抜かれた極薄の刃先。
[Impact]シオンの頸動脈を、皮一枚の誤差もなく正確に掻き切った。[/Impact]
[A:シオン:驚き][Glitch]「あ……、が……?」[/Glitch][/A]
完璧な正義が、音を立てて崩壊する。
細い首筋から、天井まで届くほどの鮮血が噴き上がった。
銀色のショートヘアが汚濁にまみれる。シオンは信じられないものを見るように目を見開いたまま、自らの血だまりの中へどさりと沈み込んだ。
カイは荒い息を吐きながら、血濡れたメスを投げ捨てる。
ゆっくりと床を這い、ピクリとも動かなくなったリリカのもとへ擦り寄った。
[Sensual]
すでに体温を失い、冷たい肉の塊と化した少女。
虚ろに開かれた瞳の奥には、変わらない愛の残滓がこびりついている。
カイは彼女の血で汚れきったセーラー服ごと、そのひどく軽い身体を強く抱きしめた。
[A:カイ:愛情][Whisper]「……大丈夫だ、リリカ。明日からは、ずっとこのままだ」[/Whisper][/A]
もはや彼女の傷が塞がることはない。
もう二度と、新しく切り刻むことはできない。
だが、この冷たい部屋で、静かに腐敗していく肉体とともに過ごす永遠。
カイは、白く冷え切った彼女の唇に、深く自らの唇を重ねた。
[Pulse]脈打たない心音。[/Pulse]
舌先に広がるのは、ひどく甘ったるい血と死の味。
[Think]……ああ、俺たちはこれで、完成したんだ。[/Think]
終わらない狂気の日常が、重く淀んだ空気の中で静かに幕を開ける。
[/Sensual]