君が世界を終わらせるなら、俺は喜んで世界を殺そう

君が世界を終わらせるなら、俺は喜んで世界を殺そう

主な登場人物

アッシュ
アッシュ
19歳 / 男性
銀色のボサボサの髪、三白眼の鋭く虚ろな目つき。血と泥に汚れた黒いロングコートを纏い、首元には痛々しい火傷の痕がある。全身から危険な匂いを放つ。
シオン
シオン
19歳 / 男性
透き通るような青白い肌に、華奢で折れそうな体躯。両目を純白の布で覆っており、ゆったりとした白い神官服を着ている。
レヴィア
レヴィア
24歳 / 女性
燃えるような赤いショートヘア。右目は機械式の義眼。重厚で装飾的な白銀の鎧を身に纏い、背の丈ほどもある巨大な大剣を背負っている。
ガロ
ガロ
38歳 / 男性
無精髭を生やし、常にくわえ煙草。くたびれたトレンチコートを羽織り、左腕は無骨で錆びついた機械義手になっている。

相関図

相関図
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■ 第1章:泥濘と純白の抱擁 ■



ひしゃげた肉の塊。どろりとした赤が、冷たい石畳を這い進んでいく。

むせ返るような鉄の匂いに、内臓を焼き焦がす腐臭。

薄暗い地下祭壇の中心で、黒いロングコートが重々しく翻った。


アッシュ「……これで、全員か」


銀色のボサボサの髪から、生温かい雫がポタポタと滴り落ちる。

アッシュは三白眼の虚ろな瞳を細め、血と泥にまみれたナイフの刃を無造作に振るった。

周囲に転がっているのは、つい数時間前まで寝食を共にした暗殺教団の仲間たち。

息絶えた男の喉笛を踏み砕き、首元の痛々しい火傷の痕をゆっくりと撫でる。


連中は、祭壇の奥で震える『商品』を他国へ売り飛ばそうと目論んだ。

殺す理由は、それだけで十分だ。


アッシュ「……シオン」


祭壇の太い柱。鎖で繋がれ、床に崩れ落ちている華奢な体。

透き通るような青白い肌を包むゆったりとした白い神官服は、血の海と化した惨劇の中で、ひどく浮き彫りになっていた。

アッシュが刃で鎖を断ち切る。純白の布で両目を覆われた少年が、ビクッと肩を跳ねさせた。



シオン「アッシュ……? そこに、いるの……?」


アッシュは血に染まった自分の手を一瞥すらせず、その細い体をきつく抱き寄せた。

白い神官服に、どす黒い手形がべっとりと焼き付く。


アッシュ「もう大丈夫だ。俺が全部、肉片に変えた」


シオン「……アッシュの手は、とても温かいね」


血と臓物にまみれた狂気の温もり。シオンは微かに微笑み、それを深く受け入れる。

互いの体温が溶け合うような、息の詰まる密着。

世界から隔絶された暗闇の中で、二つの心拍だけが重なり合っていた。



凄惨で、ひどく美しい抱擁。

高い天井裏の暗がりから、赤い光が静かに見下ろしていることに、二人はまだ気づいていない。



■ 第2章:枯れゆく足跡と静かなる浸食 ■



吹き抜ける乾いた風が、荒野の砂埃を巻き上げる。

太陽の光が容赦なく照りつける果てのない道を、二つの影が歩いていた。


シオン「風が、太陽の匂いがするよ。これが『外の世界』なんだね」


シオンの足取りは覚束ない。だが、目隠しの下にある唇の端は柔らかく綻んでいる。

アッシュはその白い手を引きながら、何も遮るもののない地平線に目を向けた。


アッシュ「あぁ。ここなら、教団のクソ共も追ってこない」


シオンが笑えば、それでいい。

この空虚な世界には、それ以外の価値など存在しない。

だが。微かな違和感が、アッシュの視界を掠める。


シオンの真っ白な靴が踏みしめた後の大地。

そこに咲いていたはずの小さな野花が、音もなく灰のように崩れ去っていた。


シオン「っ……う、あ……!」


突然、シオンの膝が折れる。

口元を押さえた指の隙間から、鮮血がどろりと溢れ出した。


アッシュ「シオン!」


慌てて抱き留めたアッシュの腕を、強烈な痛みが貫く。

