第1章:首筋の黒印、血塗れの裏切り

肺の奥をじっとりと濡らす、カビと埃の混じった淀んだ空気が、深夜の旧校舎に満ちていた。
月明かりすら届かない、闇に沈んだ緑色の廊下。
そこを、柊 奏汰は足早に進む。
苛立ちを隠そうともせず、ボサボサの黒髪を乱暴に掻きむしった。
だらしなくはだけた制服のシャツ。
その隙間から覗く白い鎖骨を、親指の爪で強く、抉るように掻き毟る。
[Pulse]キチ、キチ、キチ……。[/Pulse]
肉の裂ける微かな、しかし生理的な嫌悪感を呼び起こす音が、無音の静寂に響き渡った。
[Think]……ったく、こんな時間に呼び出しとか、何の冗談だよ。糞面倒くせえ……。[/Think]
理科準備室の前に、不自然な影が立っていた。
本来なら、明るい茶髪に人懐っこい笑顔を浮かべ、くだらない軽口を叩いているはずの、唯一の親友。
だが、その輪郭は夜の闇に溶け込み、異様に歪んで見えた。
[A:柊 奏汰:驚き]「蓮……? お前、何で電気もつけねえで、そこに突っ立って――」[/A]
一歩、歩みを進めた瞬間。
鼻腔を暴力的に貫いたのは、生温い、強烈な鉄錆の臭い。
べっとりと湿った重い何かが、床にポタポタと滴り落ちる音が、鼓膜を執拗に叩く。
[A:九条 蓮:絶望]「[Tremble]あ、あは、は……。ごめん、奏汰。本当に、ごめん……っ。俺、もうこれしか、なくて……これしか、生き残る道が、なかったんだ……っ[/Tremble]」[/A]
雲が流れ、月光が窓から一瞬だけ差し込む。
その青白い光が、青ざめた蓮の顔を残酷に照らし出した。
[Impact]右目が、完全に潰れていた。[/Impact]
どす黒く凝固しかけた血液が顔の右半分を覆い、引き裂かれた制服の隙間からは、骨の覗く白い肉が不気味に露出している。
小刻みに震えるその全身は、夜の寒さによるものではなかった。
抗いようのない死の恐怖に、魂ごと支配されている証拠だ。
[A:柊 奏汰:驚き]「お前、その目、どうした!? 誰にやられた! おい、しっかりしろ!」[/A]
奏汰が駆け寄ろうとした瞬間、蓮の泥と血にまみれた手が、猛烈な力で奏汰の胸ぐらを掴んだ。
引きずり込まれる。
蓮のぐしょぐしょに濡れた手のひらに握られていたのは、赤黒い文字がびっしりと書かれた、粘り気のある奇妙な紙片――『呪符』。
それが、抗う間もなく奏汰の首筋に容赦なく押し付けられた。
[Pulse]ジュウウウウウ![/Pulse]
[A:柊 奏汰:狂気][Shout]「が、あ、あ, ああああああああっっっ!!」[/Shout][/A]
肉の焦げる悍ましい悪臭が鼻を突く。
首筋に、冷たい無数の蛇が皮膚を突き破って這い回るような、脳が焼き切れるほどの激痛が走る。
鏡を見ずとも分かった。
皮膚の下で、墨汁を無理やり流し込んだかのように不気味な黒い痣が、意思を持つ生き物のように、急速に脈打ちながら広がっていく。
[A:九条 蓮:悲しみ]「[Tremble]ごめん、奏汰……お前が、死んでくれ。そうしないと、妹が……あいつに、殺されるんだ。俺じゃなくて、お前が贄になってくれよ……![/Tremble]」[/A]
涙と血が混ざり合った液体を流しながら、蓮は呪符を押し当てたまま、狂ったように呟いた。
その濁った瞳には、親友を売り渡した罪悪感と、生き延びたいという狂気に近い自己防衛の光が混濁している。
[Pulse]ズズ……ズズ……。[/Pulse]
廊下の突き当たり、漆黒の闇の奥から、湿った巨大な肉の塊を重々しく引きずるような音が近づいてくる。
ペタ、ペタと、生理的な嫌悪感を呼び起こす、粘着質な足音。
[System]――シガラキ様が、視界を共有しました。標的を認識。――[/System]
