最弱の環境音(BGM)使い、裏拍で世界を支配する〜追放された俺の配信が、なぜか神回扱いされている件〜

最弱の環境音(BGM)使い、裏拍で世界を支配する〜追放された俺の配信が、なぜか神回扱いされている件〜

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第一章 死にかけの配信者と、空気を読まないファンファーレ

「悪いなレンジ。お前のスキル、正直耳障りなんだわ」

その言葉と共に、俺のスマホは湿ったダンジョンの床に叩きつけられた。

画面にヒビが入る音。それが、俺の冒険者人生が砕け散る音に聞こえた。

「え……?」

「だから、クビ。ここでさよならだ。BGMしか流せないハズレスキルとか、緊張感削ぐだけだし」

Sランクパーティ『紅蓮の牙』のリーダー、カイトが冷ややかに言い放つ。

背後では、俺が密かに想いを寄せていたヒーラーのエリナが、申し訳なさそうに、けれど確実に軽蔑を含んだ目でこちらを見ていた。

「ちょ、待ってくれ! ここはB級ダンジョンの深層だぞ!? ソロじゃ帰れない!」

「知るかよ。運が良ければ、そのふざけた音楽でモンスターと仲良くなれるんじゃね? じゃあな」

転移結晶の光が瞬く。

残されたのは、俺と、ヒビ割れたスマホと、どこからか湧き出る湿った腐臭だけ。

「……マジかよ」

絶望で膝が笑う。

俺のスキル【劇伴(サントラ)】は、状況に合わせて勝手にBGMが流れるだけの、正真正銘のゴミスキルだ。

戦闘中だろうがシリアスな場面だろうが、間の抜けたカントリー調の曲が流れたりするせいで、何度もパーティの連携を乱した。

(死ぬのか。ここで)

震える手でスマホを拾う。

バッテリー残量は12%。電波は……奇跡的に1本立っている。

どうせ死ぬなら。

誰にも知られずに肉塊になるのだけは嫌だ。

俺は無意識に、配信アプリ『D-Live』を起動していた。

タイトル:『【緊急】深層で追放された。たぶん死ぬ』

震える指で配信開始ボタンを押す。

同接(同時接続者数)は、0人。

いや、すぐに「3人」になった。

『うわ、釣りタイトル乙』

『画質悪っ』

『ここ深層? 背景CGじゃね?』

冷たいコメントが流れる。

だが、今の俺にはそれが唯一の、外の世界との繋がりだった。

「はは……CGならよかったんだけどな。悪い、これ遺書代わりだから」

その時。

闇の奥から、低く、腹の底に響くような唸り声が聞こえた。

グルルルル……。

巨大な影が動く。

ミノタウロスだ。それも、通常の個体より二回りはデカい「変異種(ネームド)」。

終わった。

恐怖で声が出ない。

その瞬間、俺の意思とは無関係に、脳内でスイッチが入る感覚があった。

――スキル【劇伴】発動。

ジャーン!!

空気を読まないほど勇壮な、オーケストラヒットがダンジョン内に鳴り響いた。

『え?』

『なに今の音』

『演出? 余裕じゃんこいつw』

コメント欄が加速する。

違う、俺じゃない。勝手に鳴ったんだ!

ミノタウロスが音に反応し、充血した眼で俺を睨む。

(ふざけんな! なんで今、こんなクライマックスみたいな曲流すんだよ!)

曲調が変わる。

重厚なストリングスに、激しいドラムビート。

まるで映画のラストバトルのような音楽が、俺の鼓動とリンクして加速していく。

「来るな……来ないでくれ……!」

俺は後ずさる。

だが、音楽は止まらない。

それどころか、BGMの「圧」が、物理的な風圧となって俺の髪を揺らした。

ん?

風圧?

