最深部の遺言配信 ~英雄に捨てられたので魔王になります~

最深部の遺言配信 ~英雄に捨てられたので魔王になります~

主な登場人物

九条レン (Kujo Ren)
九条レン (Kujo Ren)
17歳 / 男性
ボロボロの黒いパーカーに、継ぎ接ぎだらけの戦術パンツ。髪は伸び放題で目が隠れている黒髪。瞳は深い紫色で、常にハイライトが消えかけている。首には配信用の小型ドローンがネックレスのように巻き付いている。
御剣カイト (Mitsurugi Kaito)
御剣カイト (Mitsurugi Kaito)
18歳 / 男性
白を基調とした煌びやかな最新鋭の強化アーマー。金髪碧眼の正統派イケメン。常にカメラ写りを気にした完璧なスタイリング。
聖女エリシア (Saintess Elicia)
聖女エリシア (Saintess Elicia)
享年19歳(死後300年経過) / 女性
半透明の身体。古風だが清楚な純白の修道服(現代のトレンドとは異なるクラシックなデザイン)。銀色の長髪が重力に逆らってふわふわと漂っている。

相関図

相関図
拡大表示
4 4063 文字 読了目安: 約8分
文字サイズ:
表示モード:

第一章: 遺言の開始

湿った石床。散る、赤い飛沫。

鉄錆と腐臭の混ざり合った空気が、肺を焼くように重かった。

[System]

ダンジョン最深部「奈落」到達を確認。

通信圏外……接続試行中……接続成功。

[/System]

空中、球体ドローンが回転する。レンズから放たれる青白い燐光。

無機質なその輝きが、闇にうずくまる少年の姿を切り取った。

ボロボロに擦り切れた黒いパーカー。袖口から覗く痩せ細った腕には、至る所に赤黒い染みがこびりついている。継ぎ接ぎだらけの戦術パンツは膝が抜け、今にも崩れ落ちそう。

長く伸び放題になった黒髪が、顔の半分以上を覆う。その隙間から覗くのは、ハイライトの消えかけた、濁った紫水晶(アメジスト)のような瞳。

首元には無骨な金属製のドローン。まるで囚人の首輪のように巻き付き、微かな駆動音を立てていた。

少年――九条レン。ひび割れた唇が、微かに動いた。

[A:九条レン:冷静]「あー、テステス。……聞こえますか? これより、僕の処刑兼、遺言配信を始めます」[/A]

乾いた声。感情の波など、とっくの昔に干上がった砂漠のように。

[A:九条レン:冷静]「場所は未踏領域『奈落』。国民的英雄パーティ『白銀の翼』の皆様によって、僕はここに囮として廃棄されました」[/A]

自嘲気味に歪む口角。

ほんの数十分前まで、彼は「仲間」だと信じていた者たちに囲まれていたのだ。

『悪いなレン。ここから先は選ばれた人間しか進めないんだ』

黄金の強化アーマーに身を包んだリーダー、御剣カイトはそう言って笑った。

『お前みたいなゴミでも、魔物の餌になら役に立つだろう? 感謝しろよ、英雄の踏み台になれるんだ』

置き去りにされた瞬間、レンの世界は閉じた。

だが、皮肉なことに通信機だけは生きている。彼が首に巻いているのは、御剣たちが「自分たちの活躍を記録するため」に強制的に装着させた自動配信ドローン。

[A:九条レン:絶望]「僕の命なんて、必要経費ですから。……誰も見ちゃいないでしょうけど」[/A]

闇の奥。灯る、複数の赤い光。

ズルリ、と何かを引きずる音。

骨と皮だけの四足獣。眼窩から腐敗液を垂れ流す異形の魔狼(アンデッドウルフ)の群れだ。その数、三十。

[Think]ああ、終わるんだ。やっと。[/Think]

レンは目を閉じる。恐怖ですらなかった。ただ、終わることへの安堵。

その時。

ドクン。

心臓が早鐘を打った。いや、心臓ではない。もっと奥底、魂の核が、飢餓感に似た熱を帯びて脈動する。

[System]

固有スキル《死者喰らい(ソウルイーター)》が覚醒しました。

対象:彷徨える剣聖の魂。

捕食を開始します。

[/System]

[A:九条レン:驚き]「え……?」[/A]

歪む視界。

魔狼の背後に、青白い人影が見えた。古びた侍の鎧。抜き身の刀を持った、首のない亡霊。

それが、レンの胸の中へと吸い込まれていった。

冷たい奔流が血管を駆け巡り、筋肉が軋みを上げて膨張する感覚。

[Shout]『我が剣、其の方に貸そうぞ!!』[/Shout]

脳内に響く轟音。レンの身体が勝手に動き出す。

足元の折れた鉄パイプを蹴り上げる。右手でそれを掴んだ瞬間、ボロボロの鉄屑が、名刀の如き鋭利な輝きを帯びた。

[A:九条レン:狂気]「なんだ、これ……力が、溢れて……!」[/A]