[A:九条 蓮:恐怖]「[Shout]ひっ……来た、来たんだ……! 頼む、俺を追わないでくれ、標的は、そいつだ! 柊奏汰が、新しい生贄だ!![/Shout]」[/A]
蓮は奏汰を突き飛ばすと、振り返ることもなく、狂ったように夜の闇の中へ逃げていく。
床に這いつくばる奏汰。
残された彼は、焼けるように熱い首筋を押さえ、激しく咳き込んだ。
暗闇の向こうから、人間の関節を完全に無視した角度で折れ曲がった、巨大な灰色の『腕』が、鋭い爪を立てて迫り来る。
死が、眼前に迫っていた。
第2章:冷血な少女と、屈辱の首輪

[Flash]ヒュンッ![/Flash]
鋭い金属音が、静寂と死臭を切り裂いた。
宙を舞った一枚の紙片が、奏汰の鼻先を掠め、迫り狂う異形の『腕』に深々と突き刺さる。
[A:白百合 凛:冷静]「退きなさい。穢れた獣め。私の領域で勝手は許さない」[/A]
青白い炎が爆発的に弾け、腕が激しくのたうち回る。
その隙に、細く、しかし冷徹な力強さを持った腕が奏汰の襟首を乱暴に掴み、背後の開いた窓へと強引に引きずり込んだ。
ガラスの破片が肌を浅くかすめ、二人の体は激しく中庭の植え込みへと転がり落ちる。
土と木の葉の匂い。
[A:柊 奏汰:驚き]「げほっ、ごほっ……! てめえ、いきなり何しやがる……! 殺す気か!」[/A]
[A:白百合 凛:冷静]「死にたければ、あそこに残っていれば良かったのよ。私の邪魔をしないで。これだから素人は這いつくばるしか能がないのね」[/A]
泥に汚れながらも、少女は優雅に、まるでお姫様のように立ち上がった。
透き通るような、病的なまでに白い肌。
腰まで伸びた輝かしい銀髪が、月光を反射して冷たくきらめく。
漆黒のセーラー服を完璧に着こなした彼女――白百合 凛は、手元に残る巨大な呪符の束を冷ややかに見下ろしながら、奏汰の首元を鋭い眼光で指差した。
[A:白百合 凛:冷静]「それが『シガラキ様のゲーム』の烙印。首の痣は、生贄の証よ。夜明けまでにそれを他人に押し付けるか、逃げ切らなければ、肉も魂も全てあの化物に喰い尽くされる。逃げ場はないわ」[/A]
[A:柊 奏汰:驚き]「ゲーム……? 他人に、押し付ける……? 何だそりゃ……」[/A]
[A:白百合 凛:冷静]「そう。あなたの唯一の親友だった九条蓮は、自分と妹が助かるために、あなたにその呪いをなすりつけたのよ。実に合理的で、醜悪な裏切りね。人間なんて、追い詰められればそんなものよ」[/A]
脳裏に、血まみれの蓮の泣き顔が、激しい幻痛とともに浮かぶ。
首筋の焦げ付くような痛みが、友情の終焉という無慈悲な現実を突きつけていた。
誰かの身代わりになり、そして次は自分が誰かを身代わりにしなければ生き残れない。
吐き気がするほどの理不尽。
世界が、一気に色を失っていく。
[A:白百合 凛:冷静]「言っておくけれど、あなたのその痣はすでに活性化している。並の精神力なら、三分と保たずに発狂して脳が融解するわ」[/A]
凛は奏汰の顎を、冷たい金属のような指先で強引に持ち上げ、その漆黒の瞳を覗き込んだ。
[A:白百合 凛:冷静]「死にたくなければ、私の犬になりなさい。私の駒として動くなら、生き延びる方法を授けてあげる。主従契約よ」[/A]
冷徹極まりない支配の視線。
しかし、奏汰ははだけたシャツを整え、壊れたおもちゃのように口元を不気味に釣り上げた。
[A:柊 奏汰:狂気]「あーあ、最悪だ。本当に、最悪の夜だ。……だから、笑えてくる。他人の犬ねぇ……悪くない、乗りかかった泥舟だ。飼い慣らせるもんなら、やってみろよ」[/A]
[A:白百合 凛:冷静]「……。良い返事よ。まずは理科準備室へ移動するわ。あそこには私の結界がある。あの化物の探知を一時的に遮断できる」[/A]