袖口をまくると、手首から肘にかけて、まるで血管を黒いインクで塗り潰したような不気味な痣が這い上がっていた。

命そのものを、根こそぎ吸い上げられているかのような悪寒。


その時。

背後の大気が、鋭利な殺気によって両断された。


レヴィア「そこまでだ、呪われた怪物ども」



■ 第3章:神の器、あるいは世界の終端 ■



振り返ったアッシュの目に映ったのは、燃えるような赤い髪。

重厚な白銀の鎧を纏う女の右目には、無機質な機械の義眼がギョロリと埋め込まれている。


レヴィア「聖都セントリア異端審問官、レヴィア。大義の前に、貴様らを断罪する」


身の丈ほどもある巨大な大剣が、地鳴りを上げて突き立てられる。

その後ろから現れたもう一つの影。

くたびれたトレンチコートを羽織り、無精髭を撫でる男が、紫煙を細く吐き出した。


ガロ「やれやれ……。こんな形で再会たぁ、最悪だなぁアッシュ」


錆びついた左腕の機械義手。

アッシュに人殺しの術を全て叩き込んだ、かつての恩師だった。


アッシュ「ガロ……ッ。教団の犬にでも成り下がったか」


ナイフを逆手に構え、シオンを背中に庇う。

だが、レヴィアの放った言葉が、アッシュの戦意を根底から凍りつかせる。


レヴィア「貴様の腕を見ろ、愚か者。その怪物は『滅びの繭』……周囲の生命力を無意識に吸い尽くし、世界を終わらせる神の器だ」


乾いた風が止まる。

シオンの足元で枯れ果てた草花。アッシュの腕を蝕む黒い痣。

全ての事実が、残酷な一つの真実へと収束していく。


シオン「ぼ、くが……? アッシュの、命を……?」


目隠しの下から、ボロボロと涙が溢れ落ちた。

自分の存在が、一番大切な人間を殺し続けている。

その事実に耐えきれず、シオンの細い指が、アッシュの腰にある予備の短剣を奪い取った。


シオン「ごめんね、アッシュ……! 僕なんかが、生きていて……!」


白く細い首筋へ。迷いなく、鋭い刃が振り下ろされる。



■ 第4章:血と泥に塗れたエゴイズム ■

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ゴシャッ!!


肉と骨が軋む、鈍く不快な音。

シオンの首に突き立てられるはずだった刃は、アッシュの素手によって握り潰されていた。


シオン「ア、ッシュ……?」


手のひらから噴き出す鮮血が、シオンの白い服を赤く染め上げる。



アッシュは痛みに顔を歪めるどころか、血まみれの手でシオンの青白い頬を優しく包み込んだ。

親指で涙を拭い、静かに額を合わせる。


アッシュ「……俺の光を奪う奴は、神だろうと殺す。お前自身が奪おうとするなら、お前ごと押さえつける」


シオン「だめだよ……僕から離れて! 君まで、死んでしまう……!」


アッシュ「死なねぇよ。俺の命は、とうに全部お前のものだ」



破綻した論理。狂気に満ちた眼差し。

シオンの背後に広がる世界など、アッシュの瞳には最初から微塵も映っていない。


ガロ「目ぇ覚ませ馬鹿野郎! このままじゃ共倒れになるぞ!」


ガロの怒号を背に受けながら、アッシュはゆっくりと立ち上がる。

三白眼に宿る狂暴な殺意が、眼前の二人に向けられた。


アッシュ「……邪魔をするな」


地を蹴る轟音。

人間の限界を超えた前傾姿勢から放たれた一撃が、空間を切り裂く。

ガロが咄嗟に掲げた機械義手ごと、その重い身体が十メートル後方へと吹き飛ばされた。



■ 第5章:三つの正義、軋む骨の音 ■



レヴィア「大義の前に、個人の矮小な感情など無価値だッ!」


白銀の装甲が唸りを上げ、巨大な大剣がアッシュの胴を薙ぎ払う。

常人ならば真っ二つになる一撃。

しかし、アッシュは自らの肋骨が砕ける音を無視し、刃の腹を蹴り上げて間合いを詰めた。


ガロ「……ちくしょうがッ!!」


吹き飛ばされたガロが、無骨な義手に仕込まれた銃口から火を噴く。

ダダダンッ!