ドムッ、ドムッ、ドムッ。

BGMのバスドラム(低音)に合わせて、ミノタウロスの足音が、カク、カク、と不自然に止まる。

『なんか映像バグってね?』

『コマ落ち?』

『いや、音ハメすごくね?』

俺は気づく。

俺の心臓が早鐘を打つたびに、曲のテンポ(BPM)が上がっている。

そして、そのテンポに――**目の前の怪物の心臓が、強制的に同期させられている**ことに。

第二章 BPM220の心停止(デス・ドロップ)

理解した瞬間、恐怖が別の感情に塗り替わった。

これは、ただのBGMじゃない。

俺が支配している空間の「律動(リズム)」そのものだ。

「……もしかして、俺がビビればビビるほど、曲が速くなるのか?」

ミノタウロスが斧を振り上げる。

その動作は、スローモーションのように重々しい。

いや、違う。BGMの重低音が空間の粘度を上げているのだ。

『うおおお危ない!』

『避けろ!』

『なんだこのBGM、クッソあがるんだけどwww』

同接が100人を超えた。

「ひっ、死にたくない!」

俺が叫んだ瞬間、心拍数が跳ね上がる。

それに呼応して、BGMが『ハードコア・テクノ』へと変貌した。

ズガガガガガガガ!!

暴力的なまでの高速ビート。

ミノタウロスの巨体が、ビートに合わせて痙攣する。

心臓が、無理やりBPM200以上のリズムを刻まされているのだ。

「グ、ガ……ッ!?」

怪物が苦悶の表情を浮かべ、胸を押さえる。

俺の目には、奴の頭上にライフバーのようなものが見え、それがビートの打撃音と共に削れていくのが分かった。

(いける……これなら、いけるのか!?)

俺はスマホの画面を見る。

コメント欄が滝のように流れている。

『音ゲーかよwww』

『敵がリズムに乗ってて草』

『これ実写? クオリティ高すぎだろ』

『神回確定』

承認欲求。

今まで「役立たず」と罵られ続けてきた俺の中に、どす黒く、熱い炎が灯る。

「見てろよ……カイト、エリナ……!」

俺は意識的に、恐怖と興奮を混ぜ合わせる。

さらに速く。もっと激しく。

「ドロップ、行きます!!」

俺が叫ぶと同時に、曲はブレイク(静寂)を迎えた。

キィィィィィン……

高音が鳴り響き、緊張感が極限まで高まる。

ミノタウロスが動けるようになり、斧を振り下ろそうとした、その瞬間。

ズドォォォォォォォン!!!!