二人は校舎の影を縫うように走り出す。
だが、その道中、奏汰は気づいていた。
手を引く凛の、細く繊細な指先が、暗い廊下の角を通るたびに、微かに、しかし激しく震えていることに。
彼女もまた、何かに怯えている。
第3章:友情の残骸、狂気のハグ

理科準備室の重い木製の扉を閉め、凛はいくつかの呪符を入り口に手際よく貼り付けた。
部屋の中は、様々な薬品の匂いが立ち込め、鼻をつく。
奏汰は冷たいコンクリートの壁に背を預け、凛が持ち歩いている古い情報端末の画面を覗き込んだ。
青白い光に照らされた画面には、この地獄を裏で操る者の記録が残されている。
[A:柊 奏汰:冷静]「……鳴海、桔梗。あの保健室のセンセーが、何でこれに関わってんだ。いつも、ニコニコして、優しかったはずだろ」[/A]
[A:白百合 凛:冷静]「あの女は、この学校を巨大な呪いの生贄の祭壇に変えた首謀者よ。九条蓮の妹が入院している病院の理事も務めている。……彼を脅し、駒として使った張本人」[/A]
[Think]蓮、お前、そんなことのために……。自分の命と、妹の命のために、俺を売ったのか。[/Think]
[Pulse]バキッ、バキバキッ![/Pulse]
廊下から、ガラスを狂暴に叩き割るような音が不気味に響いた。
扉が外側から乱暴に蹴り破られる。
そこに立っていたのは、錆びた包丁を両手で固く握り締め、白目を剥いた虚ろな目でこちらを凝視する蓮だった。
[A:九条 蓮:絶望]「[Tremble]あは、あはは! いた、見つけた! もう一人、もう一人だけ、あいつに差し出せば、妹の手術は絶対に成功するんだ! 奏汰、お前なら分かってくれるよな!? 俺たちの友情のために、死んでくれよ![/Tremble]」[/A]
完全に正気を失ったかつての親友が、狂乱の叫びと共に包丁を振り上げて突進してくる。
凛が瞬時に、その懐から呪符を構え、呪文を唱えようとした。
[A:白百合 凛:冷静]「下がっていなさい、柊! あれはもう、人間の形をしただけのただの肉の屑よ! 情をかける価値さえない!」[/A]
[A:柊 奏汰:狂気]「手ぇ出すな、白百合! こいつは、俺の獲物だ!」[/A]
奏汰は凛の前に立ち塞がり、自らの無防備な体を、振り下ろされる包丁の刃に向けて真っ直ぐに投げ出した。
[Flash]グチャッ![/Flash]
肉が裂ける鈍い音。
鋭利な刃先が、奏汰の左手のひらを深く貫き、手の甲へと突き抜ける。
鮮血が床に飛び散るが、奏汰は痛みに表情一つ変えず、むしろ狂気的な、歪んだ笑みをその顔に浮かべた。
[A:柊 奏汰:狂気]「おい、蓮。痛いか? 目が潰れて、心が壊れて、狂うほど痛えよな。よく頑張ったな、お前」[/A]
[A:九条 蓮:絶望]「[Tremble]あ, あ……なんで、避けないんだよ……! 狂ってる、お前も、みんな……! 俺を、憎めよ、殺せよ! なんでそんな顔で笑うんだよ![/Tremble]」[/A]
奏汰は包丁が手に突き刺さったまま、血まみれの手で蓮の頭を強引に引き寄せ、壊れ物を扱うように強く抱きしめた。
首筋の黒い痣が、蓮の涙と血を吸って、嬉しそうに激しく脈打つ。
[A:柊 奏汰:狂気]「お前はそんな奴じゃねえだろ。俺の知ってる九条蓮は、妹に絵本を読んでやるような、馬鹿で、どうしようもなく優しい奴だ。だから、もういいよ」[/A]
[A:九条 蓮:悲しみ]「[Tremble]う、あ、ああ、ああああああああっっ!! 奏汰、ごめん、ごめんよぉ……っ![/Tremble]」[/A]
蓮の目から、堰を切ったように温かい涙が溢れ出た。
包丁がカラリと音を立てて床に落ちる。
しかし、その救済の瞬間、部屋の床板が不自然にめくれ上がり、無数の灰色の腕が蓮の足首を掴んだ。