魔狼が飛び掛かる。

レンは一歩も動かない。ただ、鉄パイプを一閃させた。

[Magic]《無明逆流れ》[/Magic]

音も無く、空間ごと斬り裂いた。

三十頭の魔狼、空中で静止。

次の瞬間、全ての首が同時に滑り落ち、黒い血の噴水が闇を染め上げた。

レンは呆然と、自分の手を見つめる。

ドローンのカメラは、その光景を余すことなく捉えていた。

接続数は、いつの間にか六桁を超えている。

コメント欄が、滝のような勢いで流れていたことに、彼はまだ気づいていない。

◇◇◇

第二章: 死者たちとの共鳴

ダンジョンの闇を照らす、青白い燐光。

[A:聖女エリシア:喜び]「ああっ! レンさん、危ないです! 右からスケルトンが!」[/A]

半透明の少女が、レンの視界を横切るようにふわふわと漂った。

重力に逆らって広がる純白の修道服。銀色の長髪は水中にいるかのように揺らめいている。

彼女は壁をすり抜け、レンの目の前で大袈裟に手を振った。

[A:九条レン:冷静]「……見えてますよ、エリシアさん」[/A]

無造作に振るわれる右手。

掌から放たれた黒い雷撃が、襲い来る骸骨剣士を粉々に砕いた。

大魔導師の霊を喰らって得た、《黒雷》の魔法。

[A:聖女エリシア:照れ]「むぅ……私の出番がないですね。せっかくレンさんを守ろうと思ったのに」[/A]

[A:九条レン:冷静]「貴女がいるだけで、精神汚染(マインド・コラプション)が防げています。十分すぎるほど助かってます」[/A]

レンは淡々と答えながら、落ちていた魔石を拾い上げた。

あれから数日。

レンは生き延びていた。

剣聖、大魔導師、暗殺王……奈落に溜まっていた「英雄級の死者」たちを次々と喰らい、そのスキルを自らのものとしていたのだ。

だが、それ以上に大きかったのは、彼らとの「対話」。

レンの脳内は今や、賑やかな会議室と化している。

[Think]

(剣聖:腰が入っておらん! もっと丹田に力を入れろ若造!)

(暗殺王:ククッ、正面突破ばかりで芸がないねぇ。罠を使えよ)

(大魔導師:黙れ脳筋ども! 魔法構成の美しさを語らせろ!)

[/Think]

[A:九条レン:絶望]「……頭が痛い。静かにしてください」[/A]

レンがこめかみを押さえる。その仕草すらも、ドローンを通じて全世界に配信されていた。

視聴者数は五千万を突破。

『捨てられた雑用係』の逆転劇は、世界中で社会現象となっていた。

一方、地上。

豪華絢爛なギルドのVIPルーム。御剣カイトはワイングラスを壁に投げつけた。

[Shout]ガシャアアアン!![/Shout]

白い壁紙を汚す、赤い液体。

[A:御剣カイト:怒り]「なんでだ!? なんであのゴミが生きてるんだよ!!」[/A]

モニターには、深淵で無双するレンの姿。

コメント欄は『御剣ざまぁw』『レンきゅん尊い』『白銀の翼はクズ』という罵倒で埋め尽くされている。

[A:御剣カイト:恐怖]「俺の人気が……俺の伝説が……! 許さない。あいつは魔人だ。ダンジョンの闇に魂を売った化け物だ!」[/A]

御剣は震える指で通信機を掴み、国家騎士団へ緊急要請を出した。

目は血走り、整った顔立ちは醜悪に歪んでいる。

[A:御剣カイト:狂気]「討伐対象に指定しろ! 今すぐだ! あの汚物をこの世から消し去れえええ!!」[/A]

◇◇◇

第三章: 魂の代償

[System]

警告:魂の許容量が限界に達しています。

スキルの使用に伴い、捕食した魂の崩壊が加速しています。

[/System]

レンの視界。点滅する不吉な赤い文字。

最近、脳内の声が小さくなっている気がしていた。

剣聖の叱咤も、暗殺王の皮肉も、遠い。

[Sensual]

焚き火のそば。エリシアがレンの隣に座る。

彼女の身体は、以前よりも透けて見えた。背景の岩肌が、彼女を通してはっきりと見えるほどに。

[A:聖女エリシア:悲しみ]「……気づいていますね? レンさん」[/A]

レンは、栄養剤のパッケージを握りしめたまま俯いた。

指先が白くなるほどに力を込めて。

[A:九条レン:恐怖]「僕が力を使うたびに……みんなが、削れていく。消えていく」[/A]

[A:聖女エリシア:愛情]「それは、私たちが望んだことですよ。誰にも顧みられず、暗闇で朽ちていくだけだった魂に、あなたが『戦う意味』をくれた」[/A]