強烈なベースドロップ。

俺のスキルが放った衝撃波が、可聴域を超えた音圧となって炸裂した。

ミノタウロスの胸部が、内側から弾け飛ぶ。

血飛沫すらも、スローモーションの演出のように美しく空中に散った。

巨体が崩れ落ちる。

あとに残ったのは、静寂と、俺の荒い息遣い。

そして、ファンファーレのような勝利のジングル。

スマホの画面を見る。

同接、5000人突破。

『え』

『は?』

『ガチで倒した……?』

『今の衝撃波なに? 音圧?』

『【速報】底辺配信者、深層のネームドを音楽で爆殺』

スパチャ(投げ銭)の音が鳴り止まない。

第三章 承認欲求は蜜の味、あるいは猛毒

「はぁ、はぁ……見たか、これ……」

腰が抜けて座り込む。

だが、画面の中の数字は、俺のアドレナリンを供給し続けていた。

『あんた何者?』

『Sランク探索者でも苦戦する相手だぞ』

『音魔法? いや、スキル鑑定だと無反応だったぞ』

俺は震える手で髪をかき上げる。

カメラに向かって、精一杯の「強者の笑み」を作ろうとしたが、引きつっていただろう。

「……BGMがうるさいって理由で追放されたんだけど、なんか倒せちゃったわ」

コメント欄が爆発する。

『追放した奴ら見る目なさすぎワロタ』

『そのパーティどこよ? 特定班動け』

『てか、後ろ! 誰か来るぞ!』

コメントに反応して振り返ると、通路の奥からボロボロになった一団が走ってくるのが見えた。

見覚えのある装備。

カイトと、エリナたちだ。

「はぁ、はぁ……くそッ、こっちのルートも行き止まりかよ!」

カイトが叫ぶ。

彼らの後ろには、無数の「スカル・ソルジャー」が迫っていた。

俺のいる広場に逃げ込んできた彼らは、俺の姿を見て目を見開く。

「レンジ!? なんで生きて……いや、ちょうどいい! お前、囮になれ!」

カイトが息も絶え絶えに命令する。

エリナも必死の形相だ。

「レンジさん! お願い、私たちを助けると思って!」

こいつら。

俺を捨てたくせに、また俺を捨て駒にするつもりか。

以前の俺なら、ヘラヘラ笑って従っていたかもしれない。

だが、今は。

俺はスマホの画面をチラリと見る。

『うわ、こいつらが元パーティ?』

『最低だな』

『囮になれとか何様w』

『主、やっちゃえ』

数万人の「味方」が、俺の背中を押している。

「……断る」

俺は短く告げた。

「は? 何言ってんだテメェ! 殺すぞ!」

カイトが剣を向けるが、その手は震えている。

俺はゆっくりと立ち上がり、スカル・ソルジャーの群れに視線を移した。

「カイト、お前言ったよな。『緊張感が削がれる』って」

スキル発動。

今度は、とびきり陽気で、不気味な『サーカス・マーチ』を選曲した。

チャンチャカチャン、チャンチャカチャン♪

コミカルな音楽が流れる中、骸骨の兵士たちが、まるで操り人形のように不自然なダンスを踊り始める。

「な、なんだこれ……体が勝手に……!?」

カイトたちが、強制的にラインダンスの列に組み込まれていく。

俺の【劇伴】は、敵味方を識別しない。

ただ、俺が「演者」と認識した者を、舞台に上げるだけだ。

「ふざけるな! 止めろレンジ!!」

「嫌だ! 私、こんな動きしたくない!」

泣き叫ぶエリナ。剣を落としてタップダンスを踊らされるカイト。

骸骨たちと手を取り合い、死の舞踏を踊る元仲間たち。

その光景は、あまりにも滑稽で、残酷で、最高のエンターテインメントだった。

『クッソワロタwwww』

『地獄のカーニバル開幕』

『ざまぁwww』

『これアーカイブ残る? 伝説だろ』

俺はカメラに向かって、ニヤリと笑った。

「さて、リスナーのみんな。この曲が終わるまで、彼らが生き残れると思う? ……賭け(ベット)の時間は、今からスタートだ」

BGMのテンポが、少しずつ、確実に速くなっていく。

その狂乱のリズムの中で、俺は確かに「支配者」の悦びを感じていた。

だが、俺はまだ気づいていなかった。

ダンジョンの壁が、俺の音楽に合わせて微かに脈動していることに。

そして、深層のさらに奥底で、太古の何かが、この「新しい指揮者」の誕生に呼応して目を覚まそうとしていることに。

AI物語分析

【主な登場人物】

  • キジマ・レンジ: 主人公。環境音を操作するスキル【劇伴】の持ち主。当初はただの臆病者だったが、配信の数字(同接・スパチャ)に脳を焼かれ、過激な演出家へと変貌する。「恐怖」を「ビート」に変換する戦闘スタイル。
  • カイト: 追放した元リーダー。実力はあるがプライドが高く、配信映えしか気にしない現代探索者のカリカチュア。レンジのスキルにより、死ぬまで踊り続けるピエロ役となる。
  • エリナ: ヒーラー。レンジの好意を利用していた八方美人。レンジの覚醒により、守られるヒロインの座から「その他大勢のモブ」へ転落する。

【考察】

  • 「音」による支配のメタファー: 本作におけるBGMは、現代社会における「空気(同調圧力)」の象徴である。レンジはその空気を支配することで、物理法則すらも書き換える権力を手にする。
  • 承認欲求という名のダンジョン: モンスターよりも恐ろしいのは、レンジを煽り、より過激な行動へと駆り立てる「視聴者(コメント)」である。彼らはレンジを神輿として担ぎ上げるが、飽きれば即座に見捨てる残酷さを秘めている。
  • 「ざまぁ」の構造的転換: 単なる暴力による復讐ではなく、元仲間を「滑稽なショーの一部」として取り込むことで、彼らの尊厳を徹底的に破壊している点が、本作の残酷性を際立たせている。
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