[A:九条 蓮:恐怖]「[Shout]ひっ、いや、嫌だ! 助け――奏汰、助けてえええええ![/Shout]」[/A]
[A:柊 奏汰:驚き]「蓮!!」[/A]
一瞬の出来事だった。
引きずり込まれる蓮の首筋に、[Impact]新たな生贄の痣[/Impact]が浮かび上がる。
そして、彼は床下の底なしの暗闇へと、一瞬にして姿を消す。
引き裂かれた、絶望に満ちた悲鳴だけが、理科室の床に冷たく取り残された。
第4章:暴かれた過去、闇に沈む白百合

茫然と立ち尽くす奏汰の頭上から、不意にスピーカーのノイズが鳴り響いた。
キィィィン、という耳障りなハウリング。
その後に、酷く甘ったるく、慈愛に満ちた女性の声が、校内全体に響き渡る。
[A:鳴海 桔梗:喜び]「ウフフ、素晴らしい悲鳴ねぇ。九条くん、最後の最後まで本当に、本当に良い仕事をしてくれたわ。お疲れ様、安らかに眠りなさい?」[/A]
[A:白百合 凛:怒り]「……鳴海、桔梗……! 貴女、どこから見ているの!」[/A]
凛の瞳が、怒りと、それを上回る圧倒的な恐怖で小さく震える。
[A:鳴海 桔梗:喜び]「でもね、ゲームはまだ終わっていないの。特に、そこにいる白百合凛さん? あなたは知っているはずよね。このゲームの、甘くて苦い『真実』を」[/A]
スピーカーの向こうの女は、クスクスと、少女のように愉しげに笑った。
[A:鳴海 桔梗:喜び]「前回のゲームで、あなたはどうやって生き残ったのかしら? 『親友を見殺しにして、背中を押して生贄にした』のは、どこの誰だったかしらねぇ? 本当に美しい、生き汚さだったわよ?」[/A]
[A:白百合 凛:絶望]「[Tremble]やめて……、言わないで……! 違う、私は、私はそんなこと……っ![/Tremble]」[/A]
凛は耳を両手で塞ぎ、その場に崩れ落ちた。
病的だった肌が、さらに血の気を失い、紙のように真っ白になっていく。
[A:鳴海 桔梗:喜び]「さあ、お掃除の時間よ。暗闇の中で、今度こそ美しく狂い咲きなさい。私の愛しい、生贄たち」[/A]
[Impact]パチン。[/Impact]
校舎全体の非常電源が、完全に遮断される。
一切の光が失われた、本物の暗黒が世界を支配した。
[A:白百合 凛:絶望]「[Tremble]嫌、嫌っ! 暗いのは、嫌! 誰か……誰でもいいから、私を置いていかないで……! ごめんなさい、ごめんなさい……っ![/Tremble]」[/A]
過呼吸を起こし、自らの細い喉を爪が立つほどかきむしる凛。
かつての冷徹なゲームマスターの面影は、どこにもない。
暗闇への根源的な恐怖と、過去の罪悪感に押しつぶされ、彼女はただの震える少女に成り果てている。
そして、四方の壁から、無数のシガラキ様の気配が、爪を立てて這い寄ってくる音が聞こえ始めた。
第5章:痛みで覚醒する獣、狂気の共犯契約

[Sensual]
完全な、光を拒絶した暗闇。
聞こえるのは、凛の乱れた荒い呼吸と、四方からじわじわと迫る異形の足音だけ。
奏汰は暗闇の中、ポケットから一本の錆びたカッターナイフを取り出した。
冷たい金属の感触。
[A:柊 奏汰:狂気]「……おい、白百合。お前、このままここで無様に死にたいのか?」[/A]
[A:白百合 凛:絶望]「[Tremble]嫌……でも、私は、あの時……。私のせい、全部私のせいで……。もう、嫌……私を置いて、逃げてよ……お願いだから……![/Tremble]」[/A]
[A:柊 奏汰:狂気]「逃げる? んな面倒くせえこと、誰がするかよ。そんな面白くねえ結末、俺が許さねえ」[/A]
[Pulse]ザシュッ![/Pulse]