鉛玉がアッシュの肩と腿を貫通し、血飛沫が荒野の砂を濡らす。


……体が、重い。


シオンに吸われている命。おびただしい出血。

膝が崩れそうになる。だが、背後から届くシオンの怯えた呼吸音が、アッシュの痛覚を完全に麻痺させていた。


アッシュ「おおおおおおおッ!!」


血の泡を吐きながら、弾丸の雨を潜り抜ける。

シオンから吸収される謎の力が、壊れた肉体を強引に稼働させているのか。

まるで死肉に糸を付けた操り人形のような、異様な挙動。


レヴィア「ば、かな……。なぜ、まだ動ける……!?」


レヴィアの義眼が捉えたのは、死の淵にありながら一切の迷いがない悪魔の貌。

大剣の振り下ろしを紙一重でかわす。アッシュのナイフが、白銀の鎧の隙間、レヴィアの胸元へと深く突き立てられた。


レヴィア「……く、そ……世界、が……」


ドサリと、重装甲が地に伏す。

ガロの仕込み銃も弾切れを起こし、空虚なクリック音だけが響き渡った。


戦場に、不気味な静寂が落ちる。

だが、それは勝利の余韻などではない。

ふと見上げた空が、どす黒い赤色に染まり始めていた。


シオン「……あ、あぁ……」



■ 第6章:永遠の孤独を、君と共に ■



シオンの背中から、神々しくも禍々しい巨大な光の翼が顕現する。

『滅びの繭』の羽化。

その光に触れた大地が、岩が、草が。全て細かい砂となって空へ巻き上がっていく。


ガロ「……終わっちまうのかよ、世界が」


ガロが力なく地面に倒れ伏す。

世界の終わりを告げる轟音の中、シオンは目隠しの布を外した。

露わになったのは、全てを無に帰す虚無の瞳。


シオン「ごめんね、アッシュ……! もう、僕に近づかないで……!」


シオンが両手でアッシュを強く突き放そうとする。

このまま触れていれば、アッシュの存在自体が完全に消滅してしまうから。

だが。


アッシュ「――馬鹿が」


アッシュは崩れゆく大地を力強く踏み越え、シオンの細い腰を力任せに引き寄せた。



世界が砂に変わっていく。アッシュの血に塗れた唇が、シオンの震える唇を強引に塞ぐ。

ドクン、ドクンと、互いの心臓の音だけが、崩壊する世界のノイズを塗り潰していく。


シオン「んっ……ぁ……」


アッシュ「これでいい。俺たちの邪魔をする世界なんて、いらない」


シオンの瞳から溢れる涙を、アッシュが舌先で舐めとる。

自らの命が削り取られる激痛。それすらも、今は甘美な麻薬だった。



真っ赤な空の下。

空気を満たしていたあらゆる命が消え去り、見渡す限りの無の荒野が広がっていく。

神も、大義も、正義も。もうどこにも存在しない。


圧倒的な静寂に包まれた世界の残骸の中で。

互いだけを強く抱きしめた二つの影が、ゆっくりと、永遠の孤独の中へ歩き出した。

クライマックスの情景

【物語の考察】

本作は、世界を救う「大義」よりもたった一人の「愛する者」を選ぶという究極のエゴイズムを描いたセカイ系破滅劇です。アッシュのシオンへの執着は狂気そのものでありながら、同時に一切の不純物がない純愛としても描かれます。世界の崩壊という絶望的な結末すらも、彼らにとっては他者に邪魔されない「永遠の平穏」の始まりに過ぎないという、美しくも恐ろしい倒錯感が本作の最大の魅力です。

【メタファーの解説】

『泥と血』に塗れたアッシュと『純白』のシオンという視覚的対比は、罪と無垢の象徴です。また、シオンの『滅びの繭』という特性は、愛する者を無意識に傷つけてしまう「関係性の毒」のメタファーと言えます。自身の命を削られながらもその毒を甘受し、強引にキスで封じ込めるアッシュの姿は、自己犠牲を超越した圧倒的な所有欲と共依存を浮き彫りにしています。

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