君を救うため、俺は世界から消えることにした

君を救うため、俺は世界から消えることにした

主な登場人物

レオン・アルジェント
レオン・アルジェント
17歳 / 男性
銀色のボサボサに乱れた髪、酷い隈が刻まれた鋭い三白眼、着崩した黒い学園制服、両腕には痛々しい血滲む包帯が巻かれている。常にどこか遠くを見つめるような虚ろな瞳をしているが、ステラを見る時だけは優しい光を宿す。
ステラ・クロノワール
ステラ・クロノワール
17歳 / 女性
夜空をそのまま切り取ったかのような深い青色の長い髪、星の輝きを宿す神秘的な金色の瞳、白を基調とした清楚でどこか神聖さを感じさせるワンピースドレス。歩くたびに微かな星屑の魔力がこぼれ落ちる。
シリウス・ヴェルト
シリウス・ヴェルト
18歳 / 男性
綺麗に整えられた癖のある金髪、右目に装着した知的な片眼鏡(モノクル)、仕立ての良い貴族風の漆黒の軍服コート。常に冷笑を浮かべ、周囲を見下すような優雅な立ち振る舞いをしている。

相関図

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第1章:灰の降る教会で、君に終焉の銃口を

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ごうごうと吹き荒れる紅蓮の炎が、極彩色のステンドグラスを容赦なく焼き尽くしていく。

熱で融解したガラスが、まるで教会の血涙のようにドロドロと床へ滴り落ち、激しい不協和音を奏でて砕け散った。

崩落を繰り返す天井の隙間から見上げる空には、ひび割れた漆黒の月が、まるで世界を睥睨する冷酷な眼孔のように浮かんでいる。

肺腑を内側からじりじりと焼く煙と、鼻腔を鋭く刺す嫌な鉄錆の匂い。

レオン・アルジェントは、自身の右腕から絶え間なく溢れ出る熱い血液を無視し、愛用の黒鉄の魔銃を真っ直ぐに構えていた。

酷い隈の刻まれた三白眼が、熱風に踊る銀色の乱れ髪の間から、ただ一点だけを鋭く射抜く。

煤で汚れて引き裂かれた学園の黒い制服の隙間から、両腕に巻かれた包帯が見えた。

そこには、赤黒いシミがじわりと、速度を増して広がっていく。

その震える銃口の先に立っているのは、誰よりも愛し、己の命のすべてを賭して守ると誓った少女――ステラ・クロノワール。

夜空の深淵をそのまま切り取ったような、吸い込まれそうな青い長髪が、暴走する魔力の風を孕んで激しく波打っている。

彼女の華奢な背中から生え出ているのは、世界を貪り尽くさんとする、おぞましき漆黒の魔力翼。

かつては星の輝きを宿していた澄んだ金色の双眸からは、いまや血の混じった涙が、白い頬を汚しながら筋となって零れ落ちていた。

[A:ステラ・クロノワール:悲しみ]「なぜ……なぜ私を殺してくれないのですか、レオン……! これ以上、私がこの世界を壊してしまう前に、お願いですから……!」[/A]

廃教会に響き渡る絶叫は、炎が柱を爆ぜさせる轟音に掻き消されそうなほど、掠れ、引き裂かれていた。

レオンの指先が、冷え切った引き金の上でカタカタと醜く痙攣を繰り返す。

痛覚を遮断する魔術技術をもってしても、胸の奥を万力で抉られるようなこの痛みを消し去ることはできない。

これは、彼女を救うための旅路だったはずだ。

彼女がただ、陽だまりの中で平穏に笑っていられる明日を迎えるための、果てしない戦いだったはずだ。

しかし、神の気まぐれか、あるいは呪われた因果の悪戯か。

最後に突きつけられた唯一の解は、『彼女を殺して世界を救う』か、『彼女と共に世界を滅ぼす』かの二択のみ。

[A:レオン・アルジェント:怒り]「……ふざけるな。誰がそんな選択肢に従うかよ」[/A]