奏汰は、自らの首筋にある黒い痣に、一切の躊躇なくカッターの刃を突き立て、深く、横一文字に切り裂いた。
噴き出す熱い血が、はだけた制服のシャツを赤く染めていく。
しかし、その激痛と引き換えに、奏汰の脳内にアドレナリンが怒涛のように流れ込む。
痛覚の一時的遮断。
死への恐怖の完全な麻痺。
生気のない、澱んだ三白眼に、ギラギラとした狂気の獣性が宿る。
[A:柊 奏汰:狂気]「一人で死ぬのも、誰かを見捨てるのも、もうウンザリんだよ。だから、全部壊してやる」[/A]
奏汰は床にへたり込む凛の華奢な体を、血まみれの腕で力強く、壊すほどの強さで引き寄せ、その細い肩を抱きしめた。
首筋から滴る温かい血が、凛の白い頬を赤く汚していく。
熱く、湿った吐息が、凛の耳の裏に直接吹きかかる。
[A:柊 奏汰:狂気][Whisper]「お前の罪ごと、俺が背負ってやる。だから、その冷たい顔で、俺を支配し続けろよ。……俺の、可愛い飼い主さんよぉ」[/Whisper][/A]
凛の漆黒の瞳に、ゆっくりと、しかし確実に光が戻っていく。
奏汰の首から、傷口から伝わる狂気的な体温が、彼女の芯にある凍てついた恐怖をドロドロに溶かしていく。
単なる利害関係ではない。
互いの闇を貪り食うような、狂気的で、重く湿った共犯関係が、この暗闇の中で確かに結ばれた。
[A:白百合 凛:興奮]「[Whisper]……本当に、愚かで、狂った犬ね。でも……約束しなさい。私を、絶対に一人にしないと。裏切ったら、殺すから[/Whisper]」[/A]
[A:柊 奏汰:狂気][Whisper]「ああ。地獄の、一番深い底まで付き合ってやるよ」[/Whisper][/A]
[/Sensual]
凛は力強く立ち上がり、巨大な呪符を闇に向かって鋭く掲げる。
その白い手は、もう微塵も震えていなかった。
第6章:聖母の皮を剥ぎ、神を屠る

[Flash]ドンッ![/Flash]
呪符から放たれた、業火のごとき青白い烈火が、暗闇を暴力的に薙ぎ払い、迫り来る化物の腕を跡形もなく消し飛ばした。
二人は一度も立ち止まることなく、血の跡を辿って放送室の重厚な鉄の扉の前に辿り着く。
[A:柊 奏汰:狂気][Shout]「どけよ、ババア! 主役の登場だ!」[/Shout][/A]
奏汰の全体重を乗せた蹴りが、放送室の扉を文字通り粉々に叩き壊した。
部屋の中に広がっていたのは、この世の光景とは思えない、肉と血の異形の間。
壁や天井、床のすべてがドクドクと脈打つ巨大な赤い肉塊で覆われている。
その中心に、白衣の下の真紅のワンピースを血でぐしょぐしょに濡らした鳴海 桔梗が、恍惚とした表情で座っていた。
彼女の背中からは、無数の灰色の触手が伸び、天井の巨大な『シガラキ様』の本体と、血管のようにつながり、融合している。
[A:鳴海 桔梗:喜び]「あらあら、よくここまで来られたわね。でも、無駄よ? この学校はすでにシガラキ様と完全に一体化しているの。あなたたちも、私の美しい芸術の一部になりなさい。ねえ?」[/A]
桔梗の手が優雅に揺れると、天井から巨大な肉の槍が、奏汰に向かって音速で突き降ろされた。
[A:白百合 凛:冷静]「柊、動かないで! そのまま受けなさい!」[/A]
[A:柊 奏汰:狂気]「応ッ! 信じてやるよ、飼い主!」[/A]
奏汰は避けるどころか、その肉の槍をあえて自らの左肩で、肉を貫かせるように受け止めた。
[Impact]グシャリ。[/Impact]
肋骨がへし折れる、おぞましい不快な音が部屋に響き渡る。
しかし、奏汰は激痛を嘲笑うように、肩を貫く槍を血まみれの両手で掴み、桔梗の方へと無理やり強く引き寄せた。
[A:柊 奏汰:狂気][Shout]「が、はっ! ……あはははは! この程度かよ! お前のその薄っぺらい絶望じゃ、俺たちの、狂った明日を奪うには、一ミリも足りねえんだよ!!」[/Shout][/A]