エリシアの手が、レンの頬に伸びる。

触れられない。冷気を感じるだけだ。

それでも、レンはその冷たさに縋るように目を閉じた。

彼女の指先が、レンの涙を拭うような仕草をする。

[A:九条レン:悲しみ]「嫌だ……一人になりたくない。僕のために、貴女が消えるなんて」[/A]

[A:聖女エリシア:冷静]「泣かないで。私がそばにいますから。……形がなくなっても、ずっと」[/A]

[/Sensual]

その時、轟音が最深部を揺らした。

上層からの爆撃。

御剣率いる討伐隊が、ついに到達したのだ。

[A:御剣カイト:興奮]「見つけたぞおおお!! 化け物ぉ!!」[/A]

崩落する天井。巨大な岩塊が、動けないレンの頭上へ落下する。

[A:九条レン:驚き]「しまっ――」[/A]

回避が間に合わない。

その瞬間、レンの視界が純白の光に包まれた。

[Magic]《聖女の加護・最終障壁(ラスト・サンクチュアリ)》[/Magic]

[Shout]エリシア!![/Shout]

光の中で、彼女が微笑む。

その身体が、粒子となって解けていった。

[A:聖女エリシア:愛情]「レンさん。……生きて。あなたには、その価値がある」[/A]

岩塊が障壁に弾かれ、粉々に砕け散る。

だが、光が収まった時、そこに彼女の姿はなかった。

[A:九条レン:絶望]「あ……あ、あぁ……」[/A]

喉の奥から、獣のような嗚咽が漏れた。

消えた。唯一の光が。自分の命を守るために。

[A:九条レン:狂気]「許さない……許さないぞ、御剣……ッ!!」[/A]

◇◇◇

第四章: 英雄の資格

瓦礫の山の上に立つ、御剣カイト。

背後には数十人の精鋭騎士たち。

対するレンは一人。俯き、ゆらりと立ち上がる。

[A:御剣カイト:冷静]「はっ、小汚い恰好だな。魔人になったと聞いたが、ただの薄汚いドブネズミじゃないか」[/A]

カメラに向け、御剣は完璧な角度で髪をかき上げた。

[A:御剣カイト:興奮]「視聴者の諸君! これより我々『白銀の翼』が、正義の鉄槌を下す! 刮目せよ!」[/A]

御剣が聖剣を抜いた。刀身が黄金の光を放つ。

レンは顔を上げた。

髪の間から覗く瞳は、もはや紫ではない。

赤、青、金、漆黒――無数の魂の色が混ざり合い、混沌とした深淵の色を湛えている。

[A:九条レン:冷静]「……うるさい」[/A]

[A:御剣カイト:怒り]「あ? 遺言か?」[/A]

[A:九条レン:怒り]「その汚い声で、彼女の眠りを妨げるなと言ったんだ」[/A]

レンが一歩踏み出す。

たったそれだけで、騎士たちの足が止まった。

圧倒的な「死」の気配。肌が粟立つような威圧感。

[A:御剣カイト:恐怖]「ひるむな! やれ! 魔法部隊、一斉射撃だ!」[/A]

炎、氷、雷。無数の攻撃魔法がレンに殺到する。

だが、レンは避けようともしなかった。

[Magic]《術式解体(スペル・ブレイク)》[/Magic]

指先一つ動かさず、視線だけで魔法の構成式を霧散させた。大魔導師の叡智。

[A:御剣カイト:驚き]「な……ッ!?」[/A]

次の瞬間、レンの姿が消える。

いや、速すぎる。

御剣が気づいた時には、レンは彼の目の前に立っていた。

切っ先が喉元に突きつけられている。それは、拾ったただの鉄パイプ。

[A:九条レン:冷静]「これが、お前が憧れた『剣聖』の速さだ。……見えなかったか? 英雄様」[/A]

[A:御剣カイト:恐怖]「ひ、ひぃッ……!」[/A]

腰を抜かし、無様に尻餅をついた。

黄金のアーマーが、泥水に汚れる。

カメラは、その情けない姿をクロースアップで捉え続けていた。

[A:九条レン:冷静]「お前たちが救えなかった魂が、今、俺を生かしている。お前たちが踏みにじった者たちの力が、お前を凌駕しているんだ」[/A]

レンは鉄パイプを振り上げる。

[A:九条レン:怒り]「死ね」[/A]

その一撃が振り下ろされる寸前。

大地が激しく隆起した。

[Shout]ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!![/Shout]

裂ける、ダンジョンの壁。噴出する、赤黒いマグマのような魔力。

[System]

緊急警報。ダンジョンコア臨界点突破。

世界規模の崩壊現象(スタンピード)を確認。

[/System]

御剣たちなど眼中にないと言わんばかりに、最深部の闇が膨れ上がる。

これは、復讐劇の終わりではない。

世界の終わりの始まりだった。

クライマックスの情景
あなたのアイデアで「続き」を書こう!

「もしもあの時...」「この後二人は...」
あなたの想像をAIが形にします。

0 / 200
本日、あと...

TOPへ戻る