レオンは奥歯がきしむほど強く食いしばり、口内に溜まった血混じりの唾を床へ吐き捨てた。

そして、その銃口を愛しい少女から外し、一切の躊躇なく、自らのこめかみへと強く押し当てる。

冷たい銃口が皮膚を凹ませ、骨にその冷徹な感触を伝えた。

[A:ステラ・クロノワール:恐怖][Tremble]「嫌……! やめて、レオン! 何をしようとしているのですか!? お願い、その手を離して!」[/Tremble][/A]

[A:レオン・アルジェント:冷静]「……問題ない。これが、俺の導き出した最適解だ」[/A]

それは、己の魂を薪として燃やし、時間を巻き戻す禁忌の魔術――『リワインド』の引き金。

発動の代償として、彼の魂と記憶は内側からガリガリとヤスリで削られるように消滅し、精神が崩壊するほどの激痛が走る。

ステラが悲鳴を上げ、白いワンピースドレスの裾を大きく翻して、必死に手を伸ばしてくる。

その白く細い指先がレオンの頬に届く直前、彼の薄い唇が、諦念と不器用な優しさを孕んだ弧を描いた。

[A:レオン・アルジェント:愛情][Whisper]「何度だって……君が笑う明日を、俺が創り出してやる」[/Whisper][/A]

[Shout]ドンっ![/Shout]

鼓膜を容赦なく突き破るような爆音が、炎の教会に響き渡る。

視界が[Flash]純白の閃光[/Flash]に激しく塗り潰され、九千九百九十九回目の絶望の時間が、凄まじい速度で巻き戻されていく。

すべてが白紙へと還るその刹那、レオンの脳髄から、ステラと初めて出会ったあの眩しい朝の記憶が、指の間からこぼれ落ちる砂のようにサラサラと崩れ落ち、永遠に消滅していくのを確かに感じていた。

第2章:陽だまりの悪夢と、砂の城のカウントダウン

Scene Image

柔らかな春の木漏れ日。

小鳥のさえずりが耳を心地よくくすぐり、そよ風が青葉の甘い香りをそっと運んでくる。

レオンがゆっくりとまぶたを持ち上げると、そこは学園の温かな陽だまりに包まれた中庭だった。

先ほどまで全身を苛んでいた地獄のような熱風も、肺を塞ぐ鉄の匂いも、すべては質の悪い悪夢だったかのように、きれいさっぱり消え去っている。

隣の年季の入った木製ベンチでは、ステラが無防備な寝息を立てて微睡んでいた。

その絹のように美しい青髪には、かつてレオンが不器用な手つきで贈った星型の髪飾りが、春の陽光を浴びてキラキラと誇らしげに輝いている。

その安らかな、あまりにも壊れやすく愛おしい横顔を見つめ、レオンはそっと手を伸ばしかけた。

しかし、自分の右手が、意思に反して酷く小刻みに震えていることに気づく。

それだけではない。太陽にかざした親指の先が、まるで頼りない陽炎のように、僅かに半透明に透けていた。

[Think]……もう、限界が近いな。魂の器が、これ以上の負荷に耐えられない。[/Think]

レオンは鋭い牙を立てるように奥歯を噛み締め、震える右手を強引に制服のポケットへとねじ込んだ。

魂の摩耗。自分の存在そのものが、世界という強固なシステムから消えかかっている明らかな証拠だった。

[A:ステラ・クロノワール:喜び]「ん……レオン? どうしたのですか、そんなに怖い顔をして。また寝不足ですか?」[/A]

ゆっくりとまぶたを持ち上げたステラが、心配そうに潤んだ金色の瞳でレオンを覗き込んできた。

いつもと変わらない、汚れなき聖女の微笑み。

その温もりに触れるたび、胸の奥が張り裂けそうになる。

[A:レオン・アルジェント:照れ]「何でもない。ただの寝不足だ。お前が変な寝相で寄りかかってくるから、腕が痺れて動かないだけだろ」[/A]

[A:ステラ・クロノワール:怒り]「もう、私はそんなにお行儀悪くありませんよ! 分厚い魔導書で頭を小突かれたいのですか?」[/A]

ふくれた頬をさらに膨らませるステラの姿に、痛む胸の奥がじんわりと温かくなる。

だが、その愛おしい平穏を引き裂くように、頭上からコツンと冷ややかな革靴の音が響き渡った。

[A:シリウス・ヴェルト:冷静]「寝不足、ね。相変わらず見え透いた嘘を吐くのが下手な男だ、レオン」[/A]

見上げれば、仕立ての良い漆黒の貴族風軍服コートを完璧に着こなした青年が、大樹の太い枝に腰掛けていた。

一糸乱れぬ金髪。右目に嵌められた知的な片眼鏡が、陽光を反射して冷たく光る。

シリウス・ヴェルト。この世界のあらゆる因果を冷徹に観測する者であり、かつて共に戦った数少ない親友。

[A:シリウス・ヴェルト:冷静]「魂を削り、存在の輪郭すら維持できなくなっている。その自覚はあるはずだ」[/A]

シリウスは重力を感じさせない動作でしなやかに着地すると、冷ややかな笑みを口元に浮かべたまま、ポケットから取り出した金製の懐中時計に目を落とした。

その指先が、静かに時間を告げる針を追う。

[A:シリウス・ヴェルト:冷静]「お前はもう、九千九百九十九回も同じ時間を繰り返した。魂の限界だ。次にお前が死ねば、世界は二度と巻き戻らない。待つのは完全な消滅だ。もう諦めろ。彼女の暴走と破滅は、この宇宙が定めた絶対的な特異点なんだよ」[/A]

その無機質な言葉は、凍てついた氷の楔となってレオンの胸に深く突き刺さる。

だが、レオンは荒々しくポケットから手を引き抜き、シリウスの胸ぐらを乱暴に掴み上げた。

衣服の擦れる鈍い音が響く。

[A:レオン・アルジェント:怒り][Shout]「黙れ……! 俺の命がどうなろうと、そんなことはどうでもいい! 俺がこの世界から塵になって消え失せようが、こいつが笑って生きる未来があるなら、それが唯一の正解だ!」[/Shout][/A]

シリウスの片眼鏡の奥にある瞳が、一瞬だけ痛ましそうに揺らいだ。

だがすぐに皮肉な笑みが消え、底知れない、静かな哀悼の光がその瞳に宿る。

[A:シリウス・ヴェルト:悲しみ]「……どこまで愚かなんだ、お前は。その独りよがりの自己犠牲が、どれほど彼女を精神的に追いつめているかも知らずに」[/A]

[A:レオン・アルジェント:怒り]「何だと……? どういう意味だ、それは」[/A]

[Sound]キィィィィィン――[/Sound]

シリウスの不可解な言葉を問い質そうとした瞬間、学園全体に鼓膜を裂くような非常警報の重苦しいベルが鳴り響いた。

黒い煤のような暗雲が急速に湧き出し、空が濁ったドブ川の色へと染まり始める。

[Think]バカな。暗殺教団の襲撃は、もっと先のイベントのはずだ。なぜ、もう始まっている……!? 因果の歯車が狂っているのか?[/Think]

第3章:因果の檻、鏡の裏の最悪の真実

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激しい金属同士の衝突音が、湿った地下室の冷気に響き渡る。

レオンは肩で荒い呼吸を繰り返し、崩れかけた煉瓦の壁に深く背を預けていた。

黒い制服はあちこちが引き裂かれ、生々しい傷口から溢れ出る生温かい血が、足元の床に小さな赤い水たまりを作っている。

周囲には、息絶えた暗殺教団員たちの骸が何十と転がり、鉄の臭気を放っていた。

星降る夜の祭典。その裏でステラを拉致し、暴走のトリガーを引くはずだった襲撃者たちを、彼はたった一人、ボロボロの身体で先回りして全滅させた。

これでいい。原因はすべて排除した。今度こそ、彼女を救える。

[A:シリウス・ヴェルト:冷静]「相変わらずの戦闘狂だね。だが、無駄な努力だと言ったはずだ、レオン」[/A]

冷たい闇の奥から、一切の足音もなくシリウスが姿を現した。

その手には、怪しく蠢く紫色の光を放つ、古い歴史書が握られている。

[A:レオン・アルジェント:冷静]「……無駄じゃねえ。邪魔者はすべて片付けた。これで、ステラが恐怖で心を壊し、暴走する引き金は完全に消えたはずだ」[/A]

[A:シリウス・ヴェルト:悲しみ]「本当に、心からそう思っているのか?」[/A]

シリウスは、凍てつくような哀れみを含んだ瞳で、血に濡れたレオンを見つめた。

その声は、残酷なまでに静かで、揺るぎがない。

[A:シリウス・ヴェルト:冷静]「お前は致命的な勘違いをしている。彼女が暴走するトリガーは『教団の襲撃による恐怖』などではない。ステラは星の魔女だ。彼女の魂は、お前が繰り返したすべての時間線を、無意識のうちに読み取っている」[/A]

[A:レオン・アルジェント:驚き]「……何を言っている? 意味が分からない」[/A]

[A:シリウス・ヴェルト:冷静]「まだわからないか? 彼女が絶望し、世界を滅ぼす怪物へと変貌する本当の理由。それは、お前が彼女を救うために『九千九百九十九回も、無惨に、無意味に死に続けた記憶』が、彼女の魂の深層に蓄積され続けているからだ」[/A]

[Impact]脳内を、落雷のような衝撃が駆け抜けた。[/Impact]

[A:シリウス・ヴェルト:冷静]「お前が血を流し、骨を粉々に砕かれ、彼女のために何度も何度も無惨に命を散らしていく。そのおぞましい光景と劇痛が、因果の糸を通じて、毎回路のように彼女の魂に直接書き込まれていたんだよ。お前が彼女を想って死ぬたびに、彼女の絶望は深く、黒く澱み、その巨大な魔力を暴走させていた」[/A]

シリウスの冷徹な声が、地下室の冷たい空気を支配する。

[A:シリウス・ヴェルト:悲しみ]「お前のその狂った愛と、歪んだ自己犠牲。それこそが、彼女を世界を滅ぼす怪物に変える、最大の猛毒だったんだよ、レオン」[/A]

[Glitch]最悪の真実。[/Glitch]

自分が積み上げてきた、九千九百九十九回もの苦痛と死。

彼女を救うための絶対の正義だと信じて疑わなかった行動すべてが、彼女を最も深く傷つけ、破滅の底へと引きずり下ろす原因そのものだったのだ。

[A:レオン・アルジェント:絶望]「俺が……俺のせいで、ステラは……何度も、何度も、心を殺されていたのか……?」[/A]

指先からすべての力が抜け、愛用の黒鉄の魔銃が床にカランと虚しい金属音を立てて転がった。

膝が激しく震え、自身の流した冷たい血の海に膝をつく。

視界が急激に歪み、世界のすべてが反転していくような、凄まじい嘔吐感に襲われた。

第4章:愛が世界を壊すとき

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[A:ステラ・クロノワール:恐怖]「レオン……? どうして、そんなところで傷だらけで倒れているのですか……?」[/A]

崩壊しかけた地下拠点の入り口に、白のワンピースを赤く染めたステラが、幽霊のように佇んでいた。

彼女は床に倒れた満身創痍のレオンと、周囲に転がる凄惨な死体の山を交互に見つめる。

その瞬間、彼女は頭を割られるような激痛に襲われたように両手で顔を覆い、激しく身体を震わせた。

[Pulse]ドクン、ドクンと、不穏で巨大な心音が、地下室の空間そのものを波打たせる。[/Pulse]

[A:ステラ・クロノワール:絶望][Tremble]「あ、あぁ……頭が、熱い……いや、嫌だ……ああぁぁぁぁっっっ!!」[/Tremble][/A]

彼女の金色の双眸から、知性の光が急速に失われていく。

どろりとした黒い涙が頬を伝って零れ落ち、背中から生えた漆黒の魔力翼が、空間の壁を切り裂きながら爆発的に広がった。

彼女の脳内に直接流れ込んでくる、九千九百九十九回分の『レオンが自分を庇って凄惨に死ぬ』記憶。

肉体が引き裂かれ、血を吐き、頭を撃ち抜かれ、それでも自分をまっすぐ見つめて消えていくレオンの姿。

[A:ステラ・クロノワール:狂気][Tremble]「嫌……嫌だ! 私のために、何度も、何度も、何度も! なぜあなたがそんな目に遭わなければならないのですか!? こんな、あなたを傷つける世界なんて……こんな世界、消えてしまえばいい……!」[/Tremble][/A]

ステラの周囲で、空間がガラスの板のようにパキパキと音を立ててひび割れていく。

瓦礫が重力を失って宙に浮き上がり、世界の強固な法則が崩壊を始めた。

[A:レオン・アルジェント:絶望]「違うんだ、ステラ! 聞いてくれ! これは、俺が勝手にやったことで……お前のせいじゃない……!」[/A]

満身創痍の身体を動かそうとするが、レオンの指先はすでに青白い光の粒子となって、サラサラと崩れかけていた。

もう、次の巻き戻し(リワインド)は使えない。使えば、存在の核すら壊れ、世界から自分の記録が完全に消滅する。

[A:ステラ・クロノワール:愛情]「こんな世界、いりません。あなたが何度も死んで、私を一人残して消えるくらいなら……私が、すべてを無に帰してあげます」[/A]

彼女が狂おしく両手を天に掲げると、中庭の空が真っ黒な渦を巻き、大気を吸い込み始めた。

すべてを消し去るための、終焉の魔法。

守りたいと願うあまりに世界を壊そうとする少女と、それを止める術を持たない、消えかけの少年。

[A:シリウス・ヴェルト:冷静]「……やれやれ。最後の最後まで、本当に救えない馬鹿どもだ、お前たちは」[/A]

シリウスが、懐から取り出した限界まで光り輝く魔導書を、空中へと放り投げた。

本が激しい黄金の輝きを放ち、ステラの暴走する黒い魔力を一時的に抑え込む、巨大な多重魔法陣が展開される。

[A:シリウス・ヴェルト:怒り][Shout]「動け、レオン! 私の寿命を賭けた魔力もこれが限界だ! お前が始めた歪な物語だ、お前自身の手でケリをつけろ!」[/Shout][/A]

シリウスの右目の片眼鏡がパキンと音を立てて砕け散り、その目から鮮血が伝い落ちる。

彼もまた、己の命そのものを削って、時間を数秒だけ強引に引き延ばしていた。

第5章:君の未来に、俺はいらない

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浮遊する無数の瓦礫を強く蹴り、レオンは狂ったように地を這う獣の如く走り出した。

吹き荒れる黒い魔力の暴風が、彼の皮膚を容赦なく切り裂き、銀髪を赤く染めていく。

全身の骨がミシミシと軋み、筋肉が限界を超えて悲鳴を上げる。

それでも、目の前でボロボロと黒い涙を流しながら破滅の呪文を紡ぐ、あの愛しい少女の姿だけを見つめていた。

[Sensual]

嵐の中心。レオンはついに彼女の元へと辿り着き、その細く冷え切った身体を、壊れやすいガラス細工を扱うように、強く、強く抱きしめた。

ステラの冷え切った身体に、レオンの傷口から流れる生温かい血の温もりが伝わっていく。

互いの心臓の激しい鼓動が、重なり合うように響いた。

[A:ステラ・クロノワール:悲しみ][Tremble]「嫌……来ないで、レオン! 私を殺して……お願いだから、私の心臓を貫いて終わらせて……!」[/Tremble][/A]

[A:レオン・アルジェント:愛情][Whisper]「……いや、お前は殺さない。絶対にだ」[/Whisper][/A]

レオンは人生で最も穏やかな微笑みを浮かべ、ステラの震える小さな右手に、自分の黒鉄の魔銃を無理やり握らせた。

そして、その冷たい銃口を、自らの胸元、心臓の位置へと正確に押し当てる。

[A:ステラ・クロノワール:恐怖]「レオン……? 何を、何を言っているのですか……? 銃を離して、お願い……!」[/A]

[A:レオン・アルジェント:冷静]「俺が死に続けた『記憶』が、因果となってお前を怪物にする。なら、簡単な話だ。その原因ごと、すべてを消し去ればいい」[/A]

[A:シリウス・ヴェルト:驚き]「お前、まさか……存在の完全抹消(イレース)をやる気か!? そんなことをすれば、お前がこの世界に生きた痕跡すら、人々の記憶からも完全に消えるんだぞ!」[/A]

遠くで、血を吐きながらシリウスが驚愕の声を上げた。

過去から未来に至るまで、レオン・アルジェントという人間の存在そのものを宇宙の因果律から完全に抹消する。

彼が最初から生まれず、この世に存在しなかったことになれば、彼が死に続けた記憶もすべてこの世から消える。

ステラが悲しみ、暴走する理由そのものが、最初から失われるのだ。

[A:ステラ・クロノワール:絶望][Tremble]「嫌です! そんなの絶対に嫌です! あなたが最初からいない世界なんて、私には……生きている意味がありません!」[/Tremble][/A]

[A:レオン・アルジェント:愛情][Whisper]「問題ない。これが、俺の導き出した、最高の最適解だ」[/Whisper][/A]

レオンはステラの目元に溜まった大粒の涙を、血に汚れた親指で優しく拭った。

そして、彼女の手の上から、自分の大きな手を重ねて包み込む。

引き金に、静かに力が入る。

[A:レオン・アルジェント:愛情][Whisper]「愛してるよ、ステラ。君の未来に、俺はいらない」[/Whisper][/A]

[/Sensual]

[A:ステラ・クロノワール:絶望][Shout]「いやあああああああああああああっっ!!」[/Shout][/A]

[Flash]カァァァァァァァン!!![/Flash]

引き金を引いた瞬間、レオンの心臓から放たれたのは、一切の澱みのない純白の光だった。

その圧倒的な光波は、ステラの背中の黒い魔力翼を優しく溶かし、世界を覆っていた漆黒のひび割れを、一つ残らず包み込むように修復していく。

レオンの身体が、足元から綺麗な、星のような光の粒子となってさらさらと消えていく。

[Blur]ステラの視界が、溢れ出る涙でぐちゃぐちゃに歪んでいく。[/Blur]

最後に彼女の網膜に焼き付いたのは、いつだってぶっきらぼうで不機嫌そうだった彼が、人生で一度も見せたことのないような、心からの、優しい笑顔だった。

第6章:星の降る朝に、まだ見ぬ君へ

[FadeIn]澄み渡るどこまでも青い空から、柔らかな朝の光が降り注ぐ。[/FadeIn]

温かな風が吹き抜け、小鳥たちの楽しげなさえずりが心地よく響いていた。

学園の緑豊かな中庭。

ステラ・クロノワールは、ベンチの上でゆっくりとまぶたを開けた。

深い青色の美しい髪がそよ風に小さく揺れ、彼女の胸元には星型の髪飾りが静かに、だが確かに輝いている。

[A:ステラ・クロノワール:驚き]「……あれ? 私、いつの間に眠ってしまっていたのでしょう」[/A]

ゆっくりと上体を起こし、周囲を見渡す。

誰もいない。ただ、自分が座っている木製ベンチの隣の席だけが、妙に広く感じられた。

不思議なことに、目から熱い涙がポロポロと溢れ落ち、頬を伝って制服のスカートを濡らしていく。

どれだけ手の甲で拭っても、涙は次から次へと溢れ出て、止まる気配がない。

[A:ステラ・クロノワール:悲しみ][Whisper]「おかしいですね……悲しいことなんて、何一つないのに。どうして、こんなに胸が締め付けられるように苦しくて、涙が止まらないのでしょうか……」[/Whisper][/A]