[A:鳴海 桔梗:驚き]「な、何なの、この子は……痛覚がないの!? 狂っているわ、人間じゃない……!」[/A]
奏汰がその身を犠牲にして作り出した、致命的な一瞬の隙。
[A:白百合 凛:冷静]「これで、本当に終わりよ。鳴海桔梗。地獄で後悔しなさい」[/A]
凛が自らの指先を容赦なく噛み切り、溢れ出る血で巨大な呪符に複雑な紋様を一瞬で描き上げた。
それは、彼女の命そのものを直接削って放つ、最大規模の滅殺呪。
[Magic]《九字・神威破邪》[/Magic]
[Flash]凄まじい、世界を焼き尽くすほどの閃光[/Flash]が放送室全体を包み込んだ。
凛の放った神聖な呪符が、桔梗の胸元と、背後のシガラキ様の脈打つ『核』を、正確に貫く。
[A:鳴海 桔梗:絶望]「[Tremble]ああ……、あぁぁ! なんて、なんて美しい反逆……。これが、私の求めた、極上の、痛みなのね……っ![/Tremble]」[/A]
恍惚と絶望の混じった悲鳴を上げながら、桔梗の肉体は、天井のシガラキ様と共に、ボロボロと灰になって崩壊していった。
結界が完全に解け、校舎全体を覆っていた悍ましい気配が、朝露のように霧散していく。
第7章:朝焼けの嘘、そして新たな瞳が穿たれる
割れた窓ガラスの向こうから、眩しいほどの黄金色の朝焼けが、静かに差し込んでいた。
旧校舎の、静まり返った屋上。
冷たい朝風が、ボロボロになった二人の体を優しく撫でるように吹き抜ける。
奏汰のシャツは血に染まって真っ赤になり、凛の銀髪もあちこちが汚れていたが、その表情には、奇妙なほど静かな平穏が満ちていた。
[A:白百合 凛:喜び]「……終わったのね。本当に、私たちの勝ちよ」[/A]
凛は、年相応の、生まれて初めて見せるような柔らかい、どこか愛らしい笑顔を奏汰に向けた。
奏汰の首筋を覆っていた黒い痣は、完全に消え去っているように見えた。
[A:柊 奏汰:冷静]「ああ。最悪な夜だったな。もう二度と御免だ」[/A]
[A:白百合 凛:喜び]「これからは……そうね。あなたの優秀な飼い主として、もう少しだけ優しくしてあげるわ」[/A]
少し照れくさそうに微笑む凛に、奏汰は小さく鼻で笑い、歩き出そうとした。
しかし、ふと、立ち止まる。
その表情から、一切の感情が消え去った。
[A:柊 奏汰:冷静]「……なあ、白百合。蓮の妹って、どこの病院にいるんだっけ?」[/A]
[A:白百合 凛:冷静]
「ええ? 確か、市立の中央病院だけど……急にどうかしたの?」[/A]
振り返った凛の体から、一瞬にして、文字通り全ての体温が奪われる。
[Blur]目の前の景色が、ぐにゃりと歪んで見える。[/Blur]
朝陽に照らされた、奏汰の首筋。
そこには、消えたはずの黒い痣が、先ほどよりもさらに巨大に、禍々しく浮かび上がっていた。
それは、[Impact]一つの巨大な、本物の『目玉』[/Impact]の形をしており、不気味に、キョロキョロと凛を、値踏みするように凝視している。
そして。
ゆっくりと振り返った奏汰の口元は、先ほど滅ぼしたはずの鳴海桔梗と、全く同じ――
[Glitch]慈愛に満ちた、不気味で醜悪な微笑み[/Glitch]に、歪んでいた。
[A:柊 奏汰:狂気]「そうか、中央病院か。……いい子ね、教えてくれてありがとう。次のゲームを始めましょう」[/A]
[A:白百合 凛:恐怖]「[Tremble]あ、……あ、あ……うそ、なんで……っ……![/Tremble]」[/A]
凛の喉から、真の絶望の悲鳴が零れ落ちる直前。
彼女の視界は、そして世界は再び、深い、深い底なしの闇へと反転していった。