胸の奥が、ちぎれそうなほどに鋭く痛む。

とても大切な、絶対に忘れてはならない『何か』を失ってしまったような、圧倒的な喪失感。

だが、どれだけ記憶の引き出しを必死にかき乱しても、その場所には冷たい空白があるだけだった。

通りかかった金髪の青年――シリウスが、不思議そうにこちらを見て足を止めた。

その右目には、割れた片眼鏡ではなく、普通の眼鏡がかけられている。

[A:シリウス・ヴェルト:冷静]「どうしたんだい、ステラ。朝からそんなところで泣き崩れて。相変わらずおかしな女の子だな」[/A]

[A:ステラ・クロノワール:悲しみ]「シリウス先輩……。あの、私、何かとても大切な約束を、誰かと、していたような気がするのです。でも、どうしても思い出せなくて……」[/A]

シリウスは少しだけ眉をひそめ、何かを深く考えるように顎に手を当てたが、すぐに小さく首を振った。

[A:シリウス・ヴェルト:冷静]「気のせいじゃないか? 君は昔から少し夢見がちなところがあるからね。さあ、もうすぐ予鈴が鳴るよ。早く行こう」[/A]

[A:ステラ・クロノワール:冷静]「……そう、ですね。ただの、少し寂しい夢だったのかもしれません」[/A]

ステラは乱暴に涙を拭い、しっかりと立ち上がった。

ふと青空を見上げると、青く澄み渡る大気の中に、昼間だというのに一つだけ、ひときわ強く、優しく輝く星が見えた。

その眩しい光を見た瞬間。

彼女の耳の奥に、誰のものかもわからない、けれど酷く愛おしく、ぶっきらぼうな少年の声が響いた気がした。

[Think]『何度だって……君が笑う明日を、俺が創り出してやる』[/Think]

その声に呼応するように、彼女の心臓がドクンと熱く、力強く拍動する。

記憶は完全に失われた。

彼が命を賭して、魂を削って紡いだ軌跡も、彼という存在そのものも、この世界からは綺麗に消え去ってしまった。

世界を書き換えた明確な証拠も、誰も彼を称えることのない救いなき世界。

それでも、彼が泥をすすり、魂のすべてを薪として燃やしながら繋ぎ止めてくれた『未来』が、今、ここにある。

彼女の身体を温かく流れる血の鼓動、そして前を向く力強い一歩こそが、彼が確かに生きて、自分を愛してくれた証明だった。

[A:ステラ・クロノワール:喜び]「……はい。行きましょう、シリウス先輩!」[/A]

ステラは、涙の乾いた白い顔に、世界で一番美しい笑顔を浮かべた。

そして、空に輝く一等星にそっと背を向け、彼が遺してくれた希望に満ちた明日へと、力強く、一歩を踏み出した。

クライマックスの情景

【物語の考察】

本作は、ループものにおける「自己犠牲」の美学と、それがもたらす残酷な因果関係を鋭く描き出しています。主人公レオンが選択し続けた「彼女を救うための死」は、一見すると崇高な純愛ですが、それが無意識のうちに相手に伝播し、絶望を蓄積させる最大の要因(猛毒)になっていたというミッドポイントの捻りは、自己犠牲の本質的なエゴイズムを暴き出しています。最終的に、自らの存在そのものを歴史から消し去ることでしか「彼女が笑う明日」を実現できなかったという結末は、究極の愛であると同時に、決して交わることのないすれ違いの哀愁を描いており、読者の胸に深い爪痕を残します。

【メタファーの解説】

作中で登場する「魔銃」と「こめかみへの引き金」は、運命に抗うための強硬な意志と同時に、自分を傷つけることでしか他者を救えないレオンの精神的な歪みの象徴です。また、ステラの「漆黒の魔力翼」は、レオンが重ねた死の記憶と絶望が具現化したものであり、彼の愛が彼女を縛る呪縛となっていたことを示しています。最後にレオンが放った「純白の光」と「存在の完全抹消」は、すべての因果からの解放を意味し、彼の存在という「原因」が消えたことで、世界は「結果」としてステラが笑顔で生きる美しい朝を取り戻すことになります。彼女の涙と空に輝く一等星は、忘れ去られた英雄が遺した「希望」という名の揺るぎない痕跡なのです